交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 1841 - チャプター 1850

1920 チャプター

第1841話

陽の話を聞いて、結城おばあさんは笑った。「そうね、陽ちゃんが大はしゃぎで遊んでいる時に、奏汰のことなんて思い出さないわ」奏汰は陽に言った。「陽君、おじさんが喜ぶような言葉をくれないかな。いつも正直に言われると、つらいなぁ」陽は大きな瞳をキラリと輝かせて言った。「ママとおばたんがね、しょうじきな子になりなさいって、うそはついたらダメだって言うんだ」陽は聞き分けの良い子で、母親と叔母から言われた言葉は全部覚えているのだ。唯花は笑って言った。「そうそう、陽ちゃんは正直な子だよ。良い子は嘘なんてついちゃだめなの」陽は叔母の懐に飛びついた。唯花は彼を抱き上げて自分の膝の上に乗せると、笑って奏汰に言った。「奏汰さん、あなたは陽ちゃんの中ではまだランキング外なんですよ。きっと蓮君のほうがあなたよりもランキングが上かもしれない。陽ちゃんはよく蓮君の話題を出すけど、あなたの話はしたことがないもの」奏汰はあまり陽と顔を合わせていないし、陽と一緒に楽しく遊んだこともないからだ。蓮が陽と一緒に思いっきり遊んだことを陽はしっかり記憶している。それでよく唯花に蓮といつになったら遊べるのか聞いていた。奏汰は車に乗り運転しながら話した。「唯花さん、これからは陽君と一緒によくスカイロイヤルに遊びに来てください。陽君もだんだん慣れてくれると思うので」唯花は笑った。「奏汰さんはきっと長い間スカイロイヤルにはいないでしょう?」奏汰は笑うだけで、返事はしなかった。おばあさんが彼らに与えたのは一年だ。今すでに半年以上過ぎてしまったから、彼はさらに努力しないと、年越しの時に琴ヶ丘にある家の門をくぐれないかもしれない。奏汰は三人を空港まで見送り、唯花が飛行機に乗ってから、彼は戻っていった。奏汰は直接ホテルに戻るのではなく、車を白山グループまで走らせた。白山グループは結城グループと違い週休二日ではなく、毎週日曜日にしか休みがない社員が多い。彼は初めて白山グループに来た。柏浜で暮らす人たちも結城奏汰のことを知っている人は多いが、白山グループの社員は彼を知らず、いくらその名前を告げても受付は通してくれなかった。受付が内線をかけて、玲の秘書に伝えると、秘書が玲に指示をあおいで奏汰をようやく通してくれた。玲はこの時書類を処理しているところで、奏汰は秘書
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第1842話

玲は大らかな態度で奏汰と握手をし、それからまた奏汰を座らせた。男秘書はデスクのほうへ行き、玲がまだ飲み終わっていないコーヒーを持って、そっと玲の目の前に置いて言った。「白山社長、私はこれで失礼します」玲はそれに頷いた。男秘書が出ていった後、玲は奏汰のほうへ視線を向けて二人は互いに探り合うように見ていた。「結城社長は家はもう見つかりましたか?」玲のほうから口を開いた。相手を気遣うように見えるが、実際その態度は疎遠で冷たい感じだ。奏汰が突然どんな用で会社まで訪ねてきたのか彼女にはわからなかった。二人は別に仲が良いわけでもなく、厳密に言えば、二人はビジネス上はライバル関係とも言える。玲は奏汰が来た理由がわからないが直接尋ねることはせずに、あの家の話題をふってみたのだ。そうでなければ、二人がここに座って互いに見つめ合っているだけでは非常に気まずい。「見つけました」奏汰は視線を玲から外した。奏汰は秘書が持ってきたお茶を持ち上げ、少しだけ飲んでまたテーブルの上に置くと笑って玲に言った。「大見原に家を購入することができました。白山社長のおかげですから、お礼に一緒に食事でもいかがかと思いまして。昼はお時間ありますか?」「別に俺は何もしていませんから、そんなに改まって食事なんて結構ですよ。昼はちょっと会食があるんです」玲はやんわりと奏汰からの食事の誘いを断わった。奏汰は笑って言った。「大丈夫です。白山社長がまたお時間ある時に誘いましょう。社長にいろいろお世話になったというのに借りを作ったままではいられません。俺はそういうのが一番嫌いなタイプなんです。だから、この借りを返させてくださいね。じゃないと毎日社長のことが頭から離れませんから」玲は少し考えてから言った。「明日はいかがでしょう。明日ならうちはみんな休みなので、俺も自由に動ける時間があります」月曜日から土曜日まで彼女のスケジュールは詰まっている。だから奏汰の言うその貸しを返してもらう時間がどうしても作れない。玲は別に大見原住宅地の家の件は自分が何か手伝ってあげたなどとは思っていないが、奏汰が世話になったから借りができたと言い張って、どうしてもその借りを返すと言うものだから、仕方なく時間を捻出するしかない。いつまでも借りを作ったままだと思い続けられても困る。なぜ
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第1843話

