All Chapters of 離婚協議の後、妻は電撃再婚した: Chapter 1011 - Chapter 1020

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第1011話

冬城おばあさんの言葉は確かに切実だったが、周囲の誰一人として信じようとはしなかった。立花は少し考えてから言った。「そうなのですか?」「ええ……」「それは本当に……残念なことです」立花がわけもなく現れて、わけのわからないことを口にするので、冬城おばあさんの胸はドキドキと高鳴り続けた。少し離れたところでその様子を見ていた真奈も、不思議でならなかった。一体何のために、立花はわざわざここへ来たのだろう?「黒澤夫人、私は向こうのお客様の対応に行ってまいります」大垣がそばでそう告げた。真奈は静かに頷いた。大垣が向こうへ行った後、真奈はマスクをつけ、わざと立花の目に入る方へと歩いていった。立花は確かに人混みの中に真奈の姿を見つけ、馬場に言った。「忠司、もう気持ちは伝えたし、そろそろ行くぞ」「承知しました、ボス」立花はくるりと背を向け、帰り際に冬城おばあさんへ挨拶することもなかった。冬城おばあさんは不吉な予感がした。この死神のような男が現れたのは何か良からぬことの前触れだと感じていた。だが、わずか二分で出ていってしまうとは、一体どういうつもりなのか。一方、真奈はすでに式場の外でしばらく待っており、立花が出てくるのを見ると、その行く手を遮って言った。「立花社長、待って」立花は真奈の姿を一瞥した。地味な服装に、顔には黒いマスクとキャップ。化粧もしておらず、髪も無造作に垂らしていた。まるで遊びに来たような姿だった。「俺を呼び止めて何の用だ?」立花は問いかけた。「立花社長、あなたは浅井と親しかったの?」「会ったこともない」「じゃあ何をしに来たの?」普通ではないことには必ず理由がある。立花がわざわざ時間を割いて浅井の葬儀に顔を出すはずがない。「それがお前に何の関係がある?」立花は真奈を一瞥し、言った。「お前だって、人の不幸を見物に来ただけじゃないのか?」真奈は尋ねた。「冬城に会いに来たの?」立花は逆に問い返した。「お前は違うのか?」真奈は、立花が素直になる気配がないのを見て、真剣に言った。「いいわ、じゃあお互い本当のことを話しましょう。絶対に隠さずに。どう?」「分かった」「あなたから!」真奈が促した。立花は答えた。「我が立花グループと冬城グループは以前から付き合いがある。隠
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第1012話

しかし彼にはどうしても真奈に手出しできなかった。「ひとつ忠告しておく。黒幕はお前たちを狙っている。俺には関係ないし、関わらなくても一人で身を守れる。でもお前と黒澤にはそんな運はない」「立花社長、どうしてその人物が立花グループの機械を運び出したか、当ててみる?それから、あの海辺で誰が通報したかもね。本当に自分とは無関係だと思ってるの?前は頭の回転が速かったはずなのに、どうしてこんなに鈍くなったのかしら?」「俺の頭が鈍いだと?」立花は苦笑した。「黒幕が通報したのはお前たちを惑わせるためだ。狙いはあくまでお前たちだ。立花グループに敵は多いが、我々に勝てる者などいない。もしそんな人物がいるなら、とっくに突き止めている」「まあ、立花社長ったら随分と大きなことを言うのね。もし本当に調べられるなら、どうして濡れ衣を着せられる羽目になったの?どうして機械を壊され、自分で運び出す羽目になったの?そんな力もないのに大口を叩けば、後で恥をかいた時に痛い思いをするだけよ」「お前……」真奈は言った。「立花社長に本当に力があるなら競い合いましょう。どちらが先に黒幕を突き止められるか、どう?」「競うなら競う!お前に負けると思うか!」真奈が片手を差し出すと、立花は眉をひそめて言った。「何だ?」「ハイタッチで誓いよ。あなたが勝ったらあなたの腕を認める。私が勝ったら、もう2億払ってもらうわ。どう?」「いいだろう」立花の頭は一瞬追いつかず、馬場が口を開くより早く、彼の手はすでに真奈の掌と打ち合わされていた。真奈は目を細めて笑いながら言った。「立花社長、また会いましょう。賭けを忘れないでね!」真奈は足早に立ち去り、立花はまだ何の違和感も覚えていなかった。傍らの馬場は堪えきれず前に出て言った。「ボス、何かおかしいと思いませんか?」「おかしい?どこがだ?」「……瀬川さんが勝ったら、ボスは2億支払うことになります」「2億ぐらいだろう」「しかしボスが勝った場合……」馬場はそれ以上言うのが気の毒で、言葉を飲み込んだ。その時になってようやく立花は悟った。真奈は自分に黒幕を探らせようとしているのに、報酬は一銭も払う気がない――まるでタダ働きさせられるようなものだ!立花は苛立って馬場の尻を蹴りつけた。「なぜあの時、俺に言わなかった!」
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第1013話

