交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 1851 - チャプター 1860

1920 チャプター

第1851話

辰巳は何も考えずに尋ねた。「唯花さんはどこに行ったの?」それに咲が答えた。「出張でしょ、確か唯花さんは二日ほど出張するって言ってたもの」咲は目が不自由だから頻繁に出張する必要はない。今は浩司が来てくれるので、彼女が行かなくてもいいのだ。咲は会社に行きたいと思っているが、自分は目が見えないし、遠出をするのも面倒だ。プライベートジェットがあれば話は別だが、柴尾家は所有していない。婚約している辰巳の家にはあるが、咲はそれを使いたくなかった。理仁はその説明はしなかった。このまま妻は出張していることにしておこう。妻が家にいないので、彼は日に日に辛く感じていた。時間が経つのがものすごく遅く感じられる。こんなに時間が経ったのに、太陽はしっかりと空高くに掛かっていて、正午にもなっていないのだ。暗くなるにはもっと時間がかかる。一日がまるで一年のように長く感じられてしまう。それは大袈裟な話ではない。理仁はこの時初めてこのような気持ちを思い知らされた。唯花が柏浜にいると知り、すぐにでも追いかけようと思ったら、まさかおばあさんが唯花を連れてまたどこかへ行ってしまったのだ。「隼翔、車から降りるか?」理仁は尋ねた。隼翔は少し考えてから言った。「理仁、辰巳君と一緒にちょっと体を支えてくれないか?」理仁はまず車椅子を降ろしてから、辰巳と一緒に隼翔の体を支えて車から降ろし、座らせた。「東さん、こんにちは」隼翔の声を聞き、咲はその声がしたほうへ顔を向けて、丁寧に挨拶をした。「柴尾さん、薔薇の花束をください」「わかりました、今からご用意しますね」咲は微笑んで返事し、後ろを向いて中へ入っていき、慣れた手つきで隼翔の注文の花束を作った。この時、辰巳は手伝わなかった。咲は手伝ってもらう必要がないからだ。彼女が慣れた環境であれば、普通の人と同じように生活することができる。それを知り、辰巳はずっと彼女を指名して花束を届けてもらっていた。それは彼女が花屋から結城グループまで自分で来られるように慣れてもらうためだった。そして、今辰巳は頻繁に咲を自分の家に連れて帰っては、その環境に慣れてもらっている。酒見医師が出産を終えて、一カ月ほど体を休めてから、咲の目の治療をすると約束してくれてはいるが、辰巳は最悪の場合も考慮して行動し
続きを読む

第1852話

「私は東さんの気持ちが理解できるわ」咲は自然な様子で続けた。「今まで元気だったのに、突然交通事故に遭って両足に重傷を負って、立てなくなったんだもの。暫くはそれを受け入れられないのは普通のことだわ。彼はまだマシなほうだと思う。多くの人が彼よりも自暴自棄になって、自分に障害が残ったその事実を受け入れられなくなるもの。当時、私が死の淵からなんとか戻って目を覚ました時、目の前は真っ暗だった。その時おばさんの声が聞こえてね、それで夜なのにどうして電気をつけないのかって尋ねたんだよ」当時、彼女が失明したばかりの頃を思い出していた。咲はとても落ち着いていて、まるで他人事のようだった。「おばさんは昼間で、その日は快晴だから電気なんてつける必要はないって言ったの。そしてすぐおばさんは驚いてた。彼女は何度も私に目が見えないんじゃないかって聞いてきた。私は見えない、目の前は真っ暗だって答えたら、おばさんが慌ててお医者さんを呼んだのよ……それで失明してることがわかって、彼女は私を抱きしめて大泣きしてた。その瞬間、この世の終わりのように感じた。闇の中にいてすごく焦ったわ。何も見えないから安心感がなくて怖かった……」咲は笑った。「ここまでにしよう、もう過去の事だもの。今はこの真っ暗な世界に慣れちゃってるし。もうすぐ学校が始まる時期よね?」咲は突然そのような質問を辰巳にした。「そうだね、流星君に会いに行きたいの?」咲の弟の流星は九月入学が選択できる大学を選び、もうすぐ入学するのだ。しかし、その大学は星城から遠く離れている。咲は弟が一人でそんなに遠い所にある大学に通うのは不安だった。しかし、弟は自立心が強い人間だから、自分のことなら自分でできるので、彼女に心配される必要はない。ただ、姉と弟はこの時もまだギクシャクした関係のままだった。流星はおばである裕子と一緒に結城家に咲と辰巳の結婚式のことを話し合いに行ってから、婚約パーティーを終わらせると、家には戻って来ていない。あれから姉とは一切会っていなかった。「きっとまだ私のことを恨んでて、会いたくないんだと思う」咲はため息をついた。彼女は弟が距離を保つのを自分自身気にしていないと思っていたが、時間が経てば経つほど、やはり大学が始まる前に姉弟二人で話したかった。しかし、残念なことに弟は彼女に会お
続きを読む

