Masuk華さんが驚いてくれて、信じてくれている事がとても嬉しくなってきた。怯えるでもなく、ただ淡々と事実を受け入れてくれている事も。だが、「こっちはどうなの?」と言って、華さんがボクの尻尾に手を伸ばしてきたが、それは全力で止めた。
「こ、こっちは触るのだけはダメです!」
「……『喜んで』『どこからでも』と言ったのは、嘘だったの?」近距離で訝しげな顔をされ、また体が震える。きちんとボクの言葉を聞き、覚えてくれていたのは嬉しいし、ちょっと拗ねた感じがどんなに可愛かろうとも流石にそれはマズイ。——が、しかし……一体この人はどこまでボクを刺激したら済むんだろうか。
「お見せするだけでは、ダメですか?……コレ、その……ボクらの“性感帯”なので、触れられるとちょっと色々問題が」
「なるほどね!」即納得してくれてホッとした。『それでも』と言われたら、それこそもう歯止めがきかなくなるので。
だけど、『見せる』というのも、実は少し恥ずかしい。だってコレお尻の上辺りから生えてるんですよ?つまりは、履いてるジーンズをちょっと下げて、お尻の割れ目を見せる事になるんですから。『これはなんていうプレイですか?』状態になるのに、その事に華さんは気が付いているんだろうか?
んーでもまぁ、本物のインキュバスである証明はしておきたい。
人外である証拠はより多く見せておいた方が、今後何かと互いの為だろう。
そう思ったボクが華さんの前で膝立ちになり、穿いているジーンズのファスナーに手をかけると、華さんに「何をしてるの貴方は!」と叫ばれた。
「尻尾が生えている様をちゃんと見せようかと……」
「……あ、そっか。——ごめんもういいわ!わかったから、脱がないで!貴方じゃ、絵図的にアウトなのよ!」 成る程。今のボクは、どう見ても
「貴方じゃなく、カシュです。華さんの“夫”になる者の名前は覚えて下さい」
不貞腐れた声で言い、その場に再び正座する。
そして彼女の顔を見上げると、綺麗な顔の眉間に『海溝よりも深いのでは?』と言いたくなるくらい深いシワが入り、渋い顔をされてしまった。
「さっきから、貴方……カシュ、だったわね。カシュは一体何を言っているの?」
「ボクと結婚して下さい、の事ですか?」 「えぇ、そうよ」「だって、華さんも婚活中なのですよね?」
首を傾げ、ボクは思った事をそのまま訊ねた。
「何故……そう思うのかしら。理由を、聞かせてくれる?」
そうボクに問い返す華さんの声が震えている。
「……だって、ねぇ」
ボクは周囲を見渡し、キョトンとした顔をした。
華さんの部屋は居間っぽい空間と隣に一部屋、寝室がある感じの作りだ。キッチンスペースは居間の端にあり、ボクらが座る居間にはローテーブルや食器棚、電話台の他に本棚が一つ。そしてその本棚の中には、『婚活』『モテる』などのワードが入る本ばかりがこれでもかと並んでいるのに、恋人がいる気配は微塵も無い。そういった空気にボクは種族柄敏感なので、華さんが処女である事も既にお見通しだ。ならもう、彼女も現在『彼氏』なんて不要物はおらず、ボクと同じく婚活中であると思ったのだが、違ったのだろうか。
部屋を見渡したボクの様子で色々察したのか、華さんが黙って俯いてしまった。視線だけでの指摘が図星過ぎて、何も返せないといった感じだった。
「……もう寝るわ」
居た堪れないといった雰囲気を纏いながら華さんが立ち上がり、視線をボクとは合わせる事なく、ふらりと隣の部屋の方へ足を向ける。
「いいですね!」
そう答え、ボクも追随しようとしたのだが、鋭い目付きをして華さんが振り返った。
「カシュはベランダよ!人外ならちょっと夜冷えしたくらいでは死なないでしょ!」
