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金鈴の鴉

Auteur: エチカ
last update Date de publication: 2026-06-28 07:45:16

「到着したか、オブライアン」

「……到着早々、クローゼットの中に主を見付けたのは初めてでございます」

「俺もクローゼットの中で愛を囁いたのは初めてだ」

「ちょっ……」

「いい加減に出て来て頂かないと、屋敷の者達が困り果てております」

「すまん。我が番殿がここが良いと甘えるもんでな」

「んなっ……⁉」

「オルタナ様」

「はいっ、ごめんなさいっ!」

「爺に謝る必要はございません。ですが、湯浴みしてお食事を摂って頂かねば心配で倒れるやもしれません」

「い、今出ます……」

 長い事狭い所で膝を折って座っていたから、若干痺れて上手く立ち上がれずに這うようにして出る。

 ずりずりと這い出ている所を、公爵に腰を掴まれひょいっと抱き上げられ、立たされた。

「あ、ありがとヴィー様。あの、オブライアンさんは何で本邸に……?」

「旦那様の招集に応じて、今し方到着致しました」

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  • 魔女ドーラの孫(仮)   金鈴の鴉

    「到着したか、オブライアン」「……到着早々、クローゼットの中に主を見付けたのは初めてでございます」「俺もクローゼットの中で愛を囁いたのは初めてだ」「ちょっ……」「いい加減に出て来て頂かないと、屋敷の者達が困り果てております」「すまん。我が番殿がここが良いと甘えるもんでな」「んなっ……⁉」「オルタナ様」「はいっ、ごめんなさいっ!」「爺に謝る必要はございません。ですが、湯浴みしてお食事を摂って頂かねば心配で倒れるやもしれません」「い、今出ます……」 長い事狭い所で膝を折って座っていたから、若干痺れて上手く立ち上がれずに這うようにして出る。 ずりずりと這い出ている所を、公爵に腰を掴まれひょいっと抱き上げられ、立たされた。「あ、ありがとヴィー様。あの、オブライアンさんは何で本邸に……?」「旦那様の招集に応じて、今し方到着致しました」「オーリィ、オブライアンには大聖堂への潜入班に入って貰う」「潜入班……」「伯母上と義姉上とお前が正面から入る代わりに、オブライアンとアラベル、そしてスーランも潜入させる」「スーランも?」「まだ至らぬ所はございますが、ある程度は使えるかと」 オブライアンはそう言ってにこやかに笑って見せた。 いつもの笑顔が、少し怖く見える。 公爵はスーランをオブライアンに任せて躾け直すと言っていたけれど、それがどういうことなのかオルタナはまだ分かっていない。「スーラン、元気ですか?」「元気でございます。元気すぎて困っております」「ははっ、そっか。なら、良かった」「しかし、オルタナ様の専属護衛になるには、まだまだでございます」「え?」「オブライアン、種明かしが早過ぎるぞ。せっかくサプライズにしようと思っていたのに」「おや、それは失礼致しました。

  • 魔女ドーラの孫(仮)   作戦実行

    「伯母上がグラスの中身を彼女に掛けただろう? あの中身がお前も使っているあの香水と同じ成分の液体だった」「そうだったんだ……」 てっきり自分の項の香水で落ち着いたものだとばかり思っていたけれど、勘違いだった。 恥ずかしすぎる……。 そう言えば、と思い出す。 大公妃が「もう大丈夫ですね?」と確認していた――と。「お前の項だけでも効果抜群だったがな」「ふ、ふぅん……」「何だ? まだ腑に落ちないのか?」「な、何かいっつも荷袋の中に詰め込まれて運ばれてさ。はい、どーぞって舞台上に転がり出されるみたいな? ヴィー様だけが分かってて、僕いっつも踊らされてる感じじゃん。それが何か、居心地悪いって言うか……」「ぷっ、荷袋……」「わ、笑うな! 真面目に話してんだから!」「じゃあ、オーリィが聞きたい事を聞いてくれ。答えられる事にはちゃんと答えると誓う」 そうだ。彼には守秘義務がある。言えない事があるのは仕方ない事だ。 でも、今がおねだりチャンスじゃないのか? オルタナは失敗したら後がない、と生唾を飲む気持ちで口を開いた。「モ……モリガン大佐って、今、どうなってるの……?」「……誰に何を入れ知恵されたんだ? オーリィ」「え? いや、ぼ、僕は大佐がどうしてんのか気になって……」「オーリィ、交渉事に嘘は悪手だぞ。どうせ、義姉上あたりから頼まれたんだろう?」 秒でバレた……。「な……何でそう思うの?」「俺に兄上をけしかけて散々放置して、庭で楽しく過ごしていたのは誰だ?」「うぅ……ごめんなさい」「会いたいのか? ルアドに」「え? 会わせてくれるの?」「まぁ正直な所、こっちも膠着状態で困っているのは確かだからな」 公爵はモリガン伯爵が危篤状態で爵