第1853話

咲は辰巳の口を押さえていた手を引っ込めて、平然とした様子で立ち上がった。まだレジの後ろから出てくる前に配達を終えた店員が店に入ってきた。辰巳は顔をこわばらせてその場を離れ、引き続き花に水をやった。その店員は配達してきた花の代金を咲に手渡し、さっき横を通り過ぎていった辰巳のほうを振り返りちらりと見た。辰巳が店から出て行き、外の花に水やりをし始めると、彼女は声を小さくして尋ねた。「店長、私やらかしちゃいました?」咲は店員からそのお金を受け取って、指でいくらか数えた。金額に間違いないことを確認すると、その店員に答えた。「そんなことないわよ。あなた達二人ともよく働いてくれてるし、何かやっちゃったことなんてないわ」「それなら良かったです。何かまずかったかなと思って。さっき結城さんとすれ違った時、なんだか彼に睨まれたような気がして」自分が何か悪いことをしたわけではないとわかり、店員はほっとと安心した。咲は心の中で婚約者の彼に愚痴をこぼしたが、それを顔には出さずに微笑んで言った。「きっと見間違いよ、辰巳さんがあなたのことを睨むわけないじゃない。だけど、多分彼は真顔でいると、ちょっと厳しそうに見えるかも、だからそんなふうに感じてしまったのかもね」辰巳は咲の前では穏やかで優しい紳士だが、他の人間の前ではそれとは違う顔をしていると咲は自信を持って言える。ただ、彼女はそれを見たことがないだけだ。咲は彼がどのような顔をしているのかさえ知ることはできないのだから。「きっと私の勘違いです。店長、あなたの言ったとおりですよ。結城さんは店長の前ではとても穏やかな方ですが、他の人の前ではすごく険しい表情をされてるんです。相手を凍りつかせてしまうような冷たい雰囲気だから、なんとも近づきがたいというか」店員がその話をする時は、辰巳に聞こえてしまわないように、小さく声を抑え、大きな声を出すことはできなかった。辰巳は耳が良いので、実際は聞こえているが、店員からの自分の評価など全く気にしていなかった。それも咲だけには特別なのだということを暗に示すことにもなっているので構わない。彼は仲の良い人の前ではいつだって穏やかでいる。咲は笑った。「彼は私の前だって穏やかで優しいとは言い切れないわ。結構彼って……図々しいところがあるから」その言葉に辰巳は言葉を失ってい
続きを読む

