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第1202話

Author: 小春日和
「石渕社長には及ばないわ。あの時、あなたが契約書を私に渡してくださらなければ、今日のような展開にはなっていなかったはずよ」

「なっ……?!」

真奈のその一言を聞いた冬城おばあさんは、即座に隣に座る美桜に顔を向け、激しい口調で言い放った。「あなたが司の株式譲渡契約書を真奈に渡したの!?なんてこと!この愚か者!」

怒りに任せて手を上げようとしたその瞬間、会議室のドアが開き、高島が素早く入ってきて、冬城おばあさんの腕を制した。

美桜はゆっくりと冬城おばあさんを見下ろしながら、冷たく言い放つ。「大奥様、今の私の手には冬城グループの10%の株式があります。ここで私に手を出すというなら、その結果も覚悟していただかないと」

「裏切り者め!もし私がその10%の株式を譲渡していなかったら、あなたに冬城グループの会議室に立つ資格なんてなかったはずよ!この卑怯者!恩を仇で返すとは!」

美桜は少しも動じることなく、冷え冷えとした声で言った。「高島、大奥様をお連れして。冬城グループに彼女の席はもうないわ。冬城家で静かに残りの人生を送らせてあげて。これ以上、表を出歩かせないように」

「……承知しました」

高島は冬城おばあさんの腕をぐいと掴み、そのまま会議室の外へと連れ出した。

美桜は、今度は真奈に視線を向け、冷静な口調で言った。「瀬川さん、見事な一手だったわ。たった一言で、45%の株式を他人に譲るなんてことを簡単にやってのけるなんて……今回は、私の負けね。でもあまり喜ばないことね。立花だって決して善人じゃない。人を信じすぎるのは、あなたにとって良い結果をもたらさないわよ」

そう言い残して、美桜は踵を返して会議室を出ようとした。だが、その進路に唐橋龍太郎が立ちはだかった。一瞬立ち止まった彼女の前に、真奈が一歩踏み出して言った。「石渕社長、まだお話ししていないことがあるでしょう?」

真奈は微笑んだ。

その笑みに不穏さを感じたのか、美桜は眉をひそめた。すると、真奈はすっと顔を近づけ、彼女の耳元でそっと囁いた。「……唐橋の情報、送り先は――高島でしょ?」

美桜は真奈を一瞥し、冷ややかに言った。「瀬川さん、何のことかしら?どんな情報の話?唐橋って誰のこと?聞いたこともないわ」

「石渕社長が洛城にいらした夜、株式契約書を手に入れても、必ずしも良いこととは限らないって言ったよね。
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