ヴィクトリア美容クリニック。真奈は手にした名刺に目を落とすと、限定版のスポーツカーを路肩に停めた。鮮やかなピンク色の車体は、この通りではあまりにも目立っていた。白い肌にすらりとした長い脚、しかも今日は華やかに着飾っていた真奈は、一瞬にして店員たちの視線を奪った。この店に、これほど美しい女性が訪れたことは今まで一度もなかった。「お客様、初めてご来店ですか?どのような施術をご希望ですか?」マネージャー自ら真奈の前に出てきて、思わず上から下まで視線を走らせた。真奈がサングラスを外すと、艶やかな瞳が現れ、女性マネージャーでさえも思わず見とれてしまった。なんて美しい人なんだ!「友人の紹介で来たの。こちらに美容の施術があると聞いて、試してみようと思って」真奈はソファにゆったりと腰を下ろし、テーブルの上のパンフレットを手に取った。その瞬間、彼女の指にはめられた鳩の卵ほどもあるダイヤの指輪が店員たちの目を奪い、さらに手首には8桁の価値を誇るダイヤモンドウォッチが輝いていた。マネージャーは思わず息をのんだ。誰が一軒家の価値に相当するものを手首に巻きつけるだろうか?周囲の視線に気づいた真奈は、わざとらしく問いかけた。「どうかしたの?」「お客様があまりにもお美しくて、つい見とれてしまいました。芸能人の方もお越しになりますが、これほど行き届いた美しさの方はおりません」真奈は微笑んだ。この美容クリニックは上流階級の間でも名の知れた存在だった。立花グループ傘下の美容事業であり、数多くの芸能人を抱える立花グループが宣伝しているからだ。真奈が今日これほど派手に装ったのは、自分の価値を誇示し、店員に軽んじられないようにするためだった。そうしてこそ、欲しい情報をより引き出しやすくなる。「まずはフェイシャルをお願い。仕上がりが気に入らなければ、次は来ないわよ」真奈はわざと高慢な態度をとったが、不思議と誰一人いやな気分にはならなかった。むしろ当然のことのように感じられたのだ。真奈が立ち上がると、スタッフは彼女を一番広い個室へ案内し、心配りのあるドリンクやフルーツまで用意した。真奈はテーブルの上に並べられたものに一瞥をくれ、淡々と言った。「これはいいわ。すぐにフェイシャルをするんだもの、食べられないから」真奈はう
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第1014話