キッパリ言われ、悲しくなる。
だけど『いいや、一緒に寝ましょう』と懇願する気が何故か起きず、ボクはシュンとしながらも「……はい」と答えた。
項垂れ、ベランダへと素直に向かう。『ちょっと申し訳ない事をしたかしら?』と言いたげな顔がちらりと視界の隅に映ったが、止めてはくれなかったので、ボクはそのまま外へ出て行った。
ベランダの柵に座り、脚をぶらぶらとさせる。まあるい月がとても綺麗で、華さんとボクの出逢いを讃えてくれているみたいだ。
「お互いの距離を縮めるって、案外難しいなぁ……」
人外と人間だからなのか、それ以前の問題か。ボソッと呟いたボクの一言は、車の走り去る音にかき消されていった。
「——用意は出来た?華さん」 「えぇ、もちろんよ」 そう答えた華は今、真っ黒なドレスに身を包んでいる。デザイン的にはマーメイドラインのウェディングドレスっぽいのだが、ベールやロングタイプの手袋といった小物の類までもが漆黒と言えるほどの黒い衣装なので、デザインはこんなでも、“花嫁”という言葉よりも“魔女”という言葉の方がしっくりくる出で立ちだ。「さぁ、お手をどうぞ」 「ありがとう、カシュ」 素直に礼を言い、華が揃いのデザインの黒い手袋をしたカシュの手を取る。 長いドレスの裾を掴み、ゆっくりと歩く姿は新郎新婦を連想するものがあるが……彼らはこれから“結婚式”を挙げるわけではない。「しかしまぁ……卒業式でまで、あんなアホな事をするだなんて思ってもいなかったわ……」 ふと数時間前の事を思い出し、華が呆れた顔をしながら息を吐いた。「あ、あれは……転入初日に宣言した通りにした方が、クラスメイト達も楽しいかと思って」 「だからって、何も、卒業証書を受け取ったその瞬間に『これでボク達、結婚出来ますね!』と叫んだのはドン引きだったわよ?」 「……いや、ボク的には、そう言ったボクの元まで全力疾走したうえ、袴姿なのも顧みず、履いている皮のブーツでボクの顔面に華麗な回し蹴りをいれた華さんの方にドン引きでしたけどねぇ」 カシュが獲物でも掲げるみたいに卒業証書を高らかに持ち、『華先生!これでボク達、結婚出来ますね!』と叫んだ瞬間、卒業式の会場となった体育館は一瞬でお祭り騒ぎとなった。参列していた保護者的にはどう反応していいのかとても困ったであろうが、少なくとも、生徒達は明るいムードに溢れていた事だけは間違いなかった。 ……華が、彼の体が真横に吹っ飛ぶ程の回し蹴り入れるその瞬間までは。「大丈夫よ。あの場に居た人達は誰もあの瞬間を覚えてはいないから」 「“魔女”である事を自覚した“魔女”って、本当にタチが悪いですよねぇ」 カシュの体が真横に吹っ飛び、一瞬何が起きたのかも分からずに唖然とした会場内に向かい、マイクを片手に持った華が『今見た行為は全て忘れなさい!』と叫んだだけで、存分に魔力の乗った“言霊”の効果で全て事なきを得た。 卒業式に参列していた理事長や人外達にまでは流石に影響力が無かったようだが、面白い事が大好きな彼等は『教育者なのに不謹慎だ』『体罰は許せな
「——葵、“黒い服”には着替えたかな?」 上から下まで全て真っ黒なゴシックロリータ風のドレスを着込んだウルカが“小さな少年”に声を掛けた。彼女に“葵”と呼ばれた“少年”は、「うん」と短く答えながらウルカの腕の中に辿々しい足取りで向かって行く。あと数歩で彼女の胸の中にすっぽりと収まりそうになった時、葵は首根っこをぐっと掴まれ、子猫のように上へと持ちあげられてしまった。「甘えるなら俺に甘えとけ、葵」 「……えぇぇぇ。“父さん”にぃ?またぁ?」 不服そうな瞳を、葵が瀬田へと向ける。どうやらこの子供は、瀬田とウルカの二人の子供のようだ。