第1854話

ブルームインスプリングは市内にあって、スカイロイヤルホテルからはそう遠くはない。辰巳と咲はすぐにホテルに到着した。この時、流星がどこへ行くのか、リュックを背負ってちょうどホテルから出てきたところだった。辰巳は急いで車を降りて、咲に言った。「流星君が外出するみたいだ。彼に声をかけてくるから、君はゆっくり降りておいで。気をつけるんだよ」「わかった、早くあの子を呼び止めてきて。私は自分で降りられるから大丈夫よ」咲はよく辰巳から彼の車に乗せられて外出をしていたので、すでに慣れていて、躓かずに自由に彼の車に乗り降りできた。辰巳は急いで流星のほうへ駆けていった。流星は恐らくホテルに頼んでタクシーを呼んでもらっていたのだろう。彼はホテルの入り口に停まっている車に向かってそのまま歩いていき、ドアを開けて乗り込もうとした。「流星君」流星が振り返ると、そこには自分のほうへ向かってきている辰巳の姿があった。そして視線を彼の後ろに向けると、姉が杖をついてやって来ていた。この時、ホテルから急いで駆けだしてきた人が咲にぶつかりそうになった。流星はそれを見た瞬間、無意識に前に足を出したが、またそれを引っ込めた。咲は怪我などしていなかった。その人物は咲の白杖を蹴飛ばしてしまい、彼女が目の不自由な人なのだと気づいて、何度も謝っていた。「姉さんは目が見えないのに、ぼけっと立って彼女が一人で歩くのを見ているだけなんですか?」流星は思わず辰巳に文句を言った。辰巳は後ろを向いて咲を見た。彼はさっきのシーンを見てなかったので、咲が危うく人にぶつかってしまうのに気づいておらず、言った。「お姉さんはここには何度も来ているから、ゆっくり歩けば問題ないよ。咲も君が行ってしまうと思って、俺に先に呼び止めておいてほしいって言ったんだよ。君はこれからどこに行くんだ?」辰巳が流星に尋ねている時、視線はずっと咲に注がれていた。流星は少し怒っているようだった。さっき辰巳はあのシーンを見ていなかったので、別にぐちぐち言うつもりはないが、今辰巳は姉のほうを見ている。それなのに、彼はそこから一歩も動こうとしないのだ。ちょっと姉のほうへ行って、手を繋いで一緒に来ることだってできるというのに。「あなたは普段からこうやって姉さんの世話をしているんですか?いつも彼女一人で道を
続きを読む

第1855話

流星は心の中でよくわかっていた。尾崎家と黒川家がこのようにするのは、流星の父親である正一を救い出して自分たちの利益とするためだ。長女の咲が柴尾グループを統率するようになってから、あの両家はうまい汁をすすることができなくなった。柴尾邸も今は咲が所有し、二人のおばはその家の財産を得ることができなくなってしまった。おば二人は今でも平然と咲を貶める言葉を浴びせていた。「君のお姉さんは自立心が強い女性だ。なんでもかんでも俺に頼るのは嫌がるんだよ。なんだか俺の足を引っ張るような気になってしまうんだろう。俺は裏できっちり彼女の安全は確保しているから、彼女の好きなように行動してもらって大丈夫だよ」辰巳は落ち着いた声で言った。「お姉さんの目を診てもらうために、酒見医師には連絡してある。それでも最悪の状況を考えておいたほうがいいと思う。もし、酒見さんでも治すことができないのであれば、君のお姉さんは一生暗闇の中で過ごすことになる。彼女は俺と一緒にいると確かに卑屈になってしまうところがある。ただそれを気づかれないようにうまく隠しているだけだ。だから、彼女には俺といても足を引っ張るようなことはないと思ってもらいたいんだ。彼女が自分でできることは全て自分でやったほうが、俺と一緒に生きていくことに自信が持てるはずだ」流星は彼を見つめ、少し焦った口調で尋ねた。「その酒見さんはあの名医の唯一の教え子なんですよね。名医からその技術全てを教えてもらってるって。医療の知識も毒物にも精通しているんでしょう?そんな彼女でも姉さんを治せないということがあるんですか?」自分の姉が失明したのは全て彼の両親のせいだ。もし、咲の目が治れば、流星の気持ちは幾分か楽になる。「酒見さんは確かに医療知識も毒物の知識も豊富だけど、今はまだ星城に咲の目の治療に来ることができないんだ。今俺たちも絶対に彼女が咲を治療できるとは断言できない。だから、最悪の状況も考えておいたほうがいいんだ。流星君、安心して、君も裕子おばさんも俺のことをとても信用してくれて、俺に咲をあずけてくれただろう。絶対に彼女のことは全面的に守って、幸せにしてみせるから」流星は何も言わなかった。「二人は俺に何か用があってここに来たんですね?」辰巳は頷いた。「君はこれからどこに行くつもりなんだ?」辰巳はもう一度義弟とな
続きを読む

