高い地位に長く身を置いてきた者は、嫉妬の仕方まで控えめで内に秘めているものだ。「そこに立ってるってことは、俺らの食事を給仕するつもりか?」鷹が冗談を飛ばすと、海人は隣の椅子を引き、指先でコンコンと二度叩いた。「座れよ」清孝は、自分が完全に孤立しているのを悟った。それでも黙って椅子を引き、紀香の後ろに腰を下ろした。そのタイミングで、鷹が立ち上がり、南ごと椅子を二つ横へ動かし、自分もその隣に座った。清孝はその隙をついて間に入り、狙い通り紀香の隣に座ることに成功した。そして横目で鷹に、暗黙の了解を含んだ視線を送る。鷹は気の抜けた笑顔で返した。「借り、一つな」「……」清孝「その借り、一生返しきれない」……道木家。海人が大阪に戻った後、青城もすぐに戻ってきていた。まずは密かに菊池家へ連絡を入れ、反応を待っていた。だが菊池家は一向に何のリアクションも見せなかった。海人と来依は相変わらずラブラブで、愛の巣にこもっていた。今夜も一緒に車で出かけており、焦った様子や喧嘩、別れの気配は一切なし。彼はネットの画面を睨みつけていた。お金をかけて上位に押し上げた検索ワード、彼らをめぐる議論を眺めていた。……海人の意図が、読めない。「勝算はあるのか?」と父が尋ねた。青城は親指にはめた指輪を回していた。普段は目に鋭さが宿っている男だったが、今はその光も鈍く、むしろ陰鬱な空気を纏っていた。今回もし失敗すれば、道木家は二度と立ち上がれなくなるかもしれなかった。「鷹が偽の河崎清志を連れて行った。海人の側近がずっと調査してる。たぶんあいつの手元には、お前の弱みもあるんじゃないか?だからあんなに落ち着いてるんだ」父は改めてそう分析した。だが青城は何も答えなかった。彼はこれまで慎重に動いてきた。確かに道木家のやり方は綺麗じゃない。けれど、自分の手は真っ黒ではない。少なくとも……致命的な証拠は握られていない。多少の裏取引程度では、海人も大きな打撃は与えられないはずだった。むしろ、来依の件のほうが危うい。河崎清志の背後には人命が絡んでいる。来依は海人の婚約者という肩書を持っている。その存在は、海人の進む道に大きな障害となる。海人さえ路線を変えれば、道木家にはもう敵がいなくなる。
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