奏汰は黒い瞳を光らせ笑って尋ねた。「社長が何度も足を運んでくださるとは、つまりうちのホテルのレストランはなかなかということですね」玲はそれを認めた。「あなたがまだラグジュリゾートを任される前、うちのホテル、グラン・エデンには劣っていました。それがあなたが結城グループの飲食業を担うようになってから、ラグジュリゾートはたった三か月でうちのホテルほど有名になり、同レベルまでのし上がってきましたよね。俺は白山グループの後継者です。飲食業は私自ら責任を負っているわけではないですが、後継者として、グループ傘下の各種業界の事業がどうなのか把握しておかないといけません。グラン・エデンに負けていたホテルが急に我々に追いついてきたのですから、状況把握をしなければならないでしょう?」相手を知ればこそ、打ち負かすことができる。彼らはラグジュリゾートの全てを把握しているにも関わらず、自分たちのホテルがラグジュリゾートの上にいくのは不可能だった。白山グループで飲食業を任されている責任者もプレッシャーが大きい。彼らグラン・エデンは柏浜ではもう数十年の老舗のホテルに入る。そしてラグジュリゾートは結城グループが投資してできたホテルで、その時間はグラン・エデンの半分ほどしか経っていない。しかし、今柏浜では最も有名で、実力もあり、人気爆発中のホテルだ。ラグジュリゾートはすでにグラン・エデンと張り合うほどになっている。玲は去年、ラグジュリゾートをこっそり偵察していた。このホテルは特別に何かがすごいというわけではなく、サービスがかなり行き届いていて最高のおもてなしをしてくれる。レストランやバーなどホテル内の飲食も全て最高級で、ホテルをリフォームしてからは、豪快でありながらも、主張しすぎない豪華さを持っている。玲はラグジュリゾートの柏浜での地位を認めている。つまり結城奏汰の実力を認めているということになる。奏汰はニコニコしながら言った。「白山社長がうちのホテルに来た時はきっとこっそりと隠れてだったのでしょうね。明日はそちらに迎えに行きます。堂々とうちのホテルに来てください。今後はうちのレストランの味を堪能したくなったら、いつでも来てくださって結構ですよ。友情価格にしておきますんで」「てっきりお金を取らないと言うかと思っていましたよ」玲は珍しく奏汰をからかった。奏汰は笑っ
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第1844話

