Share

第6話

Author: 春桃烏龍
「やっぱり恵美さんはすごいわ。江口家にお嫁入りする日も近いんじゃないですか!」

「誰があんな間抜け共と結婚なんかするものよ。用が済んだら、さっさと捨ててやるわ。あいつら、私には不釣り合いなのよ」

その言葉を聞いて、明日奈はポケットの中のボイスレコーダーのスイッチを、静かに押した。

これが、洋介と友沢が守ってきた女の正体。

裏ではこんな風に、彼らを刺していたのだ。

彼女は全ての会話を録音し、そしてシステムに依頼した。

自分が死んだ後、このボイスレコーダーを洋介と友沢に渡してほしい、と。

これが、彼らに贈る最後のプレゼントだ。

明日奈は気持ちを整え、それから楽屋へと足を踏み入れた。

彼女の姿に気づくと、恵美は綺麗な眉を吊り上げ、嘲るように言った。

「明日奈ちゃん、まだ恥知らずにも洋介さんたちに付きまとってるの?彼らがどれだけあなたを嫌っているか、分からない?」

明日奈はただ彼女を見つめ、淡々と口を開いた。

「ええ、私は身を引く。あなたたち三人、永遠に一緒にいればいい」

そのあまりに平坦な口調を、恵美は皮肉だと誤解した。

彼女は逆上し、テーブルの上の化粧品を床に叩きつけた。

「何よその態度は!得意げになっちゃって!私があなたに勝てないとでも思ってるの?言っておくけど、あなたを殺すなんて、蟻一匹を潰すのと同じくらい簡単なんだから!」

空気が張り詰めたその時、スタッフが恵美の出番が近いことを告げに来た。

彼女は明日奈のそばを通り過ぎる際、わざと肩を強くぶつけてきた。

恵美がステージに上がると、観客席から甲高い歓声が上がるのを明日奈は聞いた。

皆、恵美のファンだ。

彼女は、今年最も勢いのある新人歌手なのだ。

恵美の歌の歌詞も、曲も、そして元の歌い手さえもが自分であることなど、誰も知らない。

それなのに、ステージの上で眩いばかりに輝いているのは恵美で、自分はまるで日の光を浴びられない鼠のように、舞台裏に隠れるしかない。

やがて、聞き慣れたメロディーが流れ始めた。

明日奈は記憶を頼りに歌い始める。

この歌を歌うのは久しぶりだったが、口を開いた途端、目の奥がたまらなく熱くなった。

歌い終える頃には、彼女はとっくに涙で顔を濡らしていた。

客席から雷鳴のような拍手が沸き起こり、明日奈を悲しみから引き戻した。

見れば、客席の観客たちも、歌に込められた悲しみに感動し、涙を流していた。

最前列に座る洋介と友沢までもが、うっとりとした眼差しで恵美を見つめている。

彼らは恵美が口パクだと知っているのに、それでも彼女に付き合って芝居を続けるのだ。

明日奈は涙を拭った。

まるで誰かに心臓をナイフで抉られるような、息が詰まるほどの苦しさを感じ、ほうほうの体でその場から逃げ出した。

彼女の苦しみを察したのか、長く沈黙していたシステムが自ら口を開いた。

【宿主様、気を落とさないでください。あと一日です。あと一日で、宿主様はこの世界から解放されます。その時にはきっと、心温かい人に出会えるはずです】

冷たい風が、刃物のように明日奈の顔を切りつけた。

その痛みで意識がはっきりする。

彼女は鼻をすすり、自分に言い聞かせるように答えた。

「そうね。あと一日で自由になれるんだから、喜ばなきゃ」

椅子にどれくらい座っていただろうか。

明日奈が楽屋へ戻ると、真正面から友沢の平手打ちを食らった。

「明日奈、お前、恵美をどこへやった!」

友沢はその一撃に、ありったけの力を込めていた。