  • 魔女ドーラの孫(仮)   クローゼットの攻防 Ⅱ

     オルタナは怒らせるかも、とは思っていたけれど、こんなに落ち込ませるとは思っておらず、こっちが悪い様な気になってしまった。「……別に、怒ってはないけど」「だが、手を振り払ったじゃないか……」「だって、あれはヴィー様が……丸め込もうとするから……」「別にしてない。顔色を見ようと近づいただけだ」「ほ、放って置いて欲しい時だってあるでしょ? 大体ヴィー様がいつも何にも教えてくれないから……」 責めるつもりは毛頭ないのに、責める言葉が口から零れる。「他の番の事か……?」「……分かってる。いづれはそうなるって分かってるけど」「いづれはそうなる、とはどういう意味だ?」「だって、僕にはヴィー様の子供は産めない。仕方ない事だって分かってる。誰か他の番が必要だって……」「違う! そうじゃない!」「はぇっ⁉」 急に声を荒げた公爵に、オルタナは驚き過ぎて変な声が出た。「俺がお前に“すまない”と言ったのは、あの場ではそう言う話にしておいた方が良かったからだ」「……どう言う事? って言うか、何にも教えてくれないんだから、そう思ったって仕方ないでしょ⁉」「……そうだな。すまない、オーリィ。だけど、俺は言ったはずだぞ。お前が唯一の番だと」「そ、れは……そう、だけど……」「俺はずっと不思議だった。ケルメスがお前の母君を愛妾として囲っていたのなら、妖精の様に美しいと噂のある母君によく似たお前に、もっと早く手を付けても良いはずだ。だが、ドーラ殿が捕らえられ十年経っても、ケルメスはお前を放置していた」「あぁ……うん、そう言われてみればそうだね」「それはお前が発情しないからだ」「え……?」「原初のΩの血を引いていても、発情していなければ利用価値がない」「なるほど……」 だが、オルタナはふと一つの疑問が湧いた。

  • 魔女ドーラの孫(仮)   クローゼットの攻防

    「ちょっと籠る! 開けないでね!」「ちょ、オーリィ……」 馬車の中でも無言のまま帰って来て、公爵も様子を伺っているような雰囲気だったが、そう言い捨ててオルタナはクローゼットの中に籠城したのだ。 公爵の高そうな服が隙間なく並べてあり、あの花の様な香りが漂うその狭くて暗いクローゼットの中は、案外落ち着く場所だった。 夜会に出たままの服装で潜り込んだから、手探りで装飾品の類を外して膝を抱えて座り込み「ふぅ――……」と息を長めに吐いた。 おねだりしないといけないのに、こんな風に勢い任せに立て籠もって、最悪公爵を怒らせてしまうかもしれない。 それでも「溜息をつきたくなる事」くらいは分かって欲しかった。 何でもかんでも自分で思い描いた通りに事を進めてしまう公爵に、隣を歩かせて欲しいなんて、我儘なのだろうか。 庇護されるだけの豚――そう言ったナタリスの言葉がチラついた。 モリガン大佐やラカンの増強剤の事も公爵と話さなければならない。 その上、大公妃とのネロ区視察は三日後だ。 こんな所で膝を抱えている暇はない。  けれど、オルタナにはこの儘ならない感情を整理する時間が必要だった。 そうでなければまた、一人で森へ飛び出してしまいたくなる。 そうして一人薄暗いクローゼットの中で延々と思考を巡らせている内に、いつの間にか落ちていたらしい。 扉の外は物音ひとつしないし、人の気配も感じられない。 公爵は流石に諦めて、放置する事にしたのだろう。「着替えないとな……」 そう独り言を呟いて恐る恐るクローゼットの扉を開けてみる。 居ないと分かっていても、用心するに越したことは無い。 ほんの僅か扉を開けた。  その隙間から見えたのは、クローゼットの向かいにある大きな寝台の縁に腰かけた公爵だった。 居るんじゃん――――!!

