共有

第461話

作者: 小春日和
真奈は話の流れをさりげなく夫婦のことに向けた。案の定、折居夫人の表情にはほのかな哀しみがにじんだ。

「今じゃあの人、田沼家のお嬢さんになってますのよ。こんな場でも、私が顔を合わせなきゃいけませんね」

真奈が言っているのは浅井のことだった。折居夫人は、真奈と浅井の確執についてはすでに聞き知っていた。さきほど、大きなお腹を抱えた浅井が冬城おばあさんの前に現れたときも、どこか落ち着かない気持ちになっていた。

折居夫人は眉を寄せて、こう言った。「冬城家もどうかしてるんですわ。どうしてあんな女を平然と家に入れるのかしら。自分で離婚を拒んでおきながら、あんなふうに堂々と連れ回して……見てられませんわよ」

折居夫人が自分と同じ思いを抱いていると知って、真奈はさらに言葉を続けた。「冬城家から招待状をいただいても、折居夫人に久しぶりにお会いできなければ、私も来なかったと思います」

折居夫人は真奈の手の甲にそっと触れながら、柔らかく言った。「これからは、ふたりきりで会いましょう。こんな商売じみた集まりなんて、来る必要ありませんわ」

「ありがとうございます」

真奈は笑顔で頷いた。

「瀬川さん、大奥様がお呼びです」

そのとき、ひとりのメイドがやってきて、真奈を呼びに来た。折居夫人は顔をしかめると、落ち着いた声でこう言った。「瀬川さんとはまだ話の途中なの。大奥様には、私が少しだけお借りしていると伝えて。終わったらちゃんとお返しするわ」

折居夫人の意をくんで、メイドはそれ以上何も言わず、そのまま引き下がっていった。

真奈は微かに笑みを浮かべると、折居夫人と並んで少し離れた場所へ移り、会話を続けた。視線の端には、冬城おばあさんと浅井の姿が映っていた。メイドの言葉を聞いた冬城おばあさんは表情を曇らせ、そのそばで浅井が小声でなにやら慰めているのが見えた。

思わず真奈は心の中で呟いた。あれほど前回、冬城おばあさんと田沼会長が対立したというのに、まさか浅井を受け入れるとは——

冬城おばあさんの性格からして、よほど浅井が弱みを見せて、お腹の子どもを盾に赦しを乞わなければ、こんな場に連れ出すはずがないし、本邸に入れるなど到底あり得ないはずだった。

ただ、今のところ田沼会長も出雲も姿を見せていない。それだけは予想外だった。

「皆さま、本日お集まりいただいたのは、冬城家が長年お世話
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第1331話

    次の瞬間、伊藤が男の髪をかき上げると、それが誰なのか一目で分かった。「おおう!ずっと探してた出雲蒼星じゃないか?」久しぶりに会う出雲蒼星は福本家でよほど良い扱いを受けていたのか、以前の憔悴した様子はなく、体つきも少し逞しくなっている。以前に比べて、ずいぶん冷静になった。真奈が前に進み出て言った。「出雲社長、私に借りがあるのを覚えてますか?」借金の話が出た途端、出雲蒼星の感情が一気に昂る。立ち上がろうとするところを見て、二人のボディガードがすぐに彼を強く押さえつけた。「大人しくしろ!」身動きが取れない出雲蒼星を見て、真奈も相手が本人だと確信し、ボディガードたちに言った。「福本様は本当に誠意を見せてくれるわね。わざわざ私たちの仇を連れてきて、鬱憤を晴らさせてくれるなんて」「旦那様が仰っていました。こいつは瀬川さんが知りたがっている情報を持っているが、それを聞き出せるかどうかは瀬川さんの手腕次第だと」それを聞き、真奈はうなずいて言った。「その通りね」「おい!まさか、俺のこと売り飛ばすつもりじゃないよな!」福本英明は身をよじるが、ボディガードの拘束から逃れることはできない。その時、福本陽子もすでに二階から連れ出されてきた。状況を見て、リーダー格のボディガードが真奈の前に進み出る。「瀬川さん、出雲蒼星は引き渡しました。うちの若旦那様とお嬢様を連れて帰ってもよろしいですね?」真奈はボディガードの後ろに捕えられた福本英明と福本陽子に目をやり、尋ねる。「あなたたちは帰りたいの?」福本英明はぶんぶん首を振る。「嫌だ!死んでも帰りたくない!」福本陽子も口を揃える。「そうよ!まだ遊び足りないもの!私も帰りたくない!」真奈はため息をつく。「でも、人を受け取ってしまった以上、顔を立てないわけにもいかないし……」彼女は困り果てた様子で二人を見る。「悪いけど二人とも、一旦戻ってもらえないの?」それを聞き、福本英明は目を丸くして怒鳴る。「瀬川真奈!たかが出雲蒼星一人のために、俺たちを売るのかよ!あんまりだろ!」「少しの間だけよ。二度と戻れないわけじゃないでしょ?」「次に戻って来られるのがいつになるか、わかったもんじゃないよ!」福本英明の言葉に、そばにいた幸江は思わず吹き出してしまった。真奈が話を続く。「それじゃ面倒をか

