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第1164話

Author: 桜夏
理恵は、言葉を遮った。「橘さんね」

翼は、察した。「ダメだったのか?」

理恵は、この点について彼に嘘はつけない。同じ業界の人間で、しかも兄の友人なのだ。少し調べれば、すぐにバレてしまう。

理恵は、正直に言った。「うん、断られちゃった。私より八つも年上だから、釣り合わないって」

翼は、雅人が理恵よりそれほど年上だとは思わなかった。見た目では、全くそうは見えない。

しかし、八歳差など、大したことではない。何しろ、彼が直近で付き合っていた元カノとは、十歳近くも離れていたのだから。

だから、年齢は決定的な理由ではないはずだ。おそらく、橘社長は、ただ理恵が恋愛対象ではないと思っているだけなのだろう。

だが、その真実を、さすがに口にはできない。理恵にとって、あまりにも酷というものだ。

翼は、そう慰めた。「八歳差か、確かに小さくはないな。ちょっと離れすぎてるかもな。同年代の男にも、目を向けてみたらどうだ?」

理恵は内心、呆れて物が言えなかった。

はあ……こっちだと八歳差で離れすぎ?じゃあ、あなたと元カノの年の差は、八歳もなかったっていうの?

翼の、その自分を棚に上げた言い草には、呆れるしかない。やはり、男というのは勝手な生き物だ。

自分が付き合う時は、できるだけ若い子がいいくせに。成人しているかなんて、最低限のラインですらない。ただの、法律上の境界線だ。

理恵は言った。「同年代は、もういい。橘さんには断られたけど、私、やっぱり彼を諦めたくない。それに、透子も協力してくれるって」

その言葉に、翼は一瞬、動きを止め、思わず尋ねた。「もう、橘さんのこと、本気で好きになっちまったのか?」

理恵は言った。「そうみたいね」

それから、理恵は非常に真剣で真摯な口調で言った。

「今まで、他のどの男性にも、彼ほど強く惹かれたことはなかった。彼は、見た目は冷たそうだけど、本当は、すごく優しい人よ。

私を振るのは彼の自由だけど、彼を追いかけるのは、私の勝手なんだから」

その言葉を聞き、翼は、理恵が本気なのだと悟った。

「相手は、あの橘社長だぞ。プライベートな時間なんてほとんどない、仕事の虫だろうし。断られたのに、まだ追いかけるなんて、きっと……」

翼は彼女を諦めさせようとしたが、言葉の途中で、ふと口をつぐんだ。

自分に、そんなことを言う資格はないと思ったから
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