  • 魔女ドーラの孫(仮)   意地

    「それなら、私が。最近、ラカンの元密偵に伝手が出来たので」 そう言ったのはミレーだった。 確かに、アラベルなら用意出来そうだ。「でもミレー、親父さん達は今、別の仕事に取り掛かってるんでしょ?」「……まぁ、そこは何とかします」「そう……」 そのミレーのやり取りを見て、王妃は頬を膨らませてこう言った。「ミレー中尉ばっかりズルいわ」「え?」「オルティは私の友達なのに、私の事は愛称でも呼んでくれないし、未だに敬語なのよ? ミレー中尉だけズルい!」「いやぁ……ラチア様、それは……」 オルタナはその王妃の拗ねっぷりに、これが高等技術“スネル”か……と感心した。 とは言え、王妃相手に愛称呼びはスネルより更にハードルが高い。「二人だけの時は良いでしょ? それもダメ?」「うぇっ⁉」「だって私、オルティ以外に友達いないんだもん」「……」 それはズルいぞ、王妃様。 困ってミレーの方を見遣ると、こうなると分かっていた様な顔でウインクされた。「……じゃあ、二人の時だけ」「本当っ? 約束よ?」「わ、分かった……です」「んもぅっ!」「き、急には無理……だから、許して……ラ、ラティ」「ふふ、良いわ。ありがと、オルティ」 嬉しそうに笑う王妃は、まるでただの十二歳の少女に見える。 そう見えてしまうと、焦げ茶色の良く似合っていると思っていた美しいドレスも、聊か背伸びした様に見えて来るから不思議だ。 この時オルタナは、あれだけ「得策じゃない」と言われていたのに、無駄な意地を張る事になるとは露知らず、煌びやかな夜が更けて行った。◇◇◇ オルタ

  • 魔女ドーラの孫(仮)   おねだり作戦

     あからさまに焦った顔をして見せたノエルに、王妃は満面の笑みを見せた。「ルアド・モリガンの状況を知りたいわ」「えぇ――……それは守秘義務がありまして……」「そうね、少佐が王妃に話したとしたら処罰を受けるでしょうけど……ミレー中尉との会話を偶然何者かが聞いてしまったのなら、出所不詳で誤魔化せる」「えぇ⁉ まぁ、良いですけど」 いいんかい。 オルタナは危うくそう突っ込みそうになった。「おい、ミレー。ルアドの様子はやはりおかしいらしいぞ」 急に始まった寸劇もどきに、ミレーは慌てて答える。「お、おかしいって?」「痛みも感じてない上、正気を保っているとは到底思えないらしい」「特警預かりになったのに、正気を保っている方がおかしいでしょ」「薬物中毒じゃないかと、誰かが言ってた様な……」「えぇ⁉ 何の?」「あー、えー、それが分からないって話らしい」「こ、困ったわねぇ……」 ノエルとミレーは凄くカッコいいのに、酷い茶番だ。 余りの酷さに王妃と顔を見合わせて噴き出した。「「ぷっ……」」 ノエルとミレーは二人共恥ずかしそうに顔を背けている。「なるほど。そう言う事でしたか」「ラチア様? そう言う事、とは?」「ずっと不思議だったの。ルアドが口を割らない事もそうだけど、あの体格が異様で……」「体格? モリガン大佐は昔から結構大きかったですけど……」「でも、モリガン伯爵は&alph

  • 魔女ドーラの孫(仮)   アウルム地方 Ⅰ

     アウルム地方にあるサリバン公爵家の別荘へ来て一週間が過ぎようとしていた。 気候の良いアウルムではもう、雪の残る所はなく、芽吹いた若い緑が眩しい程だ。 オルタナの為に用意された特別な部屋とは、薬草に関する書籍や古文書が所狭しと並ぶ一室だった。 拘束も解かれその部屋を私室として与えられ、普通に暮らしていた。 そう、普通だ。「いや、おかしいだろ……」 目が覚めていつも思う。 ここで何をしているのだろうか?

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅴ

    「モリガン大佐に頼まれていたのは、ただの香辛料で……」「それが、悪用されたようだ」「あ、くよ……う?」「適量を守ればただの香辛料も、摂取量を間違えれば毒になる。彼らが死ぬ前に飲んだ酒には大量の香辛料が混入されていた」「ま、さか……大佐が……? 嘘だ……」「まだ、真相は分からん。だが、こんな分かりやすい方法で六人も害したとなれば、お前は犯人に仕立てられたんだろうよ」

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅳ

     祖母は顔の上半分が薬草に被れて、まるで火傷の痕の様に爛れている。 その見た目から祖母は魔女ドーラと揶揄されていた。「あぁ、いや違う。気を悪くするな。彼女は栗毛で肌も小麦の様だった。お前は銀髪に白い肌をしているから、こんなに違うものかと……」「そ、祖母に会ったことがあるんですかっ?」「あぁ、一度だけ。モリガン伯が薬物兵器を研究していた者を監禁していると聞いて、見に行った」「そう、ですか……」

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅲ

     今からでも逃げるか……いや、無理だ。 少なくともローブの男と大柄なノエルと呼ばれていた男は間違いなくαだろう。 ミレーと呼ばれていたもう一人は女性だったが、纏う雰囲気がもう凡人のそれではない。 間違いない、全員αだ。 詰んだ。 でも、どこかで逃げなければ、このまま監獄にでも入れられたら、本当に人生が詰む。 ドーン王国では魔女狩りと称して薬師が大量に殺された時代があった。 当時の王が薬師に王妃を殺されたとして、国中の薬師を虐殺したのがキッカケだったとか。 そのせいでドーン王国は他国に比べ薬学が廃れて久しい。 現王レイモンドは積極的に他国からの薬も輸入し、自国の薬師を増やす政

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