「いいじゃないですか、ちょっとくらい。子供がこうやって可愛く甘えてくれるのなんて今のうちだけなんですよ?」 ブーブーと文句を言い、ウルカが口を尖らせる。見様見真似で葵も「そうだそうだ!」と言ったもんだから、瀬田はちょっと不貞腐れた顔になった。「コイツは“インキュバス”だから、“我が子”だろうが信用しきれないんだよ!」「ハッキリ言ったなぁ!父さんのくせに!」 「あぁ言うさ!その点以外はちゃんと愛してる!とも、ついでに言ってやるぞ!」と、ちょっと巫山戯た声色で言いながら、瀬田が葵の小さな体を全力でくすぐり始めた。「ぎゃ!やめ!ちょ!かぁさぁぁぁぁん!」 「助けなんか呼んでも無駄だぞ?ウルカは今お洒落着姿だからな、暴れる子供を助ける気なんか起きるはずがない」(……ハイハイ。『邪魔しちゃダメ』って事ですね。普通に可愛がればいいだけなのに、もう) すっかり瀬田の扱いに慣れたウルカが、『傍観する』と決め込む。結婚してもうすぐ三年目ともなると、言葉が足りなくてもすっかり彼の意図を色々読み解けるようになったみたいだ。「二人で遊ぶのは止めませんけど、時間だけは守って下さいね?“儀式”の開始時間は待ってくれませんから」 「そ、そ、そうだよ!だから、だか……あははははははっ!くるし!も、やめ!このクソ親父!しまいにゃ噛むぞっ」 「そんな乳歯でか?可愛い事を言うなお前は!」 「うるさい!馬鹿にすんな!体は小さくたって、中身はほぼ大人と変わらないんだからな」 「二歳児程度の体をしておきながら、そんな事を言われてもなぁ」「……あのね、浩二さん。“インキュバス”だとはいえ、まだ実際には“赤ん坊”なんですから丁寧に扱ってあ
「ダメですよ、絶対に。ボク以外と添い遂げて、“呪い”を解くだなんて。そんな事をされて“呪い”から解放されても、ちっとも嬉しくないです」 「そう言われても……。今の段階で貴方達の“呪い”を解ける“魔女”は私だけなのだし、頼られたら応じる他ないじゃない」「あぁーもう!そんな事言われたらもう、『ならボクがやります』って……言うしかないじゃないですか」 腕で目元を隠し、はぁと息を吐き出す。 正直……決意なんか全く全然出来ていない。だが、華さんを誰かに渡すなんて到底無理だし、この流れから考えても、きっと華さんは出来ればこの呪いを解きたいのだろうなと思うと、『ボクはこのままでもいい』だなんて言える雰囲気じゃなかった。 ——そうだ、このままでいい。 だって、こんなに美味しそうな華さんを前にして、生涯純潔のままでいるなんて、“インキュバス”であるボクが耐えられるわけがないじゃないか。無垢のまま寄り添って、心だけで添い遂げるとなると、魂的な婚姻関係にすらなれる訳じゃないから、華さんと共に死す事だって出来ないのだ。 華さんの側にさえ居れば魔力で困る事も無いし、“呪い”のおかげもあってか他の存在をも喰らいたい欲求も無いから、『呪いから解放されたい』なんて気持ちが全く刺激されない。なのに、それでも、この“呪い”を僕らが解呪するべきなのだろうなと少しでも思えるのは、彼女を愛しているからなのだろうな……。「優しいわね、カシュは。……やっぱり妹さんのため?」 華さんに言われて、やっとウルカの存在を意識した。ずっと今まで自分視点でのみ“呪い”の事を考えていたが——(そうだ、ボクには愛おしい相手がもう一人いるじゃないか) 華さんに言われるまで頭の隅にすら浮かばなかったとか、完全に兄失格だ。穴があったら入りたい、違う意味でそう思うことは数多あれども、正しい意味でそう感じたのはコレが初めてだった。「ボクが“呪い”を解かないと、このままじゃ妹は、瀬田の野郎と心中することになるんですもんね」「瀬田先生、でしょ?黒鳥君」 「スミマセン、華先生」 片言で謝り、苦笑いを浮かべる。 とてもじゃないが重大な決断をせねばならない空気感では無いが、決めないと……いけないのだろうなぁ。「……華さん」 「んー?」「ボクと一緒にこの呪い、解いちゃいましょうか」 ニッと笑