明日奈は歯がぐらつくのを感じ、頬が火傷するような熱い痛みに襲われた。

洋介もまた、険しい顔で彼女を見下ろし、低い声で警告した。

「お前は本当に、俺たちに甘やかされてつけ上がったな。もし恵美にもしものことがあったら、ただじゃおかないぞ」

明日奈はそっと頬に触れた。

指先に走る鋭い痛みで、これが夢ではないと悟った。

なぜ、目の前の友沢と洋介は、まるで仇でも見るような目で自分を見ているのだろう。

彼女はしばらく呆然とし、それから不確かな様子で自分を指さした。

「私が恵美さんを誘拐したって言ってるの?あなたたちの心の中では、私はそんなに悪辣な人間なの?」

「お前が恵美に嫉妬してるんじゃないかと、誰が疑わずにいられる?彼女のマネージャーが聞いたんだ。お前が電話で、恵美を誘拐するよう指示するのをな。さっさと彼女を解放しろ、聞こえたか」

友沢が吐き捨てるように言った。

明日奈の唇に、苦い笑みが浮かんだ。

「信じるか信じないか知らないけど、私は彼女を誘拐したりしてない」

「明日奈、お前は痛い目を見ないと分からないようだな。もう一度だけチャンスをやる。言うのか、言わないのか?」

洋介が低い声で警告した。
Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 霧が晴れてこそ、愛を語る   第24話

    二日後、友沢はようやく目を覚ました。彼は震える手で自分の顔に触れた。分厚い包帯が巻かれているのが分かった。「鏡だ。鏡を持ってこい」使用人たちは困り果てていた。洋介が、決して友沢に鏡を渡してはならないと、固く命じていたからだ。自分の無惨な姿を見て、彼が苦しむのを案じてのことだった。だが、使用人たちが渡そうとしないほど、友沢の不安は募っていった。彼もまた、自分が醜い化け物になってしまったのではないかと恐れていたのだ。彼は、使用人に向かって狂ったように当たり散らし始めた。「よこせ!鏡を探して、俺に持ってこい!」友沢は力任せに使用人の髪を掴んだ。使用人は、痛みに悲痛な叫び声を上げた。この一方的な暴力は、明日奈が部屋に入ってきたことで、ようやく収まった。彼女の姿を見て、友沢は興奮して言った。「早く、明日奈、早く鏡を持ってきてくれ。頼む」「自分が今、どんな姿になっているのか見たいんだ」明日奈は動かなかった。彼女は黙ってベッドのそばに座った。「友沢さん、見るのはやめましょう」その一言だけで、友沢は真実を悟るには十分だった。自分の顔は元には戻らない。醜い化け物になってしまったのだと。彼は突然、苦痛に自分の頭を抱え、声もなく泣いた。彼は誰よりも、自分の美しさを愛していた。誰よりも、自分を着飾るのが好きだった。彼には、自分が醜くなったという事実を受け入れることなどできなかった。部屋に、彼の小さな嗚咽が響いた。どれほどの時間が経っただろうか。彼はようやく尋ねた。「明日奈、今の俺は、とても醜いか?」明日奈も、友沢に何と声をかけていいか分からなかった。結局のところ、彼は自分を救うために顔を失ったのだ。彼女は首を横に振った。「醜くなんかないわ。今の医療技術はとても進んでる。顔の傷が治ったら、修復手術を受けに行きましょう」「きっと良くなるわ。そうだ、友沢さん。助けてくれて、ありがとう」その言葉は、明日奈の心からのものだった。そうでなければ、今頃ミイラのように包帯を巻かれているのは、自分の方だったのだから。そうなっても、彼女自身が大きな影響を受けるわけではないだろうが、顔を失えば、音楽への道もまた、困難なものになっていたはずだ。この世界で、容姿

