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雪に埋もれた愛の囁き
雪に埋もれた愛の囁き
作者: 蘇蘇

第1話

作者: 蘇蘇
「天音汐(あまね しおり)さん。本当にお父上の遺志を継ぎ、潜入捜査官になることを望みますか?」

警察庁の警察章の下で、汐は深く頷いた。

「はい。覚悟はできています」

潜入捜査官になるために、まずすべきことは、これまでの人生の痕跡をすべて消し去ることだった。「天音汐」という名は、この世界から完全に抹消される。

当局の手によって汐の偽装死が仕組まれ、その後、彼女は別人として新たな人生を歩み始めるのだ。

警察庁から戻り、寝室の手前まで来たとき、中から女の甘ったるい声が聞こえてきた。

開け放たれたドアを、汐は虚ろな瞳で見つめる。

諏訪部京弥(すわべ きょうや)が連れ込んできた女は、これでいったい何人目だろう。

結婚して三年の間、京弥はほぼ毎日のように、汐に似た女を連れ帰ってきた。わざと扉を開け放ち、隠そうともせず、彼女の目の前で睦み合う。

それはすべて、かつて汐に捨てられたことへの復讐だった。

けれど今回ばかりは、中の女が声を上げた瞬間、汐は凍りついた。

呆然としているうちに、中の二人は行為を終えた。京弥はバスローブを羽織って出てくると、冷淡な視線を汐に向ける。

「いいところに帰ってきたな。避妊具が切れた。いくつか買ってこい」

そう言い捨てると、京弥は脇の引き出しから分厚い札束を取り出し、汐の顔へと叩きつけた。

「残りはチップだ。お前、金が好きだろ」

札束が当たった頬がひりひりと痛む。汐は床に散らばった金には目もくれず、充血した瞳で京弥を凝視した。

「今まで何人もの女と寝てきた上に……深雪まで巻き込むなんて。どうして、そんなひどいことをするの?」

殺すなら、ひと思いに殺せばいいものを。堀江深雪(ほりえ みゆき)が自分の親友だと、京弥は知っているはずだった。

京弥の細長い瞳に冷たい光が宿る。彼は冷笑を浮かべた。

「あの時、俺を散々弄んだ挙げ句、あっさり捨てたお前が……どの口で言う」

汐の心臓に鋭い痛みが走り、当時の記憶が濁流のように押し寄せてきた。

汐と京弥は、誰もが羨む若き日の恋人同士だった。一人は大学のマドンナ、一人は大学のプリンス。キャンパス内では知らぬ者のいない、理想のカップルだった。

二人は誓い合った。結婚できる年齢になればすぐに結婚しようと。しかし、愛が最も燃え上がっていたその時、汐は突如として別れを告げ、ある御曹司とともに海外へ去った。

別れの日、京弥は瞳を真っ赤に染め、汐を追って走り続けた。

あれほど誇り高い男が、何度も何度も「別れないでくれ」と縋り付いた。いつか必ず出世してみせるからと。

行かないでくれ、待っていてくれ、他の誰かを愛さないでくれ――そう泣きながら乞うた。

けれど汐は、どこまでも冷酷だった。一言も言葉を残さず、あろうことか、京弥が追走中に車に撥ねられるのを目の当たりにしても、一度も振り返ることはなかった。

その事故は凄惨なもので、京弥は腎臓破裂という重傷を負い、移植手術なしには生きられない体となった。

血まみれで手術台に横たわりながらも、京弥は力を振り絞って汐に電話をかけようとした。

だが、命を削る思いでかけた電話は、すべて無慈悲に拒まれた。

愛が深ければ深いほど、その裏返しの憎しみもまた、深く刻まれる。

あの日を境に、京弥は汐を、骨の髄まで憎むようになった。

京弥は四年の歳月を費やして実業界の頂点へと上り詰めた。

そして成功を手にした後、彼が最初に行ったのは、権力を盾に汐を強引に妻とし、その後、次々と女を家に連れ込み、汐を辱めることだった。

だが、汐だけが知っていた。あの日、京弥のもとを去ったのは、愛が冷めたからでも、金に目が眩んだからでもない。そうせざるを得なかったのだ。

汐の父は潜入捜査官だった。任務に失敗して正体が麻薬組織に露見し、父が殺害された後、犯罪グループは家族への報復を開始した。

知らせを受け、一家は逃亡を図ったが、京弥を巻き込まないためには、彼と別れるしかなかった。

逃亡の途中で京弥の事故を知った汐は、命の危険を冒して病院へ駆けつけ、彼に腎臓を提供した。そして彼が目覚めるのを待たず、急いで家へ戻った。

しかし、そこで待っていたのは、祖父母四人と母、そして妹までもが、麻薬密売人の手にかかって無惨に殺された光景だった。

生き残ったのは、幸運にも難を逃れた彼女ただ一人。

家族の凄惨な最期を思い出し、汐の瞳は自然と赤く染まった。

その様子を見た京弥は、氷のような声を保ちながらも、瞳の奥にかすかな期待を滲ませて問いかけた。

「なんだ。あの時は事情があったとでも言いたいのか」

我に返った汐は、ただ頑なに首を振る。

「事情なんてないわ。あなたの思った通りよ。私はただの、貧乏人が嫌いで見栄っ張りな女なの」

あの時も言えなかった事情が、今さら口にできるはずもない。

家族全員の血の恨みを背負った自分が、京弥と結ばれる結末など、この先一生あり得ないのだ。

これまでの数年間は、いわば盗んだ時間のようなもの。彼女は今、父の遺志を継ぐ決意を固めていた。

任務は死と隣り合わせ。おそらく近いうちに、天国で家族と再会することになるだろう。

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