真奈は機械が顔に当てられているのを感じながら、しばらくして口を開いた。「この機械はなかなかいいわね。他では見かけないようですが」「こちらは当社が独自に開発したもので、すべて空輸で搬入している機械なんです」「どこの会社?ひょっとしたら知っているかもしれないわ」「私たちは立花グループの傘下企業で、正規の会社です。ご安心ください。健康面でも信頼性があり、医学的な権威の認証も受けています」真奈は一つ一つ聞きながら言った。「私の友人に、こういう機械を扱う仕事をしている人がいるの。仕入れたいそうなのですが、こちらでお願いすることはできる?」「それは……」女性マネージャーは困ったような顔をして答えた。「当院の機械はすべて本社から支給されていて、外部には販売していないんです」「そうなの?それは本当に残念ね」真奈はため息をつき、言った。「私の友人はどうしても気に入った機械が欲しくてね。高値で買い取っても構わないと言っているの。この機械は良さそうだと思ったのに、残念だわ……」女性マネージャーは真奈の惜しむような様子を見て、口を開いた。「そのご友人は、何台ほどご希望なんでしょうか?」「私たちは共同でチェーン店を開く予定で、一店舗につき少なくとも50台は必要なの。だから最初に500台ほどは仕入れることになるわね。さらに他の美容機器も合わせれば、合計で千台は超えるでしょう」真奈は心の中ですでに計算を終えていた。千台ともなれば、その価格はゆうに億を超える。この業界でこれほどの大口取引は珍しい。案の定、相手の目がぱっと輝き、言った。「本社ではあまり許可されていませんが、私の方でルートがあります。もしご入用でしたら、ご紹介できますよ」それを聞いて、真奈はわざと疑わしげに尋ねた。「同じメーカー製よね?違うなら買わないわよ」「ご安心ください、まったく同じメーカー製で、機械も同じものです。空輸で運ばれますが、本社の承認が要らない分、手続きが少し簡単になるだけです」真奈は頷き、これ以上は深く聞かずに言った。「わかったわ。その方の連絡先を教えて。もし話がまとまったら、別途仲介料をお支払いするわ」女性マネージャーは仲介手数料の話を聞き、心から嬉しそうな顔を見せた。こうした場所で働いてはいるものの、相手にするのはいつも金持ちばかり。だが、そ
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第1015話

それを聞いて、立花はリンゴをかじるのを止め、自分を指差して言った。「俺に支払えって?俺はあいつの夫か?人違いだろう?」馬場が言った。「間違えじゃありません。瀬川から伝言です。あのガラクタ機械は熱を出すだけで何の役にも立たない、騙されるなんてまっぴらだと。通報しないだけでも感謝すべきだそうです」「……」一方、佐藤邸。幸江は真奈の顔を左右から眺めて言った。「全然変わってないじゃない。これが何十万円もするスキンケアなの?」「立花グループの製品なんて、ブランドだけが売りよ」洛城の立花家はもともと賭博や麻薬を手がける会社だ。そんな会社がまともに美容製品を開発できるはずがない。これを使っても怖くないの?この会社なんて、ただカモを騙すためにあるようなもの。有名人を使って派手に宣伝してる高級美容ブランドなのに、実際の効果はほとんどない。幸江は思わず舌打ちした。「ふん、私だったら店ごと叩き壊してるわ」「美容医療に行くなら、なんで私を誘ってくれなかったの!」福本陽子が二階から降りてきた。ここ数日、退屈で仕方がなく、幸江にたまに外へ連れ出してもらう以外は、これといった娯楽もなかった。真奈は福本陽子というお嬢様の存在をすっかり忘れていた。階上を見上げながら聞いた。「福本さん、福本社長はこの数日、まだ何も口にしてないの?」「そうなの、兄さんは言ってるわ。これは軟禁だって!家に帰らせなきゃ、餓死してやるって」「そんな大げさに死ぬつもりなのね」真奈は小さく首を振り、そばのメイドに言った。「福本社長にドーナツを二つ持っていって。チョコレート味にしてね、あの方はそれが大好きだから」「かしこまりました、黒澤夫人」その場で福本陽子は呆然とした。何だと?どうして真奈が、兄さんの好物がチョコレートドーナツだって知ってるの?これは不気味だわ!幸江が横から口を開いた。「メイドが運ぶ食事には一口も手をつけないくせに、裏で食べてるものは残さず平らげてるのよ。台所の冷蔵庫から消えたものは、全部ちゃんと記録されてるんだから」幸江はスマホを取り出し、画面をスクロールしながら言った。「えっとね……丸焼きチキンのモモ肉が1本、手羽先が1本、胸肉が1枚。冷凍庫のチョコレートドーナツは8個減ってるし、オーブンは4回使われてる。お菓子棚のポテト
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第1016話

