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第94話

作者: 桜夏
朝食が終わり、大輔も弁護士を連れて新井本家に到着した。

人が到着するや否や、蓮司は彼らを追い返そうとした。

「ほう、後ろめたいことがあると見えるな?三者で顔を合わせてはっきりさせれば、お前が透子を偽造犯扱いすることもできなくなるだろう」

新井のお爺さんは冷ややかに鼻を鳴らした。

蓮司は歯を食いしばり、目で弁護士に余計なことを言うなと脅し、さらにはこっそり携帯で筆跡は偽物だと言うようメッセージまで送ったが、それもお爺様にはお見通しだった。

新井のお爺さんは執事に命じて双方の弁護士の通信機器を全て預からせ、その場で原本を鑑定させた。

同時に、付き人に蓮司を制止させ、近づけないようにした。

最終的に、弁護士たちは一致した結論に達し、立ち上がって報告した。

「お爺様、これは確かに新井社長ご自身の直筆サインでございます」

まるで天が崩れ落ちてきたかのような衝撃を受け、蓮司はその場に立ち尽くし、目を赤く充血させて叫んだ。

「俺はサインなんかしていない!していないんだ!

あれは偽物だ、俺は認めないぞ!!」

大輔はヒステリックに叫ぶ蓮司を見つめ、心の中で静かにため息をつき、首を横に振った。

離婚協議書にサインしたのは社長ご自身なのに、離婚はしたくない。

しかし、新井のお爺さんも奥様も本気だった。

「提出についてはこちらで手配する。手続きが終わり次第、離婚協議書をお前のオフィスに届けさせよう」

新井のお爺さんは孫に告げた。

「やめてください、お爺様!そんなことは許しません!俺と透子は離婚なんかしていません!!」

蓮司は声を張り上げて叫んだ。

「最初に彼女と結婚しろと言ったのはお爺様じゃないですか!

今度は離婚しろだなんて、どうしてお爺様が全てを勝手に決められるんですか!!」

新井のお爺さんは顔を上げ、冷静な面持ちで言った。

「わしがお前に透子と結婚するよう強いたことは認めよう。だが、離婚協議書にサインしたのはお前自身だ。わしは一切干渉しておらん。

わしは今、ひどく後悔している。わしが犯した唯一の間違いは、一人の娘の二年という時間を犠牲にして自分の私欲を満たし、あの子をお前に嫁がせてしまったことだ」

蓮司は驚愕に目を見開き、お爺様の言葉が信じられないといった表情を浮かべた。

新井のお爺さんが……透子に自分と結婚するよう強いた?

透子が
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