  • 霧が晴れてこそ、愛を語る   第23話

    洋介の声から緊張が消え、どこか弾んだような響きが混じった。「じゃあ、その時間に迎えを行かせる」洋介に注意を促されてからというもの、明日奈はずっと不安な日々を過ごしていた。だが、恵美は一向に現れなかった。洋介と友沢が江口家のコネを総動員しても、A市から恵美を見つけ出すことはできなかった。彼女は、まるでこの世から蒸発してしまったかのようだった。時が経つにつれ、明日奈も次第に警戒を解いていった。友沢の誕生パーティに参加する、その日までは。その日、友沢は入り口でずっと待っていた。彼女の姿を見ると、彼の目は輝き、興奮した声で言った。「明日奈、本当に来てくれたんだな」明日奈の胸中は、様々な感情で満たされていた。何と言っていいか分からず、ただ静かに「ええ」とだけ応えた。明日奈の他に、パーティに参加しているのは皆、音楽業界で名の知れた大物ばかりだった。友沢は、彼女を連れて一人一人に紹介して回った。「こちらは俺の妹の明日奈だ。音楽業界の新人なんだが、どうか皆、今後とも面倒を見てやってくれ」その簡単な一言は、千金の価値があった。それは間違いなく、その場にいる全員に、明日奈は江口家の人間であり、皆で彼女を支えなければならない、ということを告げていた。もし彼女に何かあれば、それは江口家に喧嘩を売るのと同じことだと。明日奈も、友沢が自分の今後のスター街道のために道筋を立ててくれているのだと分かっていた。彼女が「そんなに面倒をかけないで」と言おうとした途端、友沢がその言葉を遮った。「断らないでくれ。江口家の後ろ盾があれば、お前は音楽業界で多くの回り道をせずに済む。お前だって、この世界で成功したくないわけじゃないだろう?」明日奈は音楽が好きだった。彼女には、幼い頃から音楽の夢があったのだ。残念ながら、その夢は芽を出す前に、洋介によって摘み取られてしまったが。今回ばかりは、明日奈も諦めるつもりはなかった。彼女は唇をきゅっと結んだ。「ありがとう」明日奈のよそよそしい礼の言葉を聞いて、友沢の目の奥がツンと痛んだ。彼は無理に笑顔を作った。「明日奈、昔のお前は、俺にそんなに遠慮はしなかったじゃないか。これからは、俺が必要な時はいつでも言ってくれ。俺からの償いだと思って。いつか、お前が許し

  • 霧が晴れてこそ、愛を語る   第22話

    最後に、母親がまず自分の目を拭った。「何を泣いてるのよ。明日奈ちゃんがいてくれることになったんだから、これは良いことじゃない。大晦日なのに、縁起でもないわ。明日奈ちゃん、何か食べたいものはある?お母さんが作ってあげるから」明日奈は感謝を込めて言った。「お母さんが作ってくれるものなら、何でも好きだよ」母親はぱっと顔を輝かせた。「よしきた!じゃあ早速作るからね。あなたはゆっくり休んでなさい。そこの男二人、台所に来て手伝っておくれ」父親と兄は、まるで時代劇の家来のように「御意!」と一言応えると、台所の手伝いへと向かった。すぐに台所から油の跳ねる音が聞こえてきた。香ばしい匂いが漂い、時折、母親が二人を叱咤する声が混じっていた。これこそが、人の暮らしの温もりというものだ。明日奈は満ち足りた気持ちで微笑み、心の中でシステムに感謝の言葉を述べた。こんなにも幸せで、完璧な家を与えてくれたことに。あの日以来、友沢と洋介が彼女の前に姿を現すことは二度となかった。だが、彼女は感じていた。自分の見えない場所で、友沢と洋介が自分を守ってくれていることを。なぜなら、明日奈が大学一年生になったばかりの頃、ある有名な音楽事務所が訪ねてきて、彼女と専属契約を結びたいと申し出てきたからだ。彼女自身は、特に才能に溢れた新人というわけではない。考えられる唯一の説明は、これが友沢と洋介からの償いだということだった。どうやら彼らは本当に後悔しているらしかった。二人揃って、コデインを飲んだのだ。だが、その薬は、全ての人間に効果があるわけではなかった。ただ、彼女にだけは、特によく効いたのだ。だから、友沢と洋介の喉は何ともなかった。洋介と友沢から送られてきた動画を、明日奈は再生だけして、見なかったことにした。半月後、明日奈は音楽事務所のサポートのもと、自身のファーストシングル『新生』をリリースした。この歌は、彼女が新しい生を得たことへの祝福であり、これからの自由な人生への祝杯でもあった。曲はリリースからわずか三時間で爆発的なヒットとなった。それには音楽事務所のバックアップがあったのも確かだが、何よりも、曲そのものが素晴らしかった。歌詞は彼女が自ら書いたものだったが、作曲は業界で最も有名なプロデューサーが手

