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第83話

Author: 桜夏
蓮司は我に返り、タブレットを裏返して置くと、書類を手に部屋を出た。

廊下を歩きながらも、頭の中では透子に関する様々な動画や写真が自然と再生され続けていた。ふと蓮司は思った。

透子は……本当に優秀だったんだな。どうして前は、気づかなかったんだろう?

いや、高校時代から成績優秀だった透子のことだ。大学に入れば一層輝きを増し、抜きん出た存在になっていたとしても不思議ではない。

自分も同じ大学だったとはいえ、学部も違ったし、何よりあの頃はずっと美月と一緒にいた。

そう考えると、蓮司は透子との四年間をまるごと無駄にしてしまったような気がした。あの時、あれほど近くにいたというのに……

そして、さらに突飛な考えまで浮かんできた。

もし当時、美月と付き合っていなかったら、大学時代に透子を好きになっていただろうか、と。

思わず指が強張った。だが会議が始まり、これ以上深く想像を巡らせることは許されなかった。

二時間後。

会議が終わり、昼食の時間となった。大輔が食事を手配していた。

昨夜も何も食べておらず、朝食も抜いた。今は空腹で目まいがするほどだったが、それでも食べ物を前にしても食欲はわかなかった。

なぜか何を見ても透子のことを連想してしまう。例えば、今手にしているこの肉粥のように。

粥は脂っこすぎる、調味料が多すぎるのだ。透子が作ってくれた粥は、ただ清らかで優しい甘い香りがするだけだったのに。

蓮司はスプーンをきつく握りしめ、唇を引き結び、自分自身に対して嫌悪感を覚えた。

どうした。今や透子が作ったものでなければ何も喉を通らないというのか?

もし透子が知ったら、どれだけ調子に乗って得意になることか。最近あいつの態度はますます大きくなっている。これ以上増長させてはならない。

冷ややかに鼻を鳴らし、蓮司は機嫌の悪い顔で、何かにつけ八つ当たりするかのように、あっという間に粥を飲み干した。

一睡もしていなかったが、精力は少しも衰えていなかった。昼休みもとらず、透子に関する資料を見続けた。

前後して、ほとんどの動画を二、三回は繰り返し見た。さらには透子の小学校の所在地や担任教師まで調べ上げ、まさに彼女の生い立ちを隅々まで把握したといえる。

午後二時、業務開始時刻になっても、蓮司の視線はタブレットから離れなかった。

「社長、こちらは午後にご署名いただく書
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