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第3話

Penulis: ちょうどいい
手術当日、蓮は私の手を強く握りしめ、緊張で額に汗をにじませていた。

「怖がるな。俺はずっと手術室の外で待ってるから」

看護師が同意書を持ってきて、彼に署名を求めた。

葵は歩み寄ってきて私を見つめ、ふっと笑った。「安心して。ちゃんと助けてあげるから」

彼女は腰をかがめ、私の耳元に顔を寄せた。「だって、蓮さんが約束してくれたのよ。美玲さんが元気になったら、私をアイスランドへオーロラを見に連れていってくれるって。あれはもともと、私に返されるはずのものなんだって」

「そうだ、あとね」彼女は急に思い出したように言った。「美玲さんの髪を剃った日、蓮さんはずっとドアの外にいたの。私が待っててって言ったんだよ、あなたへのサプライズだからって。そしたら、あの人も頷いた」

彼女の吐息が耳にかかり、私はぞくりと身を震わせた。

蓮が歩いてきた。「何を話してるんだ?」

葵は身を起こし、「別に。女の子同士の秘密だよ」と笑った。

蓮はそれ以上は追及せず、真剣な眼差しで私を見た。「美玲、待ってるからな」

手術室の扉が目の前で開き、そしてゆっくり閉じていく。

意識が完全に闇へ沈むその一秒前、私の脳裏を最後によぎったのはこの五年間の蓮だった。

私が何気なく、ある老舗の和菓子が好きだと口にしたとき、彼は三時間も並んで買ってきてくれた。

出張から戻るたびに、彼のスーツケースの中はいつも私への土産でいっぱいだった。現地の名物菓子が入っていることもあれば、洒落たしおりが入っていることもあった。

私が料理を覚えようとして作った真っ黒な一皿も、彼は顔色一つ変えずに平らげて、親指を立てて言った。

「うちの奥さん、ほんと発想がすごいな。次も頑張れ!」

そう言ってから、こっそり大きなコップ一杯の水を流し込んでいた。

白血病だと診断されたあの日、彼は私を抱きしめ、私以上に体を震わせながら言った。

「怖がるな、美玲。俺がいる。絶対に治してみせる。俺たちには、これから先もまだまだ何度も五年があるんだから」

……

次に目を開けたとき、私は病室にいた。

きょろきょろと辺りを見回した私に、看護師が親切に声をかけてくれた。「旦那さんをお探しですか?今は渡辺さんについておられますよ」

私はそっと目を閉じた。涙が枕へ染み込んでいく。

それでも、この命は助かった。まだ生きていける。それがいちばん大事なことだ。

それ以外は、もうどうでもよかった。

私の依頼どおり、弁護士が書類を届けてくれた。

蓮が見舞いに来たのは、もう夜になってからだった。

「美玲、見てくれ。お前の好きなヒマワリだ」

彼は花束をベッド脇の棚に置いた。

「これからはきっと、毎日が明るくなっていくよ」

私は枕に寄りかかり、静かに彼を見つめた。「さっきまで、どこにいたの?」

「葵が少し体調を崩しててな」彼は一つ咳払いをし、ごく自然な口調で言った。「骨髄を提供したばかりで、やっぱり体に負担が出てるんだ。だから、少し長くそばについてた。美玲、お前ならわかってくれるだろ?彼女はお前の恩人なんだから」

恩人。

その言葉は今の私には、甘い蜜をまとったガラスの破片みたいに聞こえた。

「うん」私の声はとても小さかった。「彼女のそばにいるのは、当然だよね」

蓮は目に見えてほっとした。

彼は歩み寄って私の手を取ろうとしたが、私は気づかれないように手を布団の中へ引っ込めた。

彼は一瞬動きを止めたが、ただ体調が悪いせいだと思ったらしく、特に気にしなかった。

「やっぱりお前がいちばん物わかりがいいよ、美玲」

彼は安堵したように息をついた。まるで、とてつもなく厄介な問題がひとつ片づいたかのように。

「お前が回復したら、葵にはちゃんとお礼をしないとな。本当に、あの子は俺たちのためにたくさんしてくれた」

「そうだね」

私は小さく相槌を打った。

「たくさんしてくれたんだから、彼女が欲しがるものは何でもあげればいいよ」

蓮は私を見て、何か言いかけたが、結局口をつぐんだ。

「そうだ」私は書類の入った封筒を彼に差し出し、相変わらず穏やかな声で言った。「さっき看護師さんが持ってきたの。術後の追加書類みたいで、家族の署名が必要なんだって。代わりにサインしてくれる?」

蓮は疑いもせず受け取り、さらさらと自分の名前を書いた。

「美玲、会社で緊急の案件が入って、どうしても俺が数日アイスランドへ行かないといけないんだ。本当はこんな時に離れたくないんだけど……」

「行って」

彼が言い終える前に、私は言葉を遮った。

「仕事が大事でしょう。ここにはお医者さんも看護師さんもいるし、大丈夫」

私は封筒を受け取り、ぎゅっと握りしめた。冷たい紙袋の端が掌に食い込んだ。

彼は私を見つめ、その目に一瞬、複雑な色をよぎらせた。「本当に、一人で大丈夫か?」

「大丈夫」

私は頷いて微笑んだ。

「早く行って、早く帰ってきて」

「ちゃんと自分を大事にしろ。なるべく早く戻る」

彼は私の額にそっと口づけた。

「今夜はできるだけ長く一緒にいるよ。どうせ飛行機は明日の朝九時だから」

けれど、私の便もまた、明日の朝九時だった。

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