真奈は首を振って言った。「はっきりとはわからないけど、そばに置いておくのが一番安全よ。自由を奪ってるわけじゃない、ただ私たちの合理的な管理下に置いてるだけだから」その時、伊藤が階上から降りてきて言った。「なんでリビングでおしゃべりばかりしてるんだ?テレビでも見ようぜ」そう言って伊藤はテレビをつけた。すると画面から最新のニュースが流れてきた。「冬城グループの社長に妻殺害の疑いがかかり、現在行方不明。警察が調査を進めており、事件はさらに捜査中です」そのニュースを聞いて、幸江と伊藤は思わず同時に真奈を見た。伊藤は慌てて両手を挙げ、狼狽しながら言った。「お、俺、本当にわざとじゃない!ただ適当にテレビをつけただけなのに、なんでこんなニュースが出てくるんだ!」「もういいから余計なこと言わないで!」幸江は伊藤を軽く叩き、言った。「妻殺し?どう見てもデマでしょ。冬城みたいな人間が、自分で手を下す必要なんてある?」真奈は眉をひそめ、すぐに立ち上がって二階へ向かった。二階の書斎は固く閉ざされており、入口には青山が立っていた。真奈は言った。「佐藤さんに会わせて」「旦那様はまだ療養中で、お会いできません」「ふざけないで」真奈は青山を押しのけ、ドアを開いた。そこには佐藤茂がベッドに横たわっており、周囲では外国人医師たちが検査をしていた。真奈は息を呑んだ。青山はようやく真奈を外へ引き出し、言った。「瀬川さん、旦那様は定期検査中で、体調がすぐれないのです。どうか今はお引き取りください。しばらくすれば旦那様も目を覚まし、必ずお会いになります」真奈は先ほど、佐藤茂の顔色が明らかに悪いのを見ていた。演技ではなさそうだった。けれども、昨日の佐藤茂はむしろ元気そうに見えたのだ。こんなに頻繁に病状が変わるものなのか……?真奈が部屋で一時間以上待っていると、黒澤が真奈の顔色が優れないのに気づき、背後に回って肩を軽く揉みながら言った。「冬城のニュースのせいか?」その声音には、隠しきれない嫉妬が滲んでいた。真奈は黒澤に誤解されるのを恐れて、こう説明した。「心配しているわけじゃないの。こうしていると……彼に借りができるような気がするの」浅井はもう亡くなっている。自分と冬城の間にはもはや何の関わりもない。たとえ最初に冬城が
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第1017話

郊外で、真奈は車を走らせて冬城との待ち合わせ場所に着いた。冬城は人気のない路地の真ん中に立っていた。周囲には荒れ果てた平屋が並び、長いこと誰も住んでいない様子だった。「ここに呼び出して、私にだけ何を話したいの?」真奈が問いかける。冬城は真奈を頭から足先まで値踏みするように眺め、口を開いた。「立花は当時、三か月以内にお前の命を奪うと大見得を切っていた。まさか生き延びるとは思わなかった」それを聞いた真奈は冷笑を浮かべた。「生き延びたことが、冬城社長にはあまり面白くないみたいね」「真奈、遠回しはやめよう。あのニュース、お前が流したのか?」冬城の声音には冷ややかな嘲りが滲んでいた。近ごろ世間では「冬城社長が妻を殺した」という噂が溢れ返り、警察もすでに捜査に乗り出していた。しかも冬城が最近ずっと姿を隠していることが、疑念を一層強めていた。「私が流した?」真奈はふっと笑った。「冬城、私はそこまで卑劣で恥知らずじゃない。あなたとの因縁はもう清算したし、わざわざ面倒を持ち込む気もないわ。もし今日それを言いに来たのなら、はっきりさせておく。私じゃない」そう言って真奈は踵を返した。「待て!」真奈は足を止め、振り返って冬城を見据える。「冬城、まだ何かあるの?」「……あいつを殺したのは、俺だ」冬城の口からの告白に、真奈は思わず眉を寄せた。「どうして浅井を殺したの?」たとえ冬城が浅井を心底嫌っていたとしても、自ら手を下す必要などなかった。それなのに、冬城は浅井を殺したのだ。「彼女は冬城グループの汚点だ。あんな女を冬城グループの夫人の座につけるわけにはいかなかった」冬城の声には一片の感情もなく、真奈はようやく思い至った。冬城は最初からずっとこういう人間だったのだと。前世で冬城が彼女と結婚したのも、背後にある瀬川家の人脈を利用するためにすぎなかった。その後、浅井を娶ろうとしたのも、冬城グループをさらに発展させる有能な助力者だったからだ。冬城にとって、常に最優先は冬城グループ――会社だけだった。会社の利益を損なうものは、人であれ事柄であれ、冬城は容赦なく排除してきた。そんな冬城が、自分の命のように大切にしている冬城グループを、どうして自分に譲ろうと考えるだろうか。彼が望んでいたのは、ただ自分の手を借りて
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第1018話