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第1330話

    「道理で……」真奈はうつむき、顔を上げて尋ねた。「さっき、お母様が私を見て『真奈さん』って呼んでくれたの。私のことは覚えているのに、なぜ遼介のことを『茂さん』って呼んだのかしら?」黒澤と佐藤茂は似ても似つかない。真奈の心には疑問が渦巻いていた。伊藤がバックミラー越しに黒澤を一瞥し、曖昧な口調で言った。「さっきも言った通り、母さんはぼんやりすることが多いから。よく覚えていないことも多いし。佐藤茂のことをずっと気にかけてたから、つい口に出ちゃったんだろ。いちいち気にしなくていいよ」幸江が真奈を見て言った。「でも確かに不思議ね。佐藤家の誘拐事件は、当時は結構大騒ぎになってたのに、真奈、知らなかったの?」真奈は首を振って言った。「覚えていないわ。あの頃はまだ小さかったし、七、八歳以前のことはあまり覚えていないの。もしかしたら、子供の頃出した高熱のせいかもしれない」黒澤が淡々と言った。「今更そんなこと話しても仕方ない。帳簿は手に入れたのか?」「手に入れたわ!私が行ったんだもの。手に入らないわけないでしょう?」そう言いながら、幸江は懐に隠していた帳簿を取り出した。「どう?すごいでしょ!」伊藤が言った。「すごいすごい。壁を乗り越え、錠を開けるなんて、本当に感心するよ」幸江が伊藤を叩いて言った。「私がいなかったら、あなたどうするつもりだったのよ!」「そうだそうだ!今後もし鍵を忘れたら、奥様に開けてもらわなきゃな」と伊藤は相槌をうった。伊藤と幸江の会話を聞いて真奈は思わず笑みをこぼした。やがて車は佐藤邸の門前に到着した。真奈たちが佐藤家の大広間に入ると、二人の黒服のボディガードが福本英明の腕を押さえつけているのが見えた。「いやだ!俺は帰らない!何があっても帰らないぞ!」「彼を放して!」幸江が前に出て、腕まくりをしようとした時、真奈が言った。「二人とも、話し合いで解決しましょう。まず彼を放してください」ボディガードたちは、真奈が彼らの正体を見抜いたと悟り、顔を見合わせたが、福本英明を放そうとはせずにこう言った。「瀬川さん、どうか私たちを困らせないでください。私たちも命令で動いているだけです。それに来る前に、すでに佐藤さんの許可を得ています」真奈は淡々と言った。「佐藤さんの許可ですって?病に臥せっているいる彼がど