第1856話

辰巳は彼女の体を支えようとしたが、それを彼女が拒もうとしたので、辰巳は言った。「流星君から俺は咲に優しくない、ちゃんと気を使わずに一人で歩かせようとしてるって責められるからさ、今はこの手をとってよ。彼は君が慣れない道でどこかにぶつかったり、転んだりしないか心配しているんだ」辰巳の話を聞いて、咲は彼の言う通りに体を支えてもらって言った。「流星は私のことを気にしてくれているのね」「君たちは実の姉弟だろ。血が繋がってるんだから、もちろん姉である君のことを心配するに決まってるよ」咲は歩きながら言った。「彼って良い子だわ。小さい頃から私のことを尊重してくれて、両親の前でも私を庇っていてくれたもの。流星が両親の持つ闇の部分を受け継いでいなくてよかった」昔、咲は弟に対して冷たい態度をとっていたが、内心では弟のことをとても気にしていた。昔の柴尾家で、本当に咲のことを家族として見ていたのは、この異父姉弟である流星だけだった。カフェに入ると、流星はそれぞれに一杯ずつコーヒーを注文した。椅子に座ると、咲は手を伸ばして弟に触れようとした。流星はその手を避けようと思ったが、姉の目と合い、彼はその考えを捨てた。姉の瞳はとても綺麗だ。次女の鈴は咲のこの美しい瞳に嫉妬していた。彼ら三人は同じ母親から生まれてきたのに、どうして流星と咲の目がとても綺麗で、自分の目は二人よりも小さいのかと鈴が言っていた。それに鈴だけが一重まぶたで、今二重なのは整形したからだ。鈴は二重まぶたにしたというのに、生まれつき大きな瞳をした咲のほうが綺麗だった。そんな綺麗な目を持っているのに、もう十一年も目は見えないままだ。光のある世界から突然暗闇の底へ落とされてしまい、こんなに長い間過ごし、姉はどれだけ苦しんできただろうと流星は思っていた。あのタコができている手で優しく流星の顔を咲が撫でると、流星はかたかった表情を幾分か和らげて、何度も姉に撫でられていた。しかしこの時、姉の婚約者の嫉妬に燃える視線に気づき、流星は言葉を失った。この姉の婚約者は少しばかり理不尽すぎる。実の姉と弟同士だぞ。姉の目には流星はまだ子供に映っている。十八歳にはなっておらず、まだ未成年だからまだまだ子供だと姉は言うのだ。流星が実の姉から顔を撫でられている様子を見て、未来の義兄が
続きを読む

第1857話

一度言葉を止めてから、咲は優しい声で言った。「流星、柴尾グループは私たち柴尾家の会社であって、私たち二人が責任を持たないといけないの。もし手伝うならあなたが手伝うべきだわ。忘れないで、うちの財産はあなただって受け取る権利があるってこと。大学が始まったら、あまり余計な事は考えないでしっかり勉強してね。大人の事は私たち大人が解決するから。大学生活もあまり節約しようとしないで、お金が足りなくなったら私に言って、口座に振り込むから」流星は姉を暫くの間見つめていてから、突然尋ねた。「本当にうちの財産の一部を俺に渡してもいいの?」周りの親戚が流星に、お姉さんは柴尾グループを継いだら絶対に会社を独り占めにして、彼には関与させないと言っていたのだ。それに柴尾家の財産を彼に渡すことなど絶対にないと。それは姉が彼の両親を恨んでいるからだ。流星と咲の母親は同一人物だ。しかし、母親の姉に対するあのひどい態度では、咲の心の中で母親は白雪姫に出てくる母親よりも劣悪な人物に映っているはずだ。「いたっ」流星は痛みに声をもらした。この時、咲がきつく流星の顔をつねったのだ。すると流星は怒りに姉を睨みつけ、皮肉交じりに言った。「さっきの言葉にギクッとしたの?今姉さんは嘘の態度を見せてるんでしょ。俺が学生じゃなかったら、どうにかして警察に突き出そうって考えてたかもしれないよね。そうすれば、柴尾グループは完全に姉さんのものになって、父さんに復讐できるし、鬱憤が晴れるだろ」この時、咲は弟の顔をつねるのではなく、一発お見舞いしてやった。流星もそれを避けることなく、しっかりと姉からの重たい一撃を喰らっていた。平手打ちされて、彼の頬は真っ赤になりズキズキと痛んだ。彼の姉を見つめる目は真っ赤になり、ぐっと涙がこぼれるのを堪えていた。「流星、そんなふうに私のことを思っていたのね?周りから言われた言葉は何でも信じるくせに、私が言う事は信じられないのね」咲は弟の言葉に相当頭にきていた。辰巳は心の中でため息をつき、咲の手を握って落ち着かせようと思って言った。「咲、流星君はそこまで深く考えずに口から出まかせに言ってしまったんだよ。彼はまだ若い、いろいろな事を理解できないだろ。それに理解しているその解釈だって彼なりのものなんだから」彼は次に流星に向かって言った。「流星君、君
続きを読む

