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第四章:初めての恋に祈りを込めて①

Auteur: 七森香歌
last update Date de publication: 2026-08-18 20:07:52

「――何だって言葉にしてくれないとわからないじゃないですか!」

「言葉……」

 声を荒らげる澄花に、時雨はそう反芻した。澄花の声が渦を巻いて水を伝播していく。そうですと頷くと、澄花は言葉を続けていく。

「わたしは時雨様が何を考えているか、話してほしいです! なんで時雨様がわたしを避けているのかだって、この前のお菓子が口に合ったかどうかだって、ちゃんと全部、知りたいです!」

 澄花、と彼女の名を呼んだ声が掠れた。彼女はこうして自分の気持ちを言葉にしてくれた。ならば、自分もその想いに応えるべきだ。漣にも自分の心に正直になるようにと諭されたばかりだ。

「――笑わないで聞いてほしい。それに、私は君が思っているような男ではないかもしれない。……きっと、君はがっかりする」

「笑いませんよ。それに、時雨様についてのお話は紅雨こうう様からいろいろと伺っていますから、今更何を聞いたところでがっかりしたりなんてしません。――だから、話してください。他でもない時雨様ご自身の言葉で」

 わかった、と時雨は首を縦に振った。こんなことを口にするのは情けないし、居心地が悪い。それでもと意を決す
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  • 雨女と水神の契約結婚   第六章:見えない銀河に幸せを祈る②

     秋水が朝餉の盆を下げに来たのと入れ替わりで誰かが訪ねてきたのに気付き、漣は背後を振り返った。障子に映る小柄な影は時雨のものではない。漣は誰何を問うた。 「わたし……澄花です。漣さんに聞きたいことがあって来ました」  どうしたものかと漣は逡巡する。謹慎中だというのに、あまり勝手なことをしては更に時雨や紅雨の怒りを買ってしまいそうだった。 「また後日にしていただけませんか。澄花様もご存知の通り、私は謹慎中の身なので」 「わかっています。けれど、他ならない時雨様のことなんです。取り返しのつかないことになる前にどうにかしないと……」  澄花の声は切羽詰まっている。先ほど、秋水からも時雨が伏せっているということは聞いていた。  漣の顔に苦いものが浮かぶ。時雨を守るために力を貸せと先に澄花に迫ったのは自分だ。よもや、同じことを澄花にされ返すとは。自分は澄花を侮っていたのかもしれない。 「わかりました。それでは五分だけですが、時間をとりましょう」  ありがとうございます、と礼を言うと澄花は漣の部屋に足を踏み入れる。床の間には大太刀が飾られており、風雅な雰囲気の時雨の部屋との違いが感じられた。  澄花は畳に膝をつくと、抱えていた書物を置いた。彼女の目元には黒々とした隈ができている。 「眠れなかった……というわけではなさそうですね。ご用件はそれですか」 「はい。わたし、一昨日の夜に漣さんが仰っておられたことを思い出して……わたしなりに調べてみたんです」 ――雨催いの巫女の力をすべて時雨様の御霊石に注ぎ、婚姻関係も眷属の契約もすべて解消して時雨様の元を離れるか。  一昨日の一件で、自分が時雨の御霊石に働きかけることができるのはわかっている。ならば、あとは自分の雨催いの巫女の力をどう扱うかだ。時雨の弱り方を考えると、慎重にならざるを得ない。失敗するわけにはいかなかった。 「ふむ、雨催いの巫女についての書物ですか……そして、こちらは歴代の水神について……」  漣は澄花が持ってきた書物に目を通す。しかし、これでは足りない。 「正直、これでは情報不足感が否めませんね。今から言う内容の書物を蔵から探して持ってきてください」  これとこれと

  • 雨女と水神の契約結婚   第六章:見えない銀河に幸せを祈る①

    「――その話、私にも聞かせてもらおうか」  玉砂利を踏む音と共に低い声が響いた。いつもは穏やかで優しい声も今は荒れた川のような激しさを内包している。 「時雨様……」  澄花はその人の名を呼ぶ。しかし、時雨は水鞠を伴って澄花の前を通り過ぎ、祠へと向かう。 「――閉じよ、一夜の夢を繋ぎし路。世界のあわいは閉じられ、別々の夢を見るだろう。水を司る者の名の元に、幸せな夢が訪れんことを祈らん」  時雨は低い声でそう唱えた。祠の御霊石から青い光がすうっと消えていく。あたりには宙を舞う水泡と蛍の光が舞うばかりだった。  ふいに時雨の身体が傾いだ。咄嗟に澄花は時雨の身体を支えようとする。大丈夫だ、と時雨は澄花の手を払った。 「お兄様、場所を移しましょう。どうやら、漣からも澄花からも話を聞かないといけないようですから」  紅雨の言葉にそうだな、と時雨は頷いた。中庭に集まっていた面々は中庭を横切り、沓脱石で下駄を脱ぐと、時雨の部屋へと向かった。  時雨の部屋に着くと、水鞠は四人分の座布団を用意した。時雨は上座のそれに腰を下ろすと、紅雨に澄花、漣に座るように言った。 「水鞠、すまなかったな。部屋に戻ってくれ」 「水霜も今日はもう部屋に戻ってちょうだい」  水神の兄妹にそう言われ、水鞠と水霜の二人は時雨の部屋を辞した。二人とも、今宵一体何が起きていたのかと思うと眠れそうになかった。 「――さて、お兄様。わたくしの部屋で待っているように言ったのに、そんなこともできないなんて犬以下なんですの? いえ、お兄様のお説教は後にいたしましょう。 ――漣。何があったのかを洗いざらい吐いてもらいますわよ」  一瞬向けられた矛先に時雨はびくりとする。しかし、今はそんな場合ではないと咳払いをして居住いを正すと、漣へと厳しい視線を向ける。 「――漣、何があった? 澄花に何をさせた?」  怒りを孕んだ二対の双眸が漣に向けられる。わたしがいけないんです、と澄花は居た堪れなくなって口を開いた。 「わたし……時雨様のために何もできませんでした。時雨様のためだからと、漣さんに頼まれたのに……できなかったんです。――妹を殺せなかったんです」 「なっ……漣、あなた、自分が澄花に何をさせようとしたかわかってるんですの!? あなた、心がないんですの!

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