ログインそこへインターホンの音が響く。
ハランがリビングに行き、モニターを見る。
「……。
レン、なんか、お仲間っぽいけど ? 」蓮に声をかける。
お仲間。 つまりヴァンパイアという事だが…… ?花瓶を抱えた霧香が戻って来た。蓮に手招きされ、モニター越しに声をかける。
「はい。どちら様でしょうか ? 」
『水野 霧香さんで間違いないですか ?
私、第三者委員会の者で、フィルと申します』「す、すぐ。お待ちください ! 」
ドタバタと玄関へ向かう。それに蓮も続いた。
残された希星が彩に聞く。「第三者委員会って、レンのお兄さんより上の人たちだよね ? 」
「そう言ってたな確か。王政区の中のってことだから、今来たのもどこかの王族のヴァンパイアなんだろうな」
「……こんな時に……タイミング悪いね……」
□
ヴァンパ
「ハラン、ありがとう」「ゴールドのフレームは青い髪にも似合いそうだね。早くいつものキリちゃんが見たいよ」 家では変装はしていないのだが……。家を出てから、ハランの口振りには何か定型されたような癖がある気がして、霧香はなんだか違和感を感じていた。 その違和感とは、いつも生配信など撮影の時に使われる表の顔と口振り。まるで決められた台本を読むように。「ライブハウスはどこなの ? 」「この先の繁華街の地下にあるんだ。ホワイトミントって所。 音ビルで一番規模が小さいところだよ。あそこは200人入れるかな。ギリギリ200って感じ。 京介に話通してあるからステージの袖の方から見れるよ」「え ! いいの !? 出演者にお邪魔じゃないの !? 」「大丈夫。相手も駆け出しだから、関係者繋がりは寧ろ是非見てくださいのスタンスだよ」「へぇ〜太っ腹だね邪魔にならないようにしなきゃ」「開場まで時間あるし、お昼にしようか。何食べたい ? 」「えっと……。じゃあ、服に臭いとか付かないところがいいのかな ? 舞台袖でも、スタッフさんいっぱいいるだろうし……」「あぁ、なるほど。そうだね。 じゃあ、お蕎麦なんてどう ? 」「あ ! 食べたい ! 家じゃ流石にシャドウくんも蕎麦はコネないしね」「あはは、そりゃそうだね。お蕎麦難しいって聞くし。 でもシャドウ君は本当に働くよねぇ。猫だなんて思えないよ」 タクシーに乗ってからも盛り上がる。「でも料理好きだし、頼めばうどんはコネてくれそうだよね」「シャドウ君のうどんか……力あるからな〜。凄いコシになりそう」「でもわたしコシが強い方が好き ! 」「ほんと ? 俺は鍋とかに入れて二日目のフニフニのうどんが好きだなぁ」「ハラン、顎だけお爺ちゃんなの ? 」「違うよ ! もう〜」
「わぁ〜 ! め、眼鏡屋さんってキラキラ ! 凄い ! 綺麗 ! アクセサリーみたい ! 」 眼鏡屋は視力の悪い人が買いに行く場所、と思い込んでいた霧香は、美しいショーケースやガラスケースを見て一気に心を奪われた。「綺麗〜……。サングラスってもっと真っ黒で縁も太いんだと思ってた……」 この発言からすると、霧香はガッチリ隙の無いサングラスは好みでは無いのだろう。「変装用にイメージ変えるだけだしね。伊達メガネでもいいと思うけど、カラーレンズなんかどう ? 」 ハランが銀縁で薄茶色のレンズの物を選ぶ。 そっと手に取り、頬を撫でるように霧香へ掛ける。「……眩しくないね……光が遮断される……」 ふと視界にハランがジッと見ているのに気付き、なんだか顔が赤くなる。 眼鏡を選んでいるのだから顔を伺われて当然なものだが、改めてこう眺められると緊張を感じる。「フレームも色んなのがあるよ」 そこでようやく店員が二人に付く。「いらっしゃいませ、星乃眼鏡店へようこそ〜。 本日はサングラスお探しですかぁ ? 」 霧香は反射的にハランの影に隠れる。店員に顔バレしたら……と、警戒したのだが大丈夫なようで安心した。 一方、店員は勿論プロである。誰、どんな有名人がフラッと立ち寄ったとしても、ギャーギャー騒いだりなどしない。「ファンです」「応援してます」くらいはあるかもしれないが、まずは商売だ。今の変装した霧香が噂の看板女性だとも思ってはいない。 当然、ハランは望んで店員を輪に入れる。「彼女にプレゼントしようと思って。普段掛けないんで、軽めの物で可愛いのがいいんですよね」「良いですね ! 形も色々ありますけどフレームが大きいと小顔効果もあって〜。 これなんかはフレームにストーンもあって人気です」「へぇ。やっぱり女性物は煌びやかでいいね