「白山社長が購入された時よりも、二十万ほど安くなりました」玲は言葉を失った。まあ、二十万だとしても安くなったことには変わりない。「それから、まだちょっとお願いしたいことがあるんですが」奏汰は熱い視線を彼女の端正な顔に向けた。心の中で自分がもし女であれば、きっと玲のことを好きになってしまうだろうと思っていた。確かに玲は魅了的すぎる。玲が女性の格好をしてロングヘアにし、化粧をしたら、どれだけ傾城の美女になるのだろうか。「何でしょうか?もし俺にできることであれば、必ずお助けしますよ」玲は表向きにはそう答えておいた。しかし、心の中では図々しいと思っていた。ここは柏浜であり、結城家の本拠地ではないが、結城グループの柏浜でのビジネスは少なくない。奏汰もここで数年仕事をしているから、人脈も幅広くなっているはずだ。だから彼が何かを頼んでくる必要はないと思うのだ。「家は買ったのですが、内装を変えようと思っていて、どこかの会社に頼みたいんです。良い会社をご存じでしたら紹介していただけませんか?白山グループも不動産業を展開していますよね。だからきっとどこか良い業者を知っているだろうと思ったんです。あなたにとっては些細な事でしょう」「それは問題ありません。誰かに手配させておきます。必要になったらその業者と話し合ってみてください。どのような内装スタイルにしたいのか、細かく伝えれば大丈夫ですよ」奏汰はまたとても感謝して玲にお礼を述べてから言った。「白山社長、ほら、また俺を助けてくれましたよね。また借りができてしまいました。一度食事に誘っただけではまだ足りないですね。最近とても暑いし、柏浜は海沿いの都市だから、明日は海にでも気晴らしに行きましょうよ。サーフィンしたり、ヨットで海に出たり、泳いだり、あと海鮮料理を食べる。いかがでしょう?」玲が男なのか女なのか、泳ぎに誘えば一発でわかるだろう。「そんな、大した頼みではないんですから、内装であればうちの利益にもなりますし、ただでお宅の工事を受けるわけじゃないでしょう。俺は休みが一日しかないので、いつもはゆっくり家で寝ているんです。あまり気晴らしに外に出かけたりはしないから、社長と一緒に海に泳ぎに行ったりはできません」玲は上手く男装しているが、泳ぐことになれば服を脱がなければならないので、ばれて
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第1845話

玲はすぐに携帯を取り出し、奏汰に電話をしようと思ったが、少し考えてから諦め、携帯をデスクの上に置いた。玲もかなり長い間気晴らしに出かけていなかった。誰かと一緒に乗馬をするのも悪くないだろう。静かに少しの間座っていてから、玲はふたたび携帯を手に取り、双子の弟に電話をかけた。弟が電話に出ると話し始めた。「碧、結城社長が今回柏浜に来た目的を調べてくれないか?」碧は何も考えずにすぐ言った。「彼が柏浜に来た目的だって?結城家はこっちでもビジネス展開してるんだから、彼が来たって別におかしい話じゃないだろ?」「見た感じそれは当たり前だけど、どうも変な感じがするんだ」玲はどうも奏汰が自分に近づこうとしているように感じていた。「何が変なんだよ?姉ちゃん、彼が俺らを何かの罠にはめようとしてるって思ってるのか?」碧は姉の話はやはり信じている。二人は双子の姉弟で、姉は彼よりも十分早く生まれた。しかし、まるで彼よりも十歳年上かのように、何をするのも完璧だった。たまに碧は姉が兄になってくれればいいのにと思うことがある。そうなれば、彼は自由に好きなことができて、跡取りのことなど一切考えずに済むからだ。姉も跡取りになれるが、将来結婚して遠くに行ってしまえば、どうやって会社を統率すればいいのだ。結局は碧が一族の事業を継ぐことになるかもしれない。「俺もわからないよ。だけど、直感が彼が今回来たのはどうもおかしいって訴えるんだ。だからお前にちょっと調べてほしいって言ったんだよ。彼は俺には家族から結婚の催促をされてそれがエスカレートしたから、静かになりたくてここに避難しに来たって言ったんだ」碧はぶはっとふきだして笑った。「姉ちゃん、彼の話は百パーセント本当だよ。俺も聞いたことがあるぞ、結城家のおばあ様が彼ら孫たちに目を光らせてるって。確かにかなり結婚の催促をされているんだろう。一番上の理仁さんは結婚したし、辰巳さんは婚約した。奏汰さんが年齢的にその次だ。ただ辰巳さんより三か月下なだけだそうだ。だから激しく結婚を要求されてもそれは普通のことさ」玲は黙っていた。彼女はやはり奏汰には他の考えがあるように感じていた。しかし、奏汰が自分をはめようとしているかと言うと、そのようには見えない。ただ、彼がわざと自分との接触の機会を増やそうとしているように感じるのだ。家を紹介し
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第1846話