  • 霧が晴れてこそ、愛を語る   第21話

    「明日奈、お前は元々、江口家のかけがえのない宝物だったんだ。あんな貧しい場所はお前に似合わない。帰ってきてくれ。昔のように、また一緒に暮らそう」何を根拠に、今さらになって、自分がまだ彼らと一緒に暮らしたいなどと思っていると、洋介は考えられるのだろうか。以前、洋介と友沢の両親は、彼女が江口家の嫁になることを望んでいた。二人うちのどちらか一人を、彼女が選ぶことを。だが、明日奈はこれほど優秀な二人の男性と十五年も共に暮らし、朝夕を過ごすうちに、心惹かれてしまった。だからあの日、彼女は万全の準備を整えて洋介と友沢に告白したのだ。しかし、彼らは恵美のために、彼女に冷水を浴びせかけた。それどころか、恵美のためならと、彼女を容赦なく傷つけた。同じ過ちを、彼女は二度と繰り返すつもりはなかった。明日奈はきっぱりと首を横に振った。「お断りよ。あなたたち二人とも、選ばない」「もし私があなたたちを許したら、それは辛い日々を必死に耐え抜いた、過去の自分を裏切ることになる」「自分が受けた傷を、無かったことにしてしまうことになる」「もし本当に過ちを認めているのなら、もう二度と、私の穏やかな生活を邪魔しに来ないで」そう言うと、明日奈は踵を返してその場を去った。友沢が追いかけようとしたが、洋介に止められた。彼らは、江口家の恵まれた生活があれば、明日奈に何不自由ない暮らしをさせられると、そう思っていた。たとえ彼女を傷つけても、少し優しくすれば、彼女はいつでも自分たちを許してくれるだろうと。だが、彼らは思いもしなかった。明日奈が、あの貧しい家に戻ることを選んででも、ここへは帰りたがらないとは。今回ばかりは、彼らは本当に、明日奈の心をずたずたに引き裂いてしまったのだ。明日奈が家に帰ると、両親と兄が揃ってソファに座っていた。彼女が帰って来たのを見ると、三人は一斉に立ち上がった。「明日奈、大丈夫か?」兄が心配そうに尋ねた。明日奈は黙って首を横に振った。ここまで来てしまった以上、もう隠し通すことはできないと彼女は悟っていた。「お父さん、お母さん、お兄ちゃん。実は私、あなたたちの本当の娘じゃないの」明日奈は何も隠さず、自分が江口家で暮らしていたこと、洋介と友沢が自分にしてきたこと、そして、どうやってこの

