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政治の力学、希望の光

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-09-23 05:39:58

保護者会議から三日後、ハートウェル大佐から緊急の連絡が入った。

「お忙しい中、申し訳ありません」

帝都の軍本部に呼ばれたリリスとカインは、緊張しながら大佐の執務室を訪れた。

「いえ、こちらこそありがとうございます」

「まず、結論から申し上げます」

ウィリアムが厳しい表情で書類を見つめる。

「『特殊能力児童保護管理法』の撤回は、現時点では困難です」

リリスの表情が曇る。期待していただけに、失望は大きかった。

「しかし」

ウィリアムが続ける。

「法律の『運用』については、影響を与えることができます」

「運用とは?」

カインが身を乗り出す。

「法律は制定されましたが、具体的な運用基準はまだ決まっていません。そこに働きかけの余地があります」

ウィリアムが地図を広げる。

「現在、政府内部でも意見が分かれています。強硬派と穏健派に」

「強硬派は、すべての特殊能力児を即座に隔離施設に収容すべきと主張しています」

「穏健派は?」

「個別事案として慎重に検討し、家族との生活を最優先すべきという立場です」

希望の光が見えてきた。完全な敗北ではなく、まだ戦える余地がある。

「私は穏健派の議員たちと連携を取りました」

ウィリアムが名簿を取り出す。

「特に、教育委員会の委員長である セレナ・ウォルフ議員が、強い関心を示してくれています」

「どのような方ですか?」

「教育改革のエキスパートです。子供の権利を最優先に考える、信頼できる人物です」

「お会いできるでしょうか?」

「既に段取りを整えています」

ウィリアムが微笑む。

「今日の午後、非公式な会談を設定しました」

数時間後、一行は帝都の高級レストランの個室にいた。

「はじめまして、セレナ・ウォルフです」

現れたのは、知性的な印象の中年女性だった。上品だが親しみやすい雰囲気を醸し出している。

「こちらこそ。お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」

リリスが丁寧にお辞儀する。

「ハートウェル大佐から、アリアちゃんのお話を伺いました」

セレナが資料を開く。

「とても興味深いケースですね」

「興味深い?」

「ええ。特殊能力を持ちながら、それを人のために使う子供。これは教育学的にも非常に貴重な事例です」

セレナの視点は、政府の他の議員とは明らかに違っていた。

「通常、特殊能力児は社会適応に困難を示すことが多いのですが、アリアちゃんの場合は
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