第1858話

辰巳は立ち上がり、咲の白杖を取って彼女に渡し、体を支えてあげながら歩いていった。流星も立ち上がると、自分に背中を向けて去っていく姉の後ろ姿を見つめ、口を開いて小さな声で呼んだ。「姉さん」その言葉が咲に聞こえていないのか、それとも聞こえているが彼に構いたくないだけか、彼女は立ち止まることなく、一度も振り返らずに去っていった。流星は少し戸惑い、咲がカフェから出て行こうとした瞬間、椅子を引いて急いで姉の後を追った。そして今度は大きな声で姉を呼んだ。「姉さん」この時、咲は立ち止まった。しかし、彼女は相変わらず振り返ることはなかった。カフェにいる人たちは皆視線をこの姉弟に向けていた。「何か足りない物があるなら買いに行って。早めに飛行機のチケットを取っておくのよ。出発するその日は私が運転手に頼んで迎えに行かせるから。もしあなたが良ければ、家に引っ越してきていいわ。いつだってあそこはあなたが帰るべき家なんだからね」そう言い終わると、咲はまた歩き出した。「姉さん、ごめんなさい」流星は大きな声で咲に謝った。さっきあのように姉を皮肉るべきではなかった。確かに、彼は物心ついた頃から、姉は淡々とした態度だった。時には冷たいともいえる態度をとられてきた。いつも、彼のことを無視しているようだった。しかし、毎日、一年と時間をかけて観察していくうちに、姉は彼のことを弟として見ていることに気づいた。あの冷たく見える瞳の底には流星に対する愛情が隠されていたのだ。しかし、彼は姉に関する悪い噂を聞きすぎて、面と向かって姉を疑い皮肉の言葉を投げてしまった。姉からはきつい一発をお見舞いされて、彼は自分はバカ野郎だと気づいたのだ。未来の義兄から、姉が間違ったことをしたと思っているのかと聞かれた。流星はその質問に、姉が間違っていると言えるはずもなかった。両親と鈴がやった事こそ犯罪だ。たとえ姉が彼らを告発していなかったとしても、いつまでも法の裁きから逃れることなどできないのだ。それに、母親と鈴に関しては結城理仁の妻である唯花に手を出したことで捕まってしまった。実の弟を夫婦で殺害した証拠を咲が集め、咲がそれを警察に提出したことによって父親は捕まった。流星は父親のことを大事に思っていた。父親は刑務所に入っているがまだ生きていて、裁判の第一審
続きを読む