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第1329話

    『カタン!』突然、恭介は湯呑みを置き、眉をひそめて夫人を見ながら言った。「何を言ってる?こちらは黒澤家の当主だ、茂じゃない」夫人はぽかんとし、目の前の黒澤を見て尋ねた。「茂さんじゃないの?でも真奈さんは……」「もういい、茶が冷めた。淹れなおしてくれ」恭介は急須を夫人に押し付けた。夫人はまだ何か言いたげだったが、彼は使用人に、「夫人を連れて行け」と命じた。「はい、旦那様」使用人が近づき、夫人を上の階へ連れて行った。真奈は夫人が少し歩いては振り返り、こちらを見つめているのを見て、不思議に思った。恭介は冷ややかな口調で言った。「見苦しいところを見せて申し訳ない。彼女は十数年前に大病を患って以来、精神状態が不安定で、支離滅裂なことを口にするんだ」「十数年前?」真奈は鋭く話の核心を捉えた。恭介が顔を上げて言った。「ただの病気だ、深く考える必要はない」その時、傍らにいたメイドが近づいて伝えた。「旦那様、夕食の準備が整いました」「二人ともせっかく来られたのだから、夕食を食べて行きなさい」恭介はメイドに、「智彦と美琴さんにも食卓に着くよう伝えろ」と言った。「はい、旦那様」メイドが伊藤を呼びに行こうとするのを見て、真奈はこっそり黒澤の腕を押した。黒澤は真奈を安心させるため、彼女の手の甲を軽く叩いた。彼らが伊藤と幸江のためにこれだけの時間を稼いだのだから、もう十分だろう。案の定、部屋の隅から伊藤と幸江が前後に分かれて裏庭から駆け込んでくるのが見えた。幸江が盛んに真奈に目配せするので、二人が目的を果たしたことがわかった。真奈は黒澤の手を引いて立ち上がって言った。「おじ様、せっかくですがお食事は遠慮します。用事がありますので、そろそろ失礼します」「そうか」恭介も二人を引き留める様子はなく、二人を見送る素振りも見せなかった。真奈が伊藤と幸江に目配せすると、二人も察して前に進み、幸江が言った。「おじ様、お邪魔しました」恭介は軽く頷いた。伊藤も前に出て言った。「父さん!そろそろ行くよ」恭介は全く反応を示さなかった。「……」すぐに、伊藤は三人を連れて伊藤家を後にした。車に乗り込む時、幸江がようやく口を開いた。「あの人、あなたのお父さんには見えないわ」「だろ?俺の方がずっとイケ

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第1328話

    「私を疑うのか?」「いいえ。ただ、今四大家族の秘密をご存知なのはおじ様一人だけです。私たちは今追い詰められていて、だからどうしてもお伺いしたかったのです。おじ様は……私たちに隠し事はなさらないでしょう?」恭介は真奈と黒澤が情報を聞き出さない限り帰るつもりがないと悟り、重い息を吐いて言った。「こっちに来て座りなさい」真奈と黒澤は顔を見合わせ、恭介の前に座った。恭介は二人に茶を淹れさせながら言った。「伊藤家がこれまで安泰だったのは、四大家族に干渉しなかったからだ。いいか、四大家族に執着するな。四大家族を神格化するな。四大家族は百年前、四人の熱き若者が一時の情熱で作り上げたただの看板に過ぎない。海城に宝などない。これ以上探す必要もない」真奈が言った。「もし四大家族に秘密がなく、海城に宝がないのなら、黒幕が長年計画を練り、これほど多くの命を奪い、罠を仕掛けるはずありません。おじ様、私たちは子供じゃありません。四大家族と海城の秘密は本当に重要なことなんです」そう言って、真奈は懐から宝石を取り出した。「この宝石、見覚えはありませんか?」恭介は青い宝石を見て眉をひそめた。真奈は元々三つ持っていた。一つは冬城おばあさんから受け取ったもの。もう一つは黒澤がくれたもの。そして三つ目は泰一から託されたものだ。真奈は、四大家族には四つの宝石があるはずだと推測していた。しかし今彼女の手元にあるのは三つだけ。最も重要な最後の一つは、伊藤家にあるはずだ。恭介が言った。「この宝石は、確かに我が伊藤家にもあった。だが……ずいぶん前に、失くしてしまった」「失くした?なぜ失くしたんです?」真奈は尋ねた。「失くしたものは、失くしたのだ。どこかに落としたか、誰かに盗まれたか。とにかく、もう伊藤家にこの宝石はない。恐らく、それが我が伊藤家がこれまで難を逃れてきた理由だろう」恭介は淡々と話した。恭介の言葉を聞いて、真奈は納得がいかなかった。彼女が質問しようとすると、黒澤が彼女の腕を押さえ、これ以上質問を続けないように合図した。そして二階から、顔立ちの整った中年女性が降りてきて言った。「お客様がいらっしゃったの?」その声はとても美しく、真奈が顔を上げると、五十歳ほどの中年女性が降りてくるのが見えた。伊藤夫人は彼女に向かって