「だけど、姉ちゃんは生まれつき綺麗で、男装しててもかなりのカッコよさだ。柏浜の若い女の子たちは姉ちゃんに会っただけでメロメロになって惚れちゃうだろ。もしかしたら奏汰さんが男のほうが好きで美男子である姉ちゃんを好きになったのかもしれないぞ」それを聞いた瞬間、玲は顔を暗くさせた。「碧、まずは結城さんが来た目的を調べてくれ。それから、彼のプライベートな事だけど、同性愛かどうなのかもちょっと探ってみてくれよ」「わかった。今からちょっと聞いてみる。だけど姉ちゃんもあまり余計なことを考えるなよな。たぶん、奏汰さんは単純に白山グループと良い関係を築きたいと思ってるだけだと思う。姉ちゃんは後継者なんだから、彼が姉ちゃんと仲良くなれれば、多くのことはすぐ解決できるようになるじゃないか」玲は少し黙っていてから言った。「うちと結城グループも別に対立してるわけじゃない。小さな小競り合いは普通のビジネスにおける競争だからな。結城さんもそのことで俺の機嫌を取ろうとして近づいたりしないはずだ」「どのみち、奏汰さんだって姉ちゃんの性別問題について疑ったりするわけないから、安心していいよ。じゃ、今から聞きに行ってくるから」証拠を持って来なければ、玲は余計な事を考えてしまうのだ。玲はひとこと「うん」と返事するとすぐに弟との通話を切った。弟に調査を任せておけば彼女も安心だった。とりあえず今はこの件は考えないことにして、彼女は立ち上がると、仕事用デスクに戻って座り、引き続き忙しさに身を投じた。……星城の東家では。妻に置いていかれてしまった理仁は、ボディーガードの付き添いは求めず、自分であのロールスロイスを運転して東邸までやって来た。東家の執事は外から車のエンジン音を聞き、家から出てくると、理仁の車が見えたので、笑みを浮かべて急ぎ足でさっき駐車したばかりのその車に近づいていった。「理仁様、いらっしゃいませ」執事は車の前に立ち、理仁が車から降りてくると、微笑んで挨拶した。理仁が車から手土産を持って降りてきたのを見ると、執事は急いで理仁の手からそれを受け取り、家に入るように手でポーズを取った。「隼翔は元気かな?」理仁は歩きながら親友の状況を尋ねた。隼翔は退院してから東家の実家に住んでいる。屋敷の総面積は広く、庭はそれよりもさらに広大だ。隼翔は車
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第1847話

「隼翔は今どこに?」理仁は彼を心配して尋ねた。「あいつに会いに行ってきます」「隼翔様でしたら今バックヤードで一人でいらっしゃいます。我々誰一人としてそこに近づくのを禁じられてしまいました。一人で静かになりたいから、誰からも邪魔されたくないそうで」理仁は歩きを一瞬止めて、やはり執事と一緒に家の中に入ることにした。そしてまず健一郎と美乃里の二人に挨拶をしてから、彼は立ち上がって二人に言った。「おじ様、おば様、隼翔の様子を見に行ってみます」健一郎は頷いた。「ああ、君たちは一番の親友だから、もしかしたら、あの子も君になら会うかもしれない」「理仁君、隼翔に焦るなと、心を落ち着かせてやってもらえないかしら?あの子ったら退院したらすぐに自分で立って歩きたいと思ってるみたいで、今はまだリハビリができる体じゃないのに、焦ってリハビリを始めようとするのよ」美乃里はとても辛そうに、心配して言った。「彼の気持がこんなに焦っていては、逆効果だと思うの」理仁は頷いた。「おば様、あいつに話してみます。では、バックヤードに会いに行ってきますので」理仁は母屋を出て、バックヤードのほうへ向かった。彼はよく東邸に来ていたので、よく知っている。誰かに案内されるまでもなく、バックヤードに一人で行くことができるのだ。隼翔はバックヤードの芝生の上で歩く練習をしていた。彼の足の傷はまだ完全に癒えているわけではない。毎回立ち上がるたびに耐えられない激痛が走る。彼は歯を食いしばり、その痛みに耐えようとしていた。足はぷるぷると震えていて、一歩を踏み出すことも難しい。そして足が芝生の上におりた時、またズキズキとした痛みに耐えてから、ようやくバランスを保って立つことができ、それからもう一方の足を移動させるのだ。前方に二歩だけ進んで、彼は芝生の上に倒れ込んでしまった。彼が芝生で練習しているのは、転んだ時にそこまで痛くないだろうと思ったからだ。転んでからまた立ち上がるのに、またかなりの労力を要する。しかし、彼はそれでも努力して続けていた。再び立ち上がって、歩けるようになるために、彼は顔中汗だくになっていた。その汗の粒が雨のようにポタポタとこぼれ続けている。あまりの痛さに彼は顔を真っ青にさせていた。二本の松葉杖は芝生の隅のほうで静かに横たわっている。芝生
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第1848話