折り畳みナイフは黒澤の右腹に深々と突き刺さり、そこから鮮血がにじみ出ていた。「動くな!」背後から警官の一団が駆け下り、瞬く間に冬城を取り囲んだ。冬城は両手を挙げながらも、視線は黒澤を心配する真奈に注がれたままだった。やがて真奈もまた、この元凶である冬城を見据えた。「冬城!あなた、正気じゃないの?」真奈は冬城が自分に仕掛けてくる可能性を何通りも思い描いていたが、冬城グループのために、こんな稚拙なやり方で命を狙ってくるとは思いもしなかった。冬城は冷たく言い放った。「お前を殺せなかったのは惜しいが……これで黒澤がかつて俺を刺した借りは返した」「あなた……」「連れて行け!」警察はすぐに冬城をパトカーへ押し込んだ。そこへ救急隊員が駆けつけ、黒澤は目を赤くした真奈を見て、伸ばした手で彼女の髪を軽くかき上げながら笑った。「大丈夫だよ、ただのかすり傷さ」「ナイフが刺さってるのに、かすり傷ですって?どうして勝手について来たのよ、この馬鹿!」真奈が怒って黒澤の肩を叩くと、黒澤はついにこらえきれず片膝をついた。「真奈……本当に力持ちだね……」黒澤は苦しげにそう言った。「あなた……」真奈は怒りで胸がいっぱいだった。さっきナイフで刺されたときは一言も声を上げなかったくせに、自分に叩かれただけで大げさに痛がるなんて。どう見てもわざとじゃないの!救急車の中、ウィリアムは黒澤の傷を一瞥すると、気にも留めない様子で言った。「たいしたことないよ。折り畳みナイフの刃先は短いし、急所じゃないから全然平気だ」「平気なものですか!こんなに血が出てるのに、ナイフだって奥まで刺さってたのよ。平気なわけないでしょ!」真奈の言葉を聞くと、ウィリアムはすぐに言い直した。「いや、確かに問題ありだ。かなりやばい。もう少しで腎臓に届くところだった!」「……」一時間後、海城の冬城家にて――「なんですって?捕まった?司が逮捕されるなんて、どういうことなの!」冬城おばあさんの顔は険しく強張っていた。今夜はずっとまぶたがぴくぴくして、胸騒ぎがしていたのだ。まさかこんなに早く現実になるとは……「もう拘束されました。さきほど警察から会社に連絡があり、弁護士を手配して対応するようにと言われました!」中井の顔色も暗かった。電話
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第1019話