第1859話

「私が会社の管理をしなかったら、あなたにできる?大学に通いながら会社の経営ができる?そんなこと無理でしょ。絶対に会社の事に気は回らないよ。あの人たちはただ必死になってあなたのために代わって会社を経営するって言うわよ。会社を彼らに任せてしまったら、後からあなたに返してくれるとでも思う?返したとしても、もう倒産寸前の会社かもしれない」咲はそう言い終わると、次に辰巳に言った。「辰巳さん、行きましょう」「うん」辰巳は咲に寄り添って体を支えながら歩き出した。カフェを出てこれ以上流星の相手はしなかった。流星はもう彼らの後は追わずに、その場に立って後悔した眼差しで姉が遠ざかっていくのを見ていた。そして暫く経ってから、彼は視線を戻し、落ち込んだ様子で元の席に戻った。そして黙々と自分のコーヒーを持ち上げて一口飲むと、またそれを置いた。彼はコーヒーは苦手なのだ。さっき姉に叩かれた頬に触れた。まだズキズキと痛みと熱さを感じた。きっと腫れてしまっただろう。姉はひどく怒ったからこそ、こうやって手を出したのだ。流星はこのように平手打ちを喰らっても、姉を恨むことはなく、逆に後悔の気持ちで満たされていった。自分がさっきあんな言葉を姉に向かって言ってしまい、大バカ者だと思った。「流星君、流星君じゃないか。こんなところにいたのかい?さっき部屋をノックしてみたけど返事がなくて、下まで探しに来たんだよ」聞き慣れた声がして、流星はすぐにリュックを背負って立ち上がり、椅子を引いて去ろうとした。「流星君」尾崎祐一が流星の手を掴んで言った。「流星君、どこに行くんだ?さあ、俺がコーヒーでもご馳走するよ」そう言いながら、彼は流星を元の席に座らせた。流星はそんな彼の手を力強く振り払い、冷ややかな声で言った。「祐一さん、俺はコーヒーは好きじゃないんで結構です。ちょっと今から出かけるんです」流星はまた去ろうとした。祐一はまた流星を引き留め、無理やりさっきのテーブルの前に連れ戻した。実は祐一はさっき、辰巳が咲に寄り添ってカフェから出てきたのを目撃していた。そして咲が彼の従弟である流星に用があって来たのだと推測したのだ。彼はあの二人から身を隠し、完全にホテルからあの二人が出て行ってから、流星の所へ来たわけだ。流星は彼に無理やり席に戻されて、まだ子供っぽ
続きを読む

第1860話

流星は何も隠さず正直に姉の咲にぶたれたのだと告白し、祐一に咲へ仕返しできるかと聞き返した。その言葉に祐一は言葉を一瞬詰まらせてから、気まずそうに言った。「お姉さんに殴られたのか?さっき彼女が来たの?一体どんな用件で?なんでお姉さんに殴られたんだ?まったく、お姉さんは容赦ないな、顔の半分が腫れてしまってるじゃないか。流星君、やっとお姉さんがどんな人間なのか理解できただろ?普段何も気にしていないような淡々とした様子でいるけど、実際かなりやばい事を考えてるんだ。目が見えないってのに、こんなにひどい人間なんだ、目の治療して見えるようになったら、もっとエスカレートするよ。その時、君はもう逃げ道なんかなくなってるはず。あの女は君の両親が実の父親を殺害したことに恨みを持っているってこと忘れてはいけないよ。その怒りを君に向けないとは限らないんだ。それに、今彼女が君に態度をよくしていて、君に何もしてこないからって安心したら駄目だぞ。あれは君を安心させて警戒心を解き、その時が来たら容赦なく君に手を下して全てを奪っていく気なんだ。それに君が法に触れるような事をわざとさせて警察に通報し牢屋送りにするかもしれない。君まで刑務所に入ってしまったら、柴尾家の全ての財産はあの女の手に落ちるからな」柴尾社長夫妻にはまだ判決が下りていない。もうすぐ裁判の第一審が始まる頃だ。尾崎家と黒川家は切迫し、とても焦っている。彼らが聞きまわってみたところ、柴尾社長夫婦への第一審は全く楽観視できないらしい。そんな彼らが刑務所から出てきて咲に対抗するのを期待するのは不可能だ。鈴に関しては、刑期を終えて出てきたとしても、咲の相手にはならない。それに彼女も禁錮数年が下された。彼女が出てきた時には、すでに咲が柴尾グループの全てを掌握している。そして今、尾崎家と黒川家はみんな柴尾グループを取り戻し、経営に関与することができなくなっている。彼らも柴尾グループとライバル関係にある会社を利用して仕掛けたことがある。しかし、残念なことに、咲と浩司が手を組んだことで失敗に終わってしまった。そして結城グループが虎視眈々と目を光らせている。結城グループは柴尾グループにではなく、そのライバル会社のほうに注意していた。もし、その会社が柴尾グループに裏で工作しようとすれば、結城グループがそれを捉え
続きを読む
前へ
1
...
184185186187188
...
192
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status