一郎は驚いた。「じゃあ、お前はいったい何をしに来たんだ?」「お前、妹を孕ませたんだぞ。責任を取らないつもりか?奏が今いないからって、うちの妹を好き勝手に扱えると思うな!」哲也は目的をはっきりと告げた。「お前は絶対に彼女と結婚しなきゃならない!」「え?」桜は目を大きく見開き、兄の言葉の意味が理解できなかった。「なるほど、結納金が欲しいんだな。いくら欲しい?言ってくれればすぐ払う。これでいいだろ?」一郎は穏やかに交渉を試みた。「結婚のことはさておき、お前の妹を娶る気はないし、彼女も僕と結婚したくない」その言葉に哲也は激怒し、怒鳴りつけた。「桜!お前、頭がおかしくなったのか?こいつがどれだけ金持ちか分かってるのか?もう妊娠してるんだ、さっさと結婚しろ!こいつ以上の相手なんて絶対にいないんだぞ!」桜は困惑して言った。「兄さん、お金が欲しいなら彼に言えばいいでしょ。私に怒鳴らないでよ」「お前は本当に馬鹿だな!」哲也は妹を罵ったあと、一郎に向き直った。「やっぱりお前と二人で話す」一郎は、桜の顔が真っ赤に染まるのを見て心が痛んだ。「桜、先に帰りなさい」彼の言葉に従い、桜は足早に空港を離れた。一郎は哲也を予約していたレストランへ連れて行き、昼食をとることにした。席に着くと、哲也はいきなり本題を切り出した。「お前は絶対にうちの妹と結婚しろ。さもなければ、子供を堕ろさせる」一郎の口角が引きつった。「哲也、落ち着け」「調べたんだ。お前は結婚歴もないし、隠し子もいない。つまり、妹の腹の中の子はお前の初めての子だろ?もう年も年なんだから、この子を失いたくないだろ?」初めての子という言葉が、一郎にダメージを与えた。「二つ選択肢をやる。今すぐ結婚式を挙げるか、出産後に挙げるかだ」哲也は一切の猶予を与えなかった。「出産後だ」一郎は即答した。どうしても子供を失うわけにはいかない。彼の両親はそんな結果を受け入れられないだろう。今回両親が訪ねてきて、桜が妊娠したことを知り、それはもう大喜びだった。両親のここまで嬉しそうな姿を見るのは、本当に久しぶりだ。白髪が増えた両親に、せめて穏やかな老後を送ってもらいたい、そう思った。哲也はその答えに満足して、ようやく口調を緩めた。「じゃあ次は結納金だな」「いくら欲しい?僕は金
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