九月も半ばを過ぎた頃。 霧香は一人、姿見の前で服を合わせていた。 デート当日だ。 それでもなかなか服は決まらない。その上、中途半端な季節。山に行けば寒いかもしれないが、まだまだ街中は夏日和。 いつもは彩にコーディネートされている霧香だが、インスタや仕事以外とあらば霧香自身にお任せすると言い、最近は介入してこない。 髪をネットに押し込み、黒いウィッグを着用。この時初めてガラス細工のカチューシャを付ける。 ハランはいつも淡い色合いで、フワッとした締め付けの無い服を着ることが多い。それに合わせて、エレガントなグレートーンのロングワンピースとベージュブラウンの薄手の羽織物を選んだ。 レースや小物で可愛らしさをキープしつつ、落ち着いた雰囲気に纏める。めずらしく腕にブレスレットを付け、完成。 マスクをして部屋を出る。「お待たせ」 ハランは既にエントランスの椅子で読書をしていた。 グランドピアノとその椅子しか無かったエントランスだが、最近はここにもソファーを置いた。朝早く来た希星がここでピアノを弾くことがある。土日の目覚まし替わりだが、彩は欠かさずここで迎える。「じゃ、行こうか。 あ……そのカチューシャ。覚えててくれたんだね。使ってるところ見れて嬉しいよ」「うん。今日は絶対つけようって思ってたんだ」「似合ってるよ。髪の色はいつもと違うのに、凄く綺麗だよ」「あ、ありがとう」 玄関を出て、バスに乗る。「キリちゃん、眼鏡とかはしないの ? 」「それなんだけどね。一個も持ってないの。サングラスを買おうと思ったんだけど、全然似合わなそうだし……ネットで見ててもイメージが湧かなくて」「キリちゃんなら、少し色付きの可愛い物でもいいかもね。 そうだ、今から買いに行こうか」「え ? いいの ? ごめん、用意してなかったばっかりに……」「違うよ。特に今日は決まった予定とかない
本日は日曜。蓮もハランも恵也もシフトは空けてある。本来、昨日ホームパーティでガッツリ酒を楽しむつもりでいたからだ。 だがフィルが来たことで、ただの接待になってしまった。 ただでさえ塩っぱい事態だが、更に彩からミーティングとしてスタジオに集められる。「なんの話 ? 」 霧香もポカンとしてボードを見上げる。 そこにはLEMONの大まかなプラットフォームの光景が印刷されて貼られていた。 彩はマジックを手に取ると、以前蓮に話した、LEMONの中の活動内容を話していく。「と言うわけで、日本版LEMONの外周はそれぞれの国のワールドホームがあるから、そこから移動。 どこでもいいよ。LEMONが配信される国なら。CITRUSにはもう話してあるから。 全員考えておいて。もし早く纏まったら、LEMONのプレオープンに各国でライブして、正式オープンには日本版の俺達の屋敷に遊びに来れるようにしたい。 ……とにかくLEMONで名を売りたい。 各国、リーダーのコンセプトには従う事。ただし、音楽や演出の範囲内だ。セクシュアリティな問題や、軽犯罪の……うちはないと思うけど過剰なパフォーマンスとか、その時は俺が口出させて貰う。 十二月まで遊べないから。下積み時代だと思ってガッツリ悩んで」 自曲だけに全振りの霧香が一番の困惑の色を見せた。「お、思い浮かばないよ。わたし、日本しか知らないもん。 ぐ、具体的に……今の話でイメージ出来た人いる ? 」 これに対し、先に話を聞いていた蓮より先に恵也が手を挙げる。「俺はまぁ、アメリカとかかな。国はアジア以外で、演目は和太鼓 !! 全員、和装でさ。派手にやるの。サムライとか忍者みたいなのコスプレして。サムライとか人気じゃん」「あ、それ絶対無難だよ ! 」「確かに人気はある。けれど、LEMONはバーチャルだってことを忘れないで欲しい。侍がガチで好きなアメリカ人が侍のアバターに課金してるか
