瑛斗side
「そういえば、玲のお義父さんもうすぐ誕生日だよな。今年は還暦だから、お祝いに伺いたいんだけど予定を聞いてもらえないか?」
俺は、玲の行動を探るために空から聞いた情報を元に揺さぶりをかけた。玲は、俺の言葉に一瞬だけ動きを止め、驚きと警戒心が入り混じった表情で俺を見た。
「え、別にいいわよ。私一人で行ってくるわ」
俺の言葉が、彼女の警戒心を刺激したようだ。
「玲は、日頃から実家には行っているのか?」
「…………え、ええ」
玲は一瞬の沈黙の後、曖昧な返事をした。
「おじいさまがこのところ調子が悪いみたいなの。だから顔を出しているわ」
「そうなのか、知らなかった。いつ行っていたんだ?それなら、俺も一度見舞いに行きたい。今度玲が行く時に一緒に行くよ」
「いいわ、家族以外だと気を張って疲れてしまうみたいで面会はすべて断っているの。だから瑛斗も来なくていいわよ。それに、調子が悪いといっても加齢で重病じゃないし」
(家族以外か…&hell
「ママが来たら、私たちすっごく怒られちゃうの。だから、あんまり怒らないであげてって言って欲しいんだ」自分たちのしたことを分かっているのだろう、心配をかけたことで怒られると思い、俺に援助を求めてくる姿がいじらしかった。その必死さに俺は思わず笑みがこぼれた。「そうか、怒られるのが怖いんだな。分かった。じゃあ、ママが来たら少しだけお話しさせてもらえるかな。その時に、二人のことを怒らないようにちゃんと言っておくから」「うん!!!!」二人はホッとしたような声で、元気よく返事をした。その時、遠くからこちらに向かって走ってくる華の姿が見えた。いつもはワンピースで清楚な格好が多い華だが、この日はデニムにスニーカーと動きやすい格好をしている。それほど、必死で探し回っていたのだろう。「慶、碧!!!!!!」華は、二人を見つけると、全速力で駆け寄り強く抱きしめた。その目からは涙がとめどなく溢れ出していた。「心配したんだよ、良かった、本当に良かった……」「うあーーーん、ママ、ごめんなさい」「ママ、心配かけてごめんね、怖かったよー」
瑛斗side「慶くん、碧ちゃん、お迎えが来たよ!帰ろうか」俺が迎えに行くと、婦警さんに手を引かれた慶と碧が、笑顔で俺の前に現れた。二人の顔に、不安や恐怖の色は見られない。俺は安堵の息を漏らし、婦警さんにお礼を言ってから、子どもたちを連れて警察署を後にしてから華に居場所をメールした。ここからなら三十分位で着くだろう。「何か飲むか?」急いで来たため喉が渇き、警察署の近くの自販機でコーヒーを買うついでに子どもたちに聞くと、「りんごジュース!」と元気よく返ってきた。ジュース2本と缶コーヒーを持って、子どもたちが腰掛けるベンチに一緒に座った。「それにしても、なんで急にいなくなったりしたんだ?」俺が尋ねると、気まずそうにしながら慶が伏し目がちにして答えた。その横顔は、華にそっくりで、思わず華と重ねてしまった。「あのね、僕たちが幼稚園のバスから降りたら反対側から違うバスが来て、乗ったことないから乗ってみたかったの。あと、ママがみーみのおうちにいると思って内緒で行って驚かせたかったんだ」(みーみ、とはきっと三上のことだろうな。)「みーみの家は知っているのか?」「う
華side「慶、碧、どこにいるの?無事でいて!!!」私は、祈るような気持ちで二人の無事を願いながら必死に探した。胸が張り裂けそうで呼吸すらままならない。早く見つけてあげなければと焦る中、ポケットに入れていたスマホがブルブルと震え出した。二人が見つかったという連絡かと思い、慌てて取り出した。だが、画面に表示されていたのは、『瑛斗』という予想もしない名前だった。「もしもし」こんな時になんだろうかと思いながらも電話に出ると、瑛斗は運転中のようでETCを通過する時のアナウンスが微かに聞こえてきた。「子どもたちがいなくなったんだろう」瑛斗の言葉に、私は息をのんだ。「なんで、どうして瑛斗がそれを!?」私の声は、驚きと混乱で上ずっていた。「さっき警察から俺のところに連絡があった。迷子で警察署に保護されているらしい」「え……」子どもたちが無事だという安堵と、なぜ彼がそれを知っているのかという混乱が私の中に一
