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CASE:4 お前……酔ってるな

作者: 桐生桜
last update 公開日: 2026-06-10 06:41:31

 その日は、部署の飲み会。

 慧はいつものように、静かにグラスを傾けていただけなのに……。

 女性社員たちがこぞって席を替わりながら話しかけてくる。

「部長って彼女いないんですか?」

「え、じゃあ今フリー? すっごい意外!」

「休日は何してるんですか? 今度よかったら……」

(……またかぁ……)

 莉央は、笑顔で対応する慧を横目に、黙々とビールを煽っていた。

(わかってる。部長は悪くない。この状況はいつものことだけど……でも、やだ……)

 グラスを置く音が、少しだけ強くなった。

 気づけば、顔がぽーっと熱くて、思考もふわふわ。

 そんな莉央を見て、慧が声をかける。

「白石、飲み過ぎだ」

「んー……やだ。まだ飲む」

「もう十分飲んだだろ。ふらふらしてる」

「してないもん……っ」

「いいから帰るぞ」

 なんとか連れ出された帰り道。

 酔った莉央は千鳥足で、明らかに様子がおかしい。

「少しここで休もう」

 近くの公園のベンチに、そっと座らせてくれる。

「黒瀬部長って……ほんと優しいですよね……」

「そうか? 普通だろ」

「いえ……優しいですよ……」

「お前はお酒弱いくせに、無理するな」

「だって……部長がモテるからぁ……」

「……は?」

「いっつもモテてて……顔もかっこいいし、仕事もできるし、みんな好きになっちゃうの当たり前じゃないですかぁ……」

「お前……酔ってるな」

 もう自分が何を言いたいのか分からなくなってきた。

「最初……怖かったんです。部長のこと。目つきとか、無口だし厳しいし……でも」

 少し潤んだ瞳で、慧を見上げる。

「でも……ちゃんと知ったら……すっごく優しくて、ちゃんと人を見てて……すごいなって思ったんです。自分にも他人にも厳しいのに、嫌われないの、凄いです」

「………」

「言ったことは必ずやり遂げるし……その、なんか……」

「…………」

 次の言葉を待つ慧が息を飲んだその瞬間……。

「……すごく……だから………私………」

 コテン。

「……おい」

 莉央の頭が、慧の肩にトンと預けられている。

 すやすや寝息を立てる莉央の顔は、赤く染まっていて……。

「……ここで寝るなよ」

 小さく笑って、慧はそっと莉央の髪を撫でた。

 翌日。

(……うーん、頭が痛い……)

 目覚めた瞬間、軽い二日酔いと共に、ふとよぎる昨晩の帰り道。

(そういえば、黒瀬部長が送ってくれたんだっけ……)

 ベンチに座っていたことまではなんとなく覚えている。

 でも……その後、どうなったっけ……?

(……いや、でもまぁ、特に何もなかった……はず)

 そんなモヤモヤした気持ちを引きずったまま、会社へ。

 昼休み、給湯室でばったり慧と遭遇。

「白石、体調どうだ?」

「えっ、あっ……えっと、はい! 元気です! あの、昨日は……すみませんでした……」

「謝らなくていい。いいもん見れたし」

「……え、いいもん?!」

「うん。初めて聞いた」

「……え? な、なにか言ってました……私?」

「ふっ……」

 その笑い方が、明らかに何かを知っている余裕のある男のそれで……莉央の心臓が、バクンッと跳ねる。

「『最初は怖かったけど』って」

「!!?」

「『すっごく優しくて、ちゃんと人を見てて……』って」

「わああああ!! ちょ、ちょっと待ってくださいそれ以上は!!」

 莉央は耳まで真っ赤。

 動揺しながらお茶を入れようとして、スプーンを落とす。

「危ない」

 さっと拾ってくれる慧。

 その指先が、莉央の手に軽く触れる。

「……なぁ、白石」

「は、はいっ……!」

 緊張の面持ちをした莉央に慧は……。

「………いや、なんでもない。次のプレゼン、頑張ろうな」

「はい! 頑張ります!」

To be continued

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