Share

143.玲と瑛斗、夫婦の溝

last update Last Updated: 2025-08-25 21:57:51

瑛斗side

「そういえば、玲のお義父さんもうすぐ誕生日だよな。今年は還暦だから、お祝いに伺いたいんだけど予定を聞いてもらえないか?」

俺は、玲の行動を探るために空から聞いた情報を元に揺さぶりをかけた。玲は、俺の言葉に一瞬だけ動きを止め、驚きと警戒心が入り混じった表情で俺を見た。

「え、別にいいわよ。私一人で行ってくるわ」

俺の言葉が、彼女の警戒心を刺激したようだ。

「玲は、日頃から実家には行っているのか?」

「…………え、ええ」

玲は一瞬の沈黙の後、曖昧な返事をした。

「おじいさまがこのところ調子が悪いみたいなの。だから顔を出しているわ」

「そうなのか、知らなかった。いつ行っていたんだ?それなら、俺も一度見舞いに行きたい。今度玲が行く時に一緒に行くよ」

「いいわ、家族以外だと気を張って疲れてしまうみたいで面会はすべて断っているの。だから瑛斗も来なくていいわよ。それに、調子が悪いといっても加齢で重病じゃないし」

(家族以外か…&hell

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー   362.目的②

    空side「情報提供ですか。たしかに最近のSNSを含めた拡散力は、既存のメディアを凌駕するほど凄まじいものがありますからね。ただ、その力は一度火がつくと制御不能になり、当事者が思ってもみなかった方向に動くこともある。非常に危うい刃だとは思いませんか?」僕が牽制を含めて問いかけると、彩菜さんは手に持っていたシャンパングラスを軽く揺らし、黄金に輝く液体を見つめながら答えた。「確かに、誤った見解で暴走する方も中にはいらっしゃるでしょう。ですが、確率で言えばそれは一部に過ぎません。そのリスクと、情報を享受することで得られる莫大なメリットを天秤にかける必要があります。……もっとも、その情報の内容や重大性によっては、警察や税関が動くような『大事』に発展する可能性もありますけれど」「……随分と物騒な話ですね。警察や税関だなんて、まるでサスペンスドラマの中の事件のようだ」「ええ、これは事件ですわ。そして、決してドラマなんかじゃありませんのよ、相原専務」彩菜さんの声のトーンが一段下がり、周囲の喧騒が遠のくような錯覚に陥った。彼女の瞳には一切の迷いがない。「リスクにも勝る情報提供とは、具体的にどのようなことをお考えなのですか?」「それは、聡明な相原専務の頭の中にも既に浮かんでいるのではありませんか?…&hell

  • 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー   361.目的①

    空side都内の高級ホテルで開催された王氏の講演会の会場には政財界の重鎮たちが顔を揃え、独特の緊張感と華やかさが入り混じっていた。僕は瑛斗の代理として、一際目を引く華やかなドレスを纏った芦屋彩菜さんの元へ歩み寄った。「本日はお招きいただき、ありがとうございます。一条からも事前に連絡があったかと思いますが、本日、代理で参加させていただきます相原です。よろしくお願いいたします」僕が丁寧に挨拶をして名刺を渡すと、彩菜さんは一瞬だけ瑛斗が来なかったことに落胆したような表情を浮かべた。だろう。しかし、彼女はすぐに笑顔を作り、自分の名刺を差し出して名刺交換に応じた。「相原専務ですね、今日はよろしくお願いします。一条社長が来られなくて残念ですが、どうぞよろしくお伝えください」「ええ、一条もこちらの講演会に参加するのを非常に楽しみにしておりましたので、本人はとても残念がっておりました。急な用件が入りまして」「あら、そうですの。最近のあの騒動を気にして人目を避けていらっしゃるのかと思いましたわ。もしそうなら、そんなに気にせず参加すればいいのにと思っていましたが、それなら仕方ありませんね」扇子で口元を隠すように笑う彩菜さんは、瑛斗が懸念していた通り、事態の深刻さを全く感じていないようだった。それどころか、このスキャンダルを楽しんでいるようにさえ見えた。「仕事面以外で世間の注目を集