瑛斗side会議が終わり、社長室に戻り一息ついている時のことだった。静かな部屋に、スマートフォンの着信音が鳴り響いた。画面に表示されたのは、見慣れない市外局番だった。「もしもし、一条です」俺は、警戒しながら電話に出た。「あ、こちら長野警察ですが……」警察、という言葉に、俺は思わず背筋が凍った。(警察が一体俺に何の用だと言うんだ?)「神宮寺慶さんと碧さんという双子のことをご存知でしょうか?」神宮寺という名前と、双子という言葉を聞いた瞬間、俺の心臓はさらに激しく脈打った。華と子どもたちに何かあったのだろうかと、嫌な予感が頭をよぎる。「あ、はい。知っています。二人が何か?」冷静を努めていたが、心の中では嵐のように感情が荒れ狂っていた。「実は、迷子になってこちらで預かっているのですが、母親の連絡先が分からないようなんです。代わりに、カバンの中からくしゃくしゃになって出てきた折り紙に、この番号が書かれていまして、『この番号の人ならママの連絡先を知っている』と言うんです。ご存知でしょうか。あと、
華side「なに?久保山、一体何があったの?」私の問いかけに久保山は言葉を詰まらせ、そして絞り出すように言った。「そ、それが……慶様と碧様の行方が分からなくなりました」「え……どういうこと?」その言葉を聞いた瞬間、顔から一気に血の気が引き、顔面蒼白となる。スマホを持っていた手が震える。もう片方の手で支えて、落としそうになるのを必死に堪えていた。(子どもたちがいなくなった……?)信じられない言葉が何度も脳内を駆け巡る。私は、子どもたちに何かあったら、と考えると呼吸すらできなくなった。「それが、家政婦が迎えに行ったときにちょうど反対車線に路線バスが走っていまして……。慶様と碧様はバスに駆け寄って走っていってしまいました。家政婦が追いかけるも、二人の速さに追いつけず、お二人は他の乗客と一緒にバスに乗って行ってしまったそうで。それで……」「それで、どうしたの?」いても経ってもいられず、久保山が話す言葉をつい急かしてしまう。「家政婦から連絡を受けて、バス会社にも連絡
華side平穏な日常にいると、この生活が続くのが当たり前という錯覚を起こしてしまう。しかし、その日常は当たり前ではなく、突如として音を立てて崩される時もあるのだ。火曜日。この日は護さんが仕事のため、朝早くから東京へと向かった。長野から高速道路を使っての移動を考えると東京で暮らした方が便利なのに、この生活を続けるのは、少しでも私たちと一緒にいたいという護さんなりの優しさと愛情だ。久々に一人で過ごす時間ができたため、私は運転手に頼み、少し離れたショッピングモールへと連れて行ってもらった。護さんは少しでも時間が出来ると会いに来てくれるが、私自身としては、たまには一人の時間も楽しみたいという気持ちもあった。夕食前には戻る予定だったが、お迎えの時間には間に合いそうになかったので家政婦に頼み、久々のひとり時間に羽を伸ばしていた。トレンドが並んだ煌びやかなショーウインドウを歩き、新作コスメを試させてもらい、甘い香りの紅茶をゆっくりと味わう。家では母親に徹しているが、今日は一人の女性に戻った気分だった。それでも子どもたちのことが気になって、新作のリップ以外に買うものは子ども服ばかりだ。可愛らしいキッズ用品を取り扱う店ばかりに目がいく。羽を伸ばしても、自分は母親なのだと実感させられる。結局、予定よりも早く切り上げて別荘に戻っている最中のことだった。プルルルル……車の後部座席でう