江口は小さく頷いた。「ええ」康生は彼女の滑らかな脚をゆっくりとなで回しながら、思案顔で言った。「好きにさせておけよ。会社の大半の業務はあいつが仕切っている。たまの息抜きなら構わないさ。だが、どうしてあいつのことを気にかける?そんな小賢しい頭でまた何か企んでるんじゃないだろうな?」もともと猜疑心の強い康生に対し、江口は甘え混じりの声で返した。「ただ、彼が銀ノ蝶にいるって報告しただけよ。後で遼一さんから話を聞いたとき、『なぜ黙っていた』って怒られたくないから」康生の眉根がふっと緩み、再び江口を抱きしめて首筋に軽くキスを落とした。「よしよし......拗ねないで。明日、一緒に買い物にでも行くか?好きなものを何でも買ってやるよ」すると、隣の個室から声が飛び込んできた。「おいおい、そこの二人、何をひそひそ話してるんだ?俺たちに聞かせられない話か?」「話すことなんて決まってるでしょ、ベッドの上のあれよ」「お嬢ちゃん、暇なときはこのジジイのために滋養強壮のものでも買ってやってくれよ」本気の言葉はいつだって冗談めかして口にされるものだ。康生も彼たちの本性を知らぬはずはない。——傷跡はかさぶたになりつつあるが、時折かゆみを伴う。じっとしていられず、痒みをこらえるのが何よりもつらい。医師からは跡が残ると告げられたが、明日香は気にしない。ベッドから起き上がれたら、明日香は介護士・圭子を帰らせた。もうほとんど介助は要らない。遼一が最後に訪れて以来、誰一人として見舞おうとはしなかった。明日香の存在は、周囲の誰にとっても取るに足らないものだった。ただ、ウメだけが毎晩欠かさず訪れた。外食が合わないと知るや、手作りの料理をそっと置いて帰っていく。本来なら静水病院で療養するはずだったが、むしろ体重は数キロ落ちたままだ。病室のドアをノックする音が響き、明日香はバルコニーのソファから顔を上げたが、そのまま動かない。「入れ」ドアが静かに開くと、黒いスーツに身を包んだボディガードが、ピンクの保温容器を手に立っていた。「明日香様、お食事をお持ちしました」明日香はかすかに微笑み、ゆっくりと立ち上がった。「そこに置いておいて。後でいただくから」「樹様より、『食べ終わるまでそのまま待つように』とのご指示を預かっております
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