「……気が付いた?」 柔らかな感触を後頭部に感じる。鼻先を少し動かすと、室内を満たす、御馳走の美味しそうな匂いに混じって心地よい香りをすごく近くに感じて、ボクは慌てて目蓋を開けた。 こちらを間近から見下ろす華さんの姿が視界を占有しているので、どうやらボクは華さんに膝枕をしてもらえているみたいだ。そんな彼女の横髪が一束こちらの方へ垂れていて、ラクそうな室内着を着ているだけなのに妙に色っぽく見えてしまうのは、きっと華さん自身が持つ色香のせいだろう。「すみません……暴走してしまって」 “そう”であった自覚があるので、素直に謝る。なのに腕は無意識に彼女の方へ伸び、華さんの後頭部を自分の方へと引き寄せてしまった。 物欲し気に口が軽く開き、華さんの唇をじっと見詰める。このまま勢いよく互いの唇が重なってしまえば良いのにと期待していたのだが、「——ダメだと言っているでしょうが」と言いながら、華さんに手で口元を覆われてしまった。「……くゆひいれふ、はにゃしゃん(苦しいです、華さん)」「あら、ごめんなさいね。ちょっと強かったかしら……って、自業自得でしょ?」 パッと手を離し、謝り、そしてボクの額をぺしりと叩く。唇に触れた手の平をどさくさで舐めてしまえば良かったと後悔したが、もう遅かったのが残念だ。「もしかして、ボクって、長い事気絶していましたか?」 「いいえ、五分程度ね。気絶する程の力で蹴ったとか……本当にごめんなさい」 「あー……アレは“魔女の力”も加味されての事なんで、お気になさらず。人間の女性の蹴り程度、本来ならただのご褒美にしかなりませんから」「貴方って……たまに変な事を言うわね。まさか……マゾなの?」「気持ちいい事が好きなだけですよ。もっとも、プレイだろうが蹴られたり叩かれたり、鞭で打ってもらえた経験なんか、もちろん一度もありませんけどねぇ」 華さんに惚れた時点で、この先も経験する事すら出来ないだろう。そう思うと、残念な気持ちがどうしても消えなかった。「ところで、どうするの?……呪いの件は」 柔い太腿で膝枕をしてもらえて折角気持ちがいいのに、嫌な事を即座に思い出させる発言をされてしまった。二人のこの先を決める大事な事なので早く決断しないといけないと分かってはいるが……だがしかし、『この呪いも、いつかは解呪出来るかもしれない』なんて一度も考え
「で?その方法は?」 カシュが視線だけを私へと向けて問いかける。少し睨んでいる様にも受け取れる瞳と目が合い、私は初めて、彼に対して恐れを感じた。“私”への苛立ちでは無い事は読み取れるけど、それでも……やっぱり、『“悪魔”に睨まれる』という状況は背中に寒気が走ってしまう。「“純潔のまま想いを突き通せ。伴侶となった魔女の遺体にその血を捧げよ”……と、メモ書きにはあったわ」「……純潔の、まま?」 意味がよくわからない、とカシュの顔に書いてある。メモそのものを見せた方が良かっただろうか?とも思ったが、あんなミミズが這ったみたいな文字では、見せた所でもっとこんがらがる気しかしない。「私が彼女の文面を読み解いた限りだと、要はその……『淫魔と魔女が、一度も肉体関係を持たないまま、生涯を添い遂げろ』って意味だと思うわ」「え?そんなの……無理ですよ。“|淫魔《ボク》”を何だと思っているんですか?