理仁は隼翔の車椅子を押して木陰の涼しい場所に行き、隼翔に言った。「隼翔、ここに一人でいては駄目だ。太陽の光がどんどん強くなっていくから、熱中症になってしまうぞ」隼翔は自分の手で額の汗をぬぐって言った。「さっき来た時には、あそこはまだ涼しかったんだ」時間の経過により、太陽がどんどん空の中央へと移動していき、彼のいた場所は太陽の光が当たるようになってしまった。「車椅子の後ろに水とティッシュが入ってるんだ」隼翔がそう言った。理仁は急いで車椅子の後ろに引っ掛けてある袋を取り、その中から水を取り出して彼に渡した。そしてティッシュも取り出し、何枚かをとって彼の汗を拭いてあげた。「歩く練習をするなら、時間を選ばなきゃ。一番良いのは朝と夕方だ。その時間帯なら太陽の光は強くないし、少しは涼しくなるからさ」東邸のバックヤードには多くの木が植えられていて、生い茂っているおかげで比較的涼しい。「それから、お前は一人になってはいけない。万が一何かあっても、誰もわからないじゃないか」隼翔は汗を拭き、ペットボトルの水を半分ほど飲んで言った。「携帯は持っているから、自分ではどうにもできない場合はあいつらに電話をかけて、家に運んでもらうさ。理仁、俺は早く直したいんだ。早く立ち上がって歩けるようになってさ、それから、また唯月さんを諦めずに追いかけたいんだ」隼翔がここまで焦っているのは全て唯月のためだった。俊介は今ICUに入っていて、生死の境目を彷徨っているから今のところ他の男と唯月の奪い合いをする必要はない。しかし、唯月はどんどん魅力的な女性になっていっている。彼は自分が歩けないこの間に、彼女の傍に恋敵が現れるのを心配していた。唯月と結婚できるその日まで隼翔は安心することができない。「隼翔、お前が早く立ち上がれるようになって、前のように戻りたいって思ってるのはわかっているよ。だけど、焦ったらいけない。医者も暫くはまだ静養してからリハビリを始めることができるって言っていたじゃないか。こんなふうに焦っては逆効果だぞ。義姉さんのほうは大丈夫だ。今のところ彼女の傍に新しい恋敵が現れる心配なんてしなくていいよ。彼女は今自分の店を持って稼ぐことに集中しているから、全く恋愛なんかに時間を割く暇なんてない。それに彼女はずっと再婚なんかしないって言い張っているから
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第1849話

