「おまえが死んでも、彼女は元気に生きている。今回の一件は俺が仕組んだ罠だ。あの男は実際には手を出していないから、けが人も出ていない」雅彦は冷たく告げた。「そして今回は絶対に許さない。保釈で逃げられると思うな。うちの弁護士がきちんと裁きを受けさせる」そう言うと、雅彦はくるりと背を向けた。まともな判断を失った女と、これ以上話す気はない。だが、ジュリーのあの激しすぎる憎しみには、雅彦も少し引っかかるものがあった。ジュリーが失脚したあと、雅彦は彼女の持つ人脈や資産をいくつか押さえ、会社にも大打撃を与えたが、家族にまで手を出すほど暇ではない。愛人をけしかけて父親の立場を奪う?そんなくだらないことはしていない。それなのに、ジュリーの言葉は自分たちを本気で恨んでいるように聞こえた――まるで事実かのように。雅彦が考え込んでいると、莉子がうなだれて近づき、「私がやったの」と謝った。雅彦は眉をひそめた。「なぜ勝手な真似を?」「だって、あの女が前に雅彦にひどいことしようとしたの、思い出しちゃって……それに、今までのやり方も汚かったし、同じ目に遭わせてやろうと思っただけ。でも、逆に怒らせちゃって、桃に手を出すなんて……私が甘かった」莉子は目を潤ませて頭を下げた。「もし桃に何かあったら、私、一生許されない……叱りたいなら叱って」その言葉に雅彦は怒りを収めた。確かに、莉子には悪意があったわけじゃない。ジュリーへの仕返しと、自分のためを思っての行動だった。少し黙ってから、雅彦はため息をついた。「気持ちはわかるが、追い詰めすぎれば何をするかわからない。ジュリーはもともと手段を選ばない。これ以上は何もするなよ」「……わかった。もう二度としない」莉子は頭を垂れながら、内心では少し嬉しかった。莉子はよく知っている。雅彦は外見こそ冷たく見えるが、身内にはとても甘い人だ。自分を味方と見なしている相手の失敗なら、よほどの大問題でないかぎり大目に見る。今回、彼女は少し焦ってジュリーを追い詰めすぎた。結果として桃を危険にさらしたものの、動機は雅彦を守るため。大事には至らなかったので、雅彦は軽く注意しただけだった。つまり、以前の出来事で雅彦が自分を遠ざけたわけではなく、今も身内として扱っているということだ。そう悟った莉子の胸はすっと軽くなった。
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