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【第4話】コレは「心を掴むなら、胃袋からと言いますので」って事かしら・前編(華・談)

last update Date de publication: 2026-06-22 08:57:40

 ベッドに入り、真っ暗な天井を見上げてまず一番に私が考えた事は『明日は部屋の片付けね』だった。

『……だって、ねぇ』

 そう言って、私の部屋を見渡したカシュの顔が頭をよぎる。

「失敗したわ。まだ一度も異性を部屋に……いえ、ここに移ってから友人すらも招待した事がなかったから、自分の部屋の異質さを忘れていたわ。いつでも、誰でも招けるように、本は片付けないと」

 このマンション、築年数が新しいのはいいが、部屋があまり広くはない。所謂は“お一人様物件”というやつだ。その為、私は居間に本棚を置いている。漫画や小説の類は購入総数が鬼なので電子書籍で済ませているが、仕事関係の書籍や人生に役立つ参考書の類は全て紙の本で買い、それらをずらりと並べていつでも手に取って学んでいたのだが……最近買う類いは、全て、『婚活のススメ』的な物だった事をすっかり失念していた。

 とある理由により、私は、物心ついた時からずっと絶賛婚活中の身だ。

 婚姻出来る年齢になるまでの期間はひたすら自分磨きに勤しみ、内面と技術向上に邁進してきた。就職後は婚活パーティーに参加するようになり、合コンにだって積極的に顔を出す。

 なのに……結婚出来ないまま、今年で私は二十八歳になった。

(何故なのかしら?)

 いくら考えてもわからない。

 安定した仕事を持ち、家事は何だって出来る。相手次第では私が養えばいいと考えているので、夫が主夫になっても構わないから、年収に対しての要望だって無い。身長、スタイル、年齢……それらに対してだって、これといって条件は求めていない。ただ一つ、結婚相手に求める事があるとしたらそれは——

 私を最後まで愛してくれる人。

 これだけの事なのに、願いが叶わない。

 そんな私の元に変な奴が来た。

(……なんだありゃ)

 本物の“人外”がいきなりベランダから来るとか、しかも『結婚してくれ』とか、もう意味がわからない。

「……うん、もう寝ましょう」

 ポツリと呟き、布団にもぐる。肌の為にも、ストレス解消の為にも、今は寝るのが一番だわ——

       ◇

 閉じた瞼越しでもわかるくらい太陽が眩しい。どうやら朝になったみたいだ。

「……——おはようございます、華さん」

 幼い声が聞こえ、私はゆっくりと目を開けた。

 一人暮らしなのに、子供の声?

 あぁ……そうだ、昨日変なのがベランダから来て……あら?『カシュはベランダよ』と言ったはずなのに、何故室内にいるのかしら。

 不思議に思うが、朝一なせいか声が出ない。まだちょっと眠たいし、瞼がちゃんと開かず、頭の中がぼーっとする。

「朝ご飯を、用意しておきましたよー。あ、珈琲はいかがですか?砂糖は入れます?ミルクは?」

 そう声を掛けてきたカシュは私のエプロンを着ていて、手にはおたまを持っている。一昔も前の“奥さん”っぽい格好で、金髪の少年が、髪と同じ色をした瞳を太陽の光で輝かせながら私の顔を覗き込んできた。

 彼の言う通り、とても美味しそうな匂いがする。これはベーコンだろうか?卵とご飯の匂いもして、ちょっとお腹が空いてきた。

「……頂くわ」

 ベッドから体を起こし、返事をする。

 就職を機に実家を出て以来、朝起きたらご飯ができているなんて初めての事で、なんだかくすぐったい。そのせいで『何故勝手に部屋に入って来た』と叱りたい気持ちが、私の中から綺麗に消えていった。

「華さんは座っていていいですよ。今そちらに運びますから」

 居間として使う空間に入った途端、カシュはそう言いながら、キッチンスペースからせっせとローテーブルに料理を運び始めた。少年に給仕係みたいな事をさせるのはちょっと心苦しいが、彼は自称一五〇歳らしいので気にしなくていい……のよね?

(でも、本当にいいのかしら?)

 ——と思いながらも、ローテーブルの前に座る。

 この部屋は広くはないので残念ながらソファーは無い。私の頂いている給与的にはもっと広い部屋にも住めるのだが、今は節約して、結婚資金を貯め続けているので、広い部屋に住むのはまだしばらく我慢せねばならない期間なのだ。

 次々と朝ご飯の定番メニューが目の前にずらりと並ぶ。

 カリカリに焼いたベーコン、目玉焼き、炊きたての白いご飯。サラダとスープに牛乳と……こんなに食材を買ってあったかしら?と疑問が湧いたが、訊くのが怖い。

(コレ、どこから持って来たの?それとも、私のお財布片手に買って来た?まぁ……それならそれで今回は仕方ないけど、無駄遣いはしていないかしら)

「さぁどうぞ。あ、ボクも食べていいですか?多少は意味があるので」

「えぇ、もちろんよ。作ってくれたのだもの、どうせなら一緒に食べたいわ」

 私がそう言うと、中学生くらいにしか見えぬカシュが、満面の笑みを向けてくれた。頰がほんのりと赤く、とても嬉しそうに笑うもんだから、余計に『結婚』の二文字が私の中から消えていく。

 コレと、どうしろと?としか思えない。

 ただの保護対象でしかないわ、コレは。

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  • 魔女に呪われた“淫魔”達だけど、愛されたい!   【こぼれ話③】抜け道・後編

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