「ヴァンパイアは人間に近しい悪魔の一種ですしね。実は、人間界に行くヴァンパイアは統括がしっかり天使に報告、許可を取っています。当然です。 天使の許可が無ければ、人間界で鉢合わせする度に戦争になってしまいます」「な、なるほど。天使《おれ》は上司に報告ってくらいで気軽に来れるからなぁ……考えもしなかったな……」 それを聞いていた彩と恵也は、地獄を知らない分ピンと来ていないが、契約者である以上他人事では無い。「その82人はわたしを認識していますか ? 」 霧香の質問に、フィルが頷く。「ええ、ええ。それなんです。 最近突然、霧香さんが人間界で何をしているのか聞かれる機会が増えましてね。 え〜、私たちとしては静かに過ごしていただきたいのですが、音楽活動をするという事ですよね ? 統括から許可がでているので、私たちに止める権限は無いのですが、他の日本に住むヴァンパイアから不安視する声が多くてですね……」「ヴァンパイアである事は必要最低限の人しか知りませんし、わたしが音楽活動するのはそんなに問題なのでしょうか ? 」 フィルは一瞬考え込むと、言葉を選ぶように話始める。「まず、他のヴァンパイア達ですが……ほとんどは人間と結婚されて、その伴侶が亡くなるまで人間界へ定住が決まっている方です」「人間と……結婚……」「色々です。お嫁に来た方も、巨万の富を得ながらも人間の女性を娶った方も……ヴァンパイア領土に来て一緒に生活、とは行きませんので。皆さん慎ましく生活しています。 それでですね、霧香さん。 最近、意味もなくあちこちにブロマイドのような広告看板を乱立しているのはどういう事なのか……と、疑問の声が上がってまして……」 LEMO〜N……。
そこへインターホンの音が響く。 ハランがリビングに行き、モニターを見る。「……。 レン、なんか、お仲間っぽいけど ? 」 蓮に声をかける。 お仲間。 つまりヴァンパイアという事だが…… ? 花瓶を抱えた霧香が戻って来た。蓮に手招きされ、モニター越しに声をかける。「はい。どちら様でしょうか ? 」『水野 霧香さんで間違いないですか ? 私、第三者委員会の者で、フィルと申します』「す、すぐ。お待ちください ! 」 ドタバタと玄関へ向かう。それに蓮も続いた。 残された希星が彩に聞く。「第三者委員会って、レンのお兄さんより上の人たちだよね ? 」「そう言ってたな確か。王政区の中のってことだから、今来たのもどこかの王族のヴァンパイアなんだろうな」「……こんな時に……タイミング悪いね……」 □ ヴァンパイア王族はトップをディー · ニグラムとし、他の王族も勿論それを支える。以前は統括者を奪ったり奪われたりと内戦もあったが、今は統括者と第三者委員会という二つでバランスがとれている。 第三者委員会の構成は、第一王子を除いて、それぞれの王家の王子と王女で構成される。 現に今、食堂に通されたフィルは第三王子で、獅子の紋章の王家の末っ子である。 子供達を差し出すことで、王同士で諍いが起きにくく、子供側は自分たちの未来に関わる為上手く外交しようとする……ということなのである。 統括も彼らに危害を加えたところで、跡取りでは無い以上、影響を与えられない。その為、不要な殺戮を生まないのだ。 とは言え、箱入りなのは当然なことで……フィルは初めての人間界に緊張していたが、すぐに懐柔された。「これも取り分けましょうか ? 」「お……おい。落ち着いて食えよ…… ? 」 金色の短い猫っ毛と紋章付きの青色のローブ。 フィルは初めて食べる人間界の美食にフォークが止まらなくなってしまったのだ。