  • 霧が晴れてこそ、愛を語る   第20話

    「わけも分からず」という言葉に、明日奈は少しだけ眉を動かした。だが、その問いに彼女は全く興味を示さなかった。おそらく、友沢と洋介には何かやむにやまれぬ事情があったのだろう。だが、それがどうしたというのだ。だとしても、自分が過去に受けた傷が偽物になるわけではない。明日奈が何も言わないのを見て、友沢は気まずそうに口を開いた。「明日奈、お前がまだ俺と兄さんを恨んでいるのは分かってる。でも、俺たちは十五年も一緒に暮らしてきたじゃないか。もし恵美が、好感度を上げるなんていうアイテムと交換していなければ、俺たちがこんな仕打ちをお前にするはずがなかったんだ」そのアイテムについて、明日奈は聞き覚えがあった。彼女が思いがけずシステムと契約した時、システムは一つのアイテムを提供できると言っていた。それは、ただ会うだけで相手の好感度を上げるというものだった。しかし、そのアイテムには欠点もあった。友沢と洋介が、必ずしもアイテムの影響を受けるとは限らないということだ。もし彼らの意志が固ければ、全く影響を受けずに済むどころか、アイテムの効果そのものを無効化してしまうことすら可能だった。だが、その時の明日奈は、そんなものは必要ないと無邪気に信じていた。幼馴染としての絆と、十五年という共に過ごした時間が、彼女にミッション成功への絶対的な自信を与えていたのだ。しかし現実は、彼女の頬を容赦なく打ちのめした。明日奈は嘲るように笑った。「アイテムが成功率を上げるのはたったの50%よ。言い換えれば、もしあなたと洋介さんの心の中の天秤が、最初から恵美の方に傾いていなかったら、彼女の好感度が上がることもなかった。だから、何でもかんでもアイテムのせいにしないで」そう言うと、明日奈は二人を置き去りにして、先に地下室へと下りていった。恵美の末路は悲惨なものだろうと想像はしていたが、これほどまでとは想像していなかった。ドアを押し開けると、彼女は犬のように檻に入れられた恵美の姿を目にした。檻は非常に小さく、恵美ほどの体を収めるには狭すぎた。彼女は苦痛に四肢を折り曲げるしかない。その手足には乾いた血の跡がこびりついており、彼女が江口家にいなかったこの短い間に、非人道的な虐待を受けてきたことがうかがえた。再び明日奈の姿を見るや、恵

  • 霧が晴れてこそ、愛を語る   第19話

    あの日、明日奈は雪の中で三時間跪いた。そして洋介もまた、三時間跪き続けた。彼は自力で立ち上がることすらできず、無理に体を起こそうとしても、脚の筋肉が回復しきっていないせいで、無様に前へと倒れ込んだ。「お前が転んだのは、本当だったんだな。俺と友沢は、お前を誤解していた。すまなかった」洋介は明日奈の返事を待たずに、江口家の裏庭へと向かっていった。彼が何をしようとしているのかを察し、友沢は明日奈に向かって必死に叫んだ。「明日奈、兄さんが氷の張ったプールに飛び込もうとしてる。早く止めてくれ。兄さんは三時間も跪いてたんだぞ」明日奈が黙ったまま何も言わないのを見て、友沢もそれ以上頼むのは諦めた。彼はただ、洋介が氷のプールに飛び込み、また這い上がり、それを三十二回繰り返すまで、なすすべもなく見ているしかなかった。洋介は常日頃から体を鍛えており、その身体能力は常人よりも高かった。だが、これだけの無茶は、彼の命を半ば奪いかけるほどだった。彼はもう一度、明日奈に謝罪しようと思った。しかし、携帯電話を受け取った時、明日奈がすでに通話を切っていたことに気づいた。今夜の一連の出来事は、間違いなく明日奈の心の傷を再び抉った。これ以上、こんな辛い思いはしたくない。そもそも、自分たちはもう二度と関わるべきではなかったのだ。だが翌日、洋介は病に倒れた。そのことを彼女が知ったのは、友沢が寄越した秘書が、明日奈を江口家に迎えに来た時だった。都合の悪いことに、秘書がやって来たのは、昼時で両親も兄も家にいる時間帯だった。明日奈は断ることができなかった。友沢には、彼女を連れて行く方法などいくらでもある。事を荒立てすぎれば、彼女の大切な人たちを傷つけることにもなりかねない。明日奈は、そのような事態だけは避けたかった。両親と兄からの、疑念と心配が入り混じった視線を受け、明日奈はすべてを打ち明ける時が来たと悟った。そもそも、この身体の元の持ち主はごく普通の家庭の娘だったのだ。どうして江口家のような最高級の富豪一族と接点があるというのか。彼女は落ち着いて箸を置いた。「お父さん、お母さん、お兄ちゃん。ちょっと行ってくる。帰ってきたら、全部話すから」そう言うと、彼女は友沢の秘書と共に江口家へと向かった。道中

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status