  • 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー   360.対峙

    瑛斗sideコンッ、コンコンッ――――翌日の午前八時半。まだ出社している人間が少なく静寂としたフロアに社長室のドアをノックする音が鋭く響き渡った。返事をすると、空が落ち着いた表情で立っていた。「空、朝早くにすまない。頼みがあるんだが、来週の火曜日、彩菜さんに招待された王氏の講演会を俺の代わりに出席してくれないか。今、彼女と公の場で接触することは、火に油を注ぐようなものだ」空は少しだけ目元を緩めてからしっかりと頷いた。「……そうだね、分かったよ。今、瑛斗が彼女に会うのはリスクが大きすぎる。彩菜さんには僕から挨拶してくるね」空は笑っているが、その笑顔の裏には何か底知れない計算が渦巻いているようで、もし彼が味方でなかったら恐ろしく感じるほどの威圧感があった。俺は、その頼もしさに救われる思いで小さく口角を上げた。「今回のスキャンダルの件、空はどう思う? 偶然にしては出来すぎている」「瑛斗や彩菜さんは、経済メディアには顔を出しているけれど、本来は一般人だ。その二人が熱愛記事を取り上げられるのは、違和感とを感じるね」「そうだよな。今まで雑誌に載ることはあっても

  • 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー   359.接近②

    華side「私が、もっと早く言って片づけを代われば良かった。華さんの綺麗な手を怪我させてしまい、すみません。消毒液をかけますので、少し沁みますよ」先生は丁寧に傷口を洗い流し、清潔なハンカチで私の指をギュッと握って止血してくれた。「いえ、私の不注意でご迷惑をおかけして、本当にすみません……」「それはいいんです。誰だって心が沈む日はある。……実は、今日、華さんが大丈夫かずっと気になっていたんです」「え……それは、どういう?」「ごめんなさい。実は、ここに来る途中でコンビニに寄ったら、週刊誌の気になる見出しを見つけてしまって読んでしまいまして。……だから、もし華さんの元気がなかったら、何か僕に出来ることはないか、ずっと考えていたんです」先生もあの記事を見たことに心臓が嫌な音を立てて跳ね上がった。「そうでしたか、ご心配おかけしてすみません。お心遣いありがとうございます」絆創膏を貼り終えて、私は小さくお礼を言ってから手をあげようとすると、先生は私の手を握ったまま離そうとはしなかった。指先に先生の温かい熱がじんわりと伝わってくる。

  • 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー   358.接近

    華side「華さん、大丈夫ですか? 手が止まっていますよ」ふと気を抜くと、今朝コンビニで読んだあの週刊誌の記事のことばかりが頭の中で回想してしまい、私の心を不安にさせていた。北條先生は、私の様子がおかしいことに気づいたのか心配そうな眼差しで私を見つめていた。「ああ、北條先生。すみません、大丈夫です。少し考え事をしてしまって……」「お疲れのようですし片付けが終わったら、気分転換に少し甘いものでも食べて休憩しませんか? 」そう微笑む北條先生に、ぎこちないながらも笑顔で返して、私はレッスンの片付けに集中しようとした。しかし、心がざわついて指先がうまく動かない。注意力が散漫になりながら、陶器で出来た茶器を洗うため、お盆に乗せて立ち上がった時、数日前の水族館の光景が脳裏をよぎった。(あの水族館へ行った日が、四人で過ごす最後の日になってしまうのかな……。あの時の瑛斗の笑顔も私への言葉もすべて嘘だったの?)

  • 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー   357.彩菜の思惑②

    瑛斗side「何度も言いますが、私ではありませんわ。一条社長は、何をそんなに必死になっていらっしゃるのでしょうか?」俺の指摘に彩菜は小さく笑いながら否定をした。その笑い声には、俺の焦りを冷めた目で見下すような呆れた侮蔑的な響きが含まれていた。「彩菜さんは問題なくても、少なくとも私には大きな支障があるんです。私には、命に代えても守りたい家族がいる」「でも、この記事をうまく使えば、姿が分からなくなった元奥様を探すことも出来るかもしれない……そうは思われませんか? 」「……何を言っているんだ。今後の対応については、こちらから改めて連絡させてください。失礼します」俺は、これ以上彼女と話しても平行線だと悟り、必死に込み上げる苛立ちを抑えながら電話を切った。受話器を置いた手が微かに震えている。(やっぱり芦屋彩菜は怪しい。彼女は何かを隠しているに違いない。こんなくだらないゴシップ一つで、俺と華がようやく積み上げ直した関係を壊されてたまるものか)昼過ぎに華へ送ったメッセージは夕方になっても返信はなく、既読にすらなっていなかった。スマホの画面を見つめるたびに、心臓が冷たく締め付けられる。本当は今すぐ華の元へ駆けつけ、直接彼女の顔を

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status