「こちらは冬城家の大奥様だ。口の利き方に気をつけろ」中井が冬城おばあさんの横に立つと、事務所の者たちは顔を見合わせ、それ以上は何も言えなくなった。冬城おばあさんは言った。「藤木署長は司をどこへ連れて行ったの?今すぐ釈放しなさい!この件が大事になったら、私が黙っていないから!」その姿は鼻を鳴らして怒りをあらわにし、普段の品格など微塵もなく、まるでごく普通の荒っぽい老婦人のようだった。その時、藤木署長が奥から現れ、冬城おばあさんを見つけると、慌てて笑みを浮かべて近づいた。「大奥様、こんな夜更けにどうしてこちらへ?」「司があなたたちに捕まったから来たのよ。当たり前でしょ?」「いやはや、これは厄介です。冬城社長が傷つけた相手は黒澤様。重大な件ですから、黒澤様と奥様の許可もなく冬城社長を釈放できません。冬城社長は今、取調室におります。もし大奥様が望まれるなら、お会いになれるよう手配いたします」「黒澤?あいつは何者なの。この海城を仕切れる立場になった覚えはないわ!うちの司が法律を破るはずがない。あのならず者の黒澤が仕組んだに決まってる!」黒澤の過去を知らない者などいない。人を陥れるなんて、やろうと思えばいくらでもできるのだ。その時、冬城おばあさんの背後から真奈の声が響いた。「この件はでっち上げだと?夫は今、病院で横たわっているのよ。あなたの孫は私を殺そうとした。夫が助けてくれなければ、今病院にいるのは私だったわ」その声には普段よりも冷たい色が混じっていた。振り返った冬城おばあさんの目に、真奈の姿が映る。冬城おばあさんは冷笑を浮かべて言った。「誰かと思えばあなただったのね!司はあなたのために冬城グループまで手放したのよ。あなたを殺そうとするはずがないわ。これはきっとあなたと黒澤の仕業だわ。冬城グループを奪うための!」冬城おばあさんは真奈に強い恨みを抱いていたが、真奈は冷ややかに言った。「冬城が私を襲ったのは事実よ。大奥様、まさか法律を無視して彼を庇うつもりなの?」「我が冬城家は海城でも有数の納税者であり、司は冬城グループの実権を握る人物。妬まれるのも当然なことよ!司は私が手塩にかけて育てた子で、誰よりも私がよく知っているわ。私は信じている!あの子は決して人殺しなんかはしないわ!」「藤木署長、今日の冬城の犯行は、あなた
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第1020話

真奈は二人の姿が消えたのを見届けてから、ようやく口を開いた。「冬城は取り調べ室に連れて行かれたの?」「ええ、今まさに取り調べの最中でして、この時間帯は面会が難しいのです」藤木署長の顔には、なんとも言えない困惑が浮かんでいた。真奈はしばらく黙り込んだ。病院から駆けつけてきたのは、冬城の凶行の理由を知りたかったからだ。冬城は冷静さを失うような人間ではない。まして、軽率に人を殺すなどあり得ない。必ず何か裏があるに違いない。「それならここで待つわ。冬城が出てくるまで」そう言って、真奈は脇の椅子に腰を下ろした。藤木署長はその様子を見て、気まずそうに言った。「この取り調べは一昼夜では終わりません。黒澤夫人、黒澤様がお怪我をされたと伺っています。どうかそちらについていてあげてください。黒澤様の傍らに誰もいないのはよろしくないでしょう。明日の朝にはこちらで進展があるはずですので、すぐにお知らせいたします」真奈の胸の内には、黒澤の怪我への心配がずっと渦巻いていた。警察署と病院が近くなければ、時間を割いてまで冬城に真相を問いただそうとは思わなかっただろう。一晩待たねばならないと知り、真奈は立ち上がった。「何かあったらすぐ知らせて。私は隣の病院にいるから」「黒澤夫人、ご安心ください。結果が出次第、すぐにそちらへお届けに上がります!」真奈は軽くうなずくと、警察署を後にした。彼女を見送ったあと、藤木署長は額の汗をそっとぬぐった。すると青山が隅から姿を現し、口を開いた。「こちらの車を裏口に回してあります。冬城をそこへ出していただければ」「ですが……もし明日の朝、黒澤夫人に問いただされたら、私は……どう答えればいいのですか……」「冬城家が示談金を支払い、やむなく釈放したとでもおっしゃってください」青山の言葉に、藤木署長はようやく頷き、部下に命じて冬城を裏口から送り出させた。病院内。黒澤の手術はすでに終わっており、傍らでウィリアムが注意事項を告げていた。「この傷はしばらく激しい運動は禁止だ。辛いものも避けて、なるべく流動食にした方がいい。それ以外に大きな問題はない。ただし、激しい運動には二つの意味がある……言っていることはわかるね?」伊藤もそばで口を挟んだ。「夜中に電話を受けて、本当に肝を冷やしたよ!まさか
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