隼翔は言った。「……おばあ様か?」おばあさん以外に、独占欲の強い理仁から妻を連れ去ろうと考えられる者はいないだろう。そんなことがあれば理仁はすでにこの世を壊しかねないほどに怒り狂っていて、今ここに隼翔の様子を見に来るような余裕などないはずだ。理仁は苦笑いして言った。「うちのばあちゃんを除いて、俺にこのような真似ができる人物はいないだろ」両親でさえもこのようなことはできない。隼翔は、はははと大笑いした。「絶対お前が何かやらかしておばあ様を怒らせたに決まってる。そうじゃないとこんなことをしないだろ。おばあ様は俺らの最も弱いところを突くのが上手いからな」隼翔にとってそれは唯月だ。結城おばあさんは隼翔に、もし本気で唯月のことを諦めるというなら、すぐにでも他の優秀な男を紹介して、隼翔に嫉妬させ後悔させてやると言ってきた。おばあさんからこのようなことを言われてしまっては、隼翔はもう、ぐうの音も出なかった。隼翔は自分が唯月のことを嫌いになったわけではないことをよくわかっていた。彼はただ自分が足が不自由な状況になってしまったせいで、彼女を幸せにすることができなくなったことに不安を感じ、あのように冷たくひどい態度を唯月にとっていただけだ。実際、毎回唯月を追い出そうと怒鳴り散らした後、彼は自分を責め、後悔していた。そして心の中でいつも、あのような冷たい態度をとって彼女を傷つけたのではないかと気になっていた。理仁は唇をかたく結んで、返事はしなかった。隼翔は理仁が黙っているのを見て、自分の予想が当たったと思い笑った。「今後またおばあ様を怒らせるようなことができたものかねぇ」「俺は別にばあちゃんを怒らせるようなことはしてないぞ。ばあちゃんは孫の奥さんを大事に大事にしてるんだよ。孫はただのおまけだから、心を痛めたりしないのさ」「そりゃそうだろ、孫が一人しかいないならまだしも、孫が九人もいるんだぞ。九人の孫の中で結婚しているのは理仁だけだから、当然孫の嫁と言えば唯花さん一人だけだ。彼女のことを大事にしていて当然だろ?今はお前たちに娘がいないけど、もし将来生まれたら、ははは、お前のランクもさらに下がることになるぞ」隼翔の母親は兄弟四人を生んだ。そして姪が生まれた時、美乃里の喜びようといったら形容できないほどだ。毎日孫娘を抱いて、目に入れても痛
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第1850話

隼翔が言った。「唯月さんの新店がオープンする時には、俺も盛り上げるために一役買うぞ」彼は歩くことができないが、新店祝いの花を送り商売繁盛を願うことくらいはできる。「義姉さんなら、絶対にお前にご馳走してくれるはずだ」しかし、隼翔はため息を返した。「だが、唯月さんは俺のことは全くなんとも思っていない。友人止まりさ。病院で俺の世話をしてくれている時、俺には以前借りがあると思い、俺に助けが必要になると、その借りを返すためにああやってくれていただけだ。母さんも彼女には一日二十万給料をあげていたしな」「確かにおばさんは義姉さんに一日二十万の給料を提示したが、義姉さんは一円も受け取ってないぞ。お前の前だけでああやって言っていただけだ。お前が彼女を追い出す時、ちゃんとした口実でお前に反論するためだな」隼翔もそれを聞いて意外には思わなかった。「彼女は俺に借りを作ったままにしたくないに決まってる。それで恩を返す機会があったから世話してくれたんだよ。もし金を受け取ったら、彼女はずっと借りが残っている気がするだろ。だから、彼女はあの金を受け取っていないだろうと前から思ってた。無理にでも自分を金のために仕事をする人間だと言い張ってな。理仁、ならさ、今から俺と一緒に彼女の新店に行かないか?」理仁は今の自分にはかなり時間があるので、親友の頼みを聞くことにした。理仁が同行するので、美乃里夫妻は息子が出かけることに同意した。彼らは隼翔が唯月の新しい店に行くことなど知らなかった。助手席に座ると、隼翔はため息をついた。「一体いつになったら自分で運転できるようになるんだろうな。スピードを出して走り抜けるあの爽快感が懐かしいよ」そう言うと、彼は今使いものにならない自分の両足を叩いた。「この足は本当にあっても意味のないものだな」「隼翔」理仁は運転しながら親友に言った。「お前の足は意味がないことなんてない。お前は絶対に良くなるから。もし一切感覚がないのであれば、それは心配しないといけないだろうがな」隼翔は何も言わず黙っていた。彼は親友の理仁の前では強がっていた。しかし、実際は彼の心はとても脆く、いつも恐れていた。自分の足は回復することなく、二度と立ち上がることができなくなり、一生車椅子生活をするのではないかという恐怖心と闘っている。「花屋を通りかか
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