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第1327話

    真奈が口を開いた。「あなたはこの家に馴染めていないようね」「それは俺が人として落ち着いているからだ!俺は新時代を生きる若人だからな!」「……」伊藤は三人を連れて伊藤家の門内へと入っていった。広間ではメイドが掃除をしていた。伊藤家の屋敷はまるで巨大な博物館のようで、所狭しと貴重な収蔵品が並べられていた。真奈がざっと目をやっただけでも、これらの品々は全て価値のある本物で、陶磁器から置物まで、全て百年以上前の骨董品だ。古代なら王侯貴族しかこれらの品を手にできなかっただろう。そして伊藤の父親は、これらの品々全てを目に見える場所に飾っている。盗難を恐れていないということだ。真奈がこれらの収蔵品を見ていると、壁一面に並べられた様々な珍石に気付いた。それらの石は、高価な翡翠や宝石以外に、彼女が見たことのない品種が多くあった。真奈が近づいてさらに見ようとした時、伊藤の父親が収蔵室から姿を現した。「君たちは……」伊藤恭介(いとう きょうすけ)は眉をひそめた。彼は均整の取れた体格で、五十歳を過ぎているにもかかわらず、眉目には若い頃の端正な面影が残っていた。「父さん、こちらは瀬川真奈さん、こちらは黒澤遼介!こっちは美琴さん、前に会ったことがあるだろ」伊藤が横で三人を紹介した。恭介は伊藤を一瞥することもなく、冷ややかな声で言った。「知っている。有名な黒澤社長と、Mグループの瀬川社長だな」この一言で、彼らの距離が一気に開いた。そう言うと、喬佑は傍らへ移動し、手に持っていた収蔵品を展示ケースに収めながら言った。「何が用があって帰ってきたのか?」真奈は伊藤の父親が息子に対して友好的ではないと予想していたが、これほどまでに気まずい雰囲気になるとは思ってもいなかった。伊藤は咳払いをし、それから真奈を見た。まるで彼女にこの気まずい空気を和らげるよう促しているようだった。世間話をするかと思いきや、意外にも真奈は単刀直入に切り出した。「今回はおじ様に、海城の秘密について伺いに参りました」その言葉を聞いた伊藤は思わず息を呑んだ。一方、収蔵品を拭いていた伊藤恭介の手がぴたりと止まった。父が黙り込むのを見て、伊藤はタイミングを計り、傍らの幸江を肘で軽く突きながら言った。「……なあ、前に俺の子供の頃の写真を見たいって言ってたよな?

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第1326話

    警備員は伊藤をじっと見て尋ねた。「どちら様ですか?」伊藤は真奈と黒澤の前で体面を保ちながら言った。「……お前、目が見えないのか?俺が誰だかわからないだと?俺はこの家の息子だ!」それを聞いた警備員は真剣な表情で言った。「身分証明書を見せてください!」伊藤はこの言葉にカッとなった。「自分の家に入るのに身分証明書が必要だと?!」「申し訳ありませんが、あなた様の身元が確認できません。万が一偽者だった場合、中に入れたらクビになってしまいます!」警備員は実に真剣に言った。伊藤はポケットから本革の財布を取り出し、それをひらつかせながら言った。「これがわかるか?ブランド物の財布だ、百万円以上する」「……」伊藤は財布を開き、中のカードを見せた。「ほら、俺のクレジットカードと銀行カードだ!一般人なら、こんなにカードを持ってないだろ?」「……」警備員は再び真面目な顔で言った。「身分証明書を見せてください!」「俺が身分証を持ってないと思うか?」伊藤が門前で警備員とやり取りしているのを見て、幸江は車のドアを開け、彼の隣に来ると警備員の手に身分証を押し付けて言った。「これでいいでしょ?早く通して!」警備員は伊藤と身分証の写真を入念に照合した後、ある機械を取り出した。その機械を見た伊藤は呆然とした。幸江も呆然とした。警備員は真剣な面持ちで身分証をスキャンし、偽物でないことを確認すると、ようやく道を開けて伊藤と幸江に言った。「若旦那様、お嬢様、どうぞお入りください」「友達も一緒なの」そう言って、幸江は後方を指差した。真奈と黒澤が車から降りた。警備員は再び丁寧に近づき、言った。「お二人様、身分証を……」身分証という言葉を言い終わらないうちに、警備員は冷たい視線で背筋が凍るような感覚に襲われた。それは黒澤の視線だった。警備員はゴクリと唾を飲み込んだ。伊藤が言った。「こちらは黒澤グループの社長と、Mグループ兼瀬川家の瀬川社長だ。これでもまだ身分証が必要か?」「いいえ!結構です!」警備員はへつらった笑顔で鉄の門を開けた。真奈が中に入りながら言った。「伊藤様、あなたの家の敷居はなかなか高いんですね」幸江が言った。「確かにそうね。一般人じゃ伊藤家の門はくぐれないわ」伊藤が言った。「しきたりがうるさい

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status