“魔女”って生き物は」 「私が決めた解呪方法では無いから、文句を言われても困るわ」 言葉遣いが酷くはないが、非難する声色をぶつけられてはたじろいでしまう。「それに、それにですよ、ボクの知る“魔女”は“華さん”だけです。ボクがもし、どうしてもこの“呪い”を解くんだと選んだ場合、華さんも一生“処女”のまま死ぬ事になるんですよ?貴女だけが他の男に抱かれるとか確実に許せないし、絶対に相手を殺す確信が有ります。それでもいいんですか?華さんは」「ダメよそれは。そもそも……そんな事はしないから安心して」 「……いいんですか?それでも」 「いいのかと言われても、『別に』としか言えないわね。一度も経験のない事を知らずに終わる事に対して、抵抗は無いもの」「“好きな人”に快楽を教えずに死なせるとか……“淫魔”としては失格ですね」 「だけど、私が結婚をしたい理由は『苗字を変えたい』だけだから、子供を望めない事を受け入れる事は容易いわよ?」「でも……前提からして、この“解呪方法”には無理がありますよ。だって……華さんはボクを愛してはくれないでしょう?ならもう、一生童貞のままでいようが、華さんの遺体に血を捧げようが、“解呪”は出来ませんよね。ならもう、解呪は諦めて、ボクは無理矢理にでも貴女を貪りたい……」「あー……そ、それね……えっと、その……案外、そうでも、無いわよ?」 視線をそっと
「……えっと、食事の後にする?」 「いいえ。ボクが焦ってでも食べたいと思うのはあくまでも“華さんの料理”であって、自分が作った物は……まぁ、貴女の胃袋を満たせたら嬉しいな程度の物なので。——あ、でも、華さんはすぐに食べなくても平気ですか?時間も時間ですし、お腹が空いているのでは?」 「話した後でも問題ないくらいの腹具合だから、大丈夫よ」 “魔女の部屋”に籠る時はどうしたって時間が長くなるから、パンやおにぎりを摘むおかげで空腹だと嘆く程ではない。だけどカシュは本当に大丈夫なのかしら?「でももし、カシュのお腹が減っているんだったら何か私も作りましょうか?」 「大丈夫ですよ、魔力は充分ありますから」と、微笑む笑顔には無理がある。頑張って、悪い考えに呑まれてしまわないように必死になっている事が見て取れた。(うん、やっぱり早く教えてあげた方が、お互いの為ね)「……あのね、カシュ」 「はい」 背をスッと正して、座っているクッションの上に正座をしている。正座なんてやり慣れていないだろうに、脚は痛くないのかしら?と、今は気にすべき事ではないことが気になった。「“魔女の呪い”を解く方法を私が見付けたかもしれないと話したら、貴方はどうしたい?」 「…………えっと」 カシュの凛々しい瞳が軽く見開かれ、口元がくっと引き絞られる。私の言葉を頭で処理しきれないといった感じだ。「解ける、ものなんですか?コレって」 恐る恐るといった声で、カシュに訊かれた。 彼が生まれる前にはもう“淫魔”達は呪われた後だった事を考えると、“解呪”など有り得ない事だと思い込んでいても仕方がないだろう。“呪い”をかけた張本人である、“ハンナ・アダムス”が既に死去した後では尚更だと思う。私だって、“解呪”に繋がるかもしれない文章を見付ける事が出来る直前までは、内心……多分無理だろうなと思っていたくらいなのだから。「解けは、するみたいなの。だけど……」 「あぁ、その様子だと『無理難題をこなせ』といった感じ、なんですか?ははは……やっぱり、“魔女”って奴は、どこまでもボクらには手厳しいみたいですね」 額を押さえ、はぁ……と長い息を吐く。どこにもぶつけられない感情が胸の中に渦巻き、“魔女っぽい者”である“私”相手ではそれを吐露する事も出来ず、カシュは胸元を掻き毟った。