鷹は越人の後ろに立ち、目を伏せていた。香織を直視しない姿勢だ。奥様が家族ごと急に飛び出すなんて、よほどのことがあったに違いない。「奥様……」越人が彼女を見つめた。「一緒に彼を探しに行ってほしいの」香織は言った。「私一人で十分です。こちらのご家族は――」「ここは、鷹に任せようと思ってるの」香織は視線を鷹に向けた。「子どもたちを守ってくれる?」鷹は一歩進み出た。「承知しました。全力を尽くします」香織が鷹を連れてきたのは、最初からこのためだった。彼の能力を信頼していた。越人はまだ止めようとしたが、香織に先に遮られた。「行かせてくれなければ、私は安心できないの」越人は彼女の決意を知り、それ以上は言わなかった。「奥様、どうぞご安心を。家のことは、任せてください」鷹は言った。香織は彼をまっすぐ見つめ、感謝を込めて言った。「ありがとう。あなたに任せれば、間違いないわ」鷹は目を伏せたまま言った。「そう言われるとプレッシャーです」越人が彼の肩を叩いた。「頼んだぞ」「仕事ですから」鷹はわざとらしく付け加えた。「報酬をもらっている以上」最後の一言は、あくまで契約関係であることを強調するためだった。香織は圭介のことで頭がいっぱいで気づかなかったが、越人はこの不自然な発言に違和感を覚えた。しかし、深く追及することはしなかった。確かに、鷹は圭介が高額で雇った身なのだ。「長旅で疲れたでしょ?少し休んで」香織が鷹に言った。鷹は「はい」とだけ答え、部屋を出た。「今すぐ出発できる?」彼女が越人を見て言った。「できます」越人も腹をくくった。――どんな結果でも、彼女自身が見たほうがいい。「少しご飯食べてください。私は手配してきます」越人が言った。香織は頷いたが、食欲はまったくなかった。その返事は、彼に準備の時間を与えるためだった。彼女は振り返って、ベッドで眠る次男を見つめた。頬は桜色に染まり、愛らしい寝顔をしていた。香織は優しくその頬に触れた。くすぐったかったのか、次男は首をふりふりと動かした。香織はそっと手を引っ込めた。「ママ」双がドアに顔を出した。香織は手招きした。「おいで」「おばあちゃんがご飯食べてって」双は入って来ずに言った。恵子がわざと双をよ
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