All Chapters of (改訂版)夜勤族の妄想物語: Chapter 411 - Chapter 420

482 Chapters

5. 「あの日の僕ら」89

-89 修羅場の理由- 何も知らない者からすれば先程安正が龍太郎に対して誓った「美麗を守る」という言葉は聞こえが良かったかもしれないが、現状を知る打ち上げのメンバーからすれば決して良い物では無かった。 福来子の幼馴染で同じ学科に通う正は数秒程考えてから立ち上がった。正「俺、ちょっとトイレ・・・。」 そう伝えてトイレの近くの出入口からハンカチ片手に裏庭に出ると福来子は未だに泣いていた、抑えきれない気持ちという物があったのだろう。正「福来ちゃん・・・。」福来子「たーやん、来てくれたんだ・・・。」 幼少の頃からずっと一緒に遊んでいた仲だ、放っておける訳がない。実はその事を理解していた桃がこっそり背中を押したそうだ。桃「あんたが一番、あの子の事を理解しているんでしょ。何となく悔しいけど。」 やはり正にとっての一番でありたいと思う気持ちはあるが、桃も福来子と良き友となりたかったが故に今回の行動を取ったのだという。 数分後、今度は守が立ち上がった。守「俺、チェイサー欲しいから水取って来るよ。」裕孝「あ、俺も。」 何ともあからさまな行動なのだろうか、別に松龍はセルフではないと言うのに。きっと正と同じ行動を取るのだろうと思った好美は少し笑いながら見送った。好美「バカね、早く行きなさいよ。」 守達は店で配っているポケットティッシュをありったけ手に取るとラップトップのある調理場側の出入口から裏庭に出た、その時には福来子は少し落ち着いた様子だった。守「大丈夫か?」福来子「まも・・・、ひろ・・・、うん・・・。」 物心がついた時から4人で毎日の様に外で遊ぶ仲だったが故に安正の事が許せなかったのだという。正「あいつ・・・、とっちめてやろうぜ。」守「そうだな、許せねぇ・・・。」 しかし、座敷に向かおうとした3人を引き止めたのはまさかの福来子だった。福来子「待って!!私がそうさせたの!!」 実はこの騒動は安正に美麗の事を一途に愛して欲しいが故に福来子が美麗と計画して行った事だったのだ、松龍にいたほぼ全員が2人の掌の上で転がされていたのだという。守「お前はそれでいいのかよ!!」 守は騙された事より福来子が安正の事を簡単に諦めた事が許せなかった、しかし福来子は大爆笑していた。福来子「何言ってんの、私他に彼氏がいるんだけど。」守「へ?」 一方、事
last updateLast Updated : 2025-10-27
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5. 「あの日の僕ら」90

-90 あの日の僕ら- 自分達が企画したドッキリだと言うのなら、どうして福来子は先程までずっと泣いていたのか不思議で仕方がなかった。福来子「ごめん、たーやんとまも君があまりにも本気だったから後に引けなくて。」守「何だよ、全部演技だったのかよ。」正「やられたぜ・・・。」 打ち上げのメンバー達がドッキリの成功を喜ぶ中、美麗は龍太郎の行動について問い詰めた。いくら自分達が計画した行為上での演技だと言っても少し酷では無かっただろうか。美麗「パパ、どうして安正を殴ったの?!いくら何でもあんまりだよ!!」龍太郎「あれ位防ぎきれないヤワな男がお前を守れると思うか?」 父親の行動は決して演技ではなかったらしく、真意からの行動だった様だ。娘を持つ父親の心理というやつなのだろうか(作者は未だ独身の為分かりません)。安正「良いんだ美麗、龍さん、いやお義父さん!!有難うございました!!」龍太郎「フン・・・、まだ早いわ・・・。」 安正の事を認めたのか、龍太郎は少し微笑んでいた。 時は過ぎ、数年後。父・操の事情で学生最後のお盆を今住んでいる街で迎えた好美は叔母・佳代子が笑顔で映っている写真が置かれている仏壇に手を合わせていた。好美「あれから早かったね、あまり会いに行けなくて本当にごめんね。」 ゆっくりと顔を上げた好美に香奈子が一礼した、香奈子の左手の薬指には指輪が光っていた。香奈子「本当にありがとう、お母さんも喜んでいると思うよ。特にこのお菓子、お母さんチョコ好きだったもん。」好美「良いの、守の所に持って行くものが少し多く出来たから。」香奈子「何、これ余り物なの?」好美「内緒よ、内緒。それにしても本当に裕孝君と結婚するんだね。」香奈子「うん、ずっと前から決めてたからね。お母さんにもウェディングドレス姿見せたかったな・・・。」好美「天国からきっと見てくれると思うよ。」香奈子「うん、そうね。」 大学4年になってから好美の就職関連や守の教職関連が理由でなかなか2人の予定が合う事が無かったが、とある理由でこっそり守に会いに向かっていた。龍太郎が持病のぎっくり腰をこじらせ、バイト(というより松龍)が急遽休みになった事も理由の1つだった。 ほぼ同刻、最寄り駅に圭の姿があった。1年から3年の間はずっと、お盆には他県にある母方の実家に帰っていたのだが、今年はこの
last updateLast Updated : 2025-10-27
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6. 「あの日の僕ら2」①

 ふと思った、「人への愛情とはいつ、そして何処に現れるのだろうか」と。 俺はこうとも考えた、「もし愛している人がいるのなら、その人の為にどれだけの涙を流せるかではなかろうか」と。 前作である「5. あの日の僕ら」の終着点は「4. 異世界ほのぼの日記2」を書き始めた時点でほぼほぼ決まっていた、しかし遺された者達が余りにも不憫で辛いまま終わってしまっている。 俺は「守」をこのまま放っておくのが嫌になった、それが故に「4. 異世界ほのぼの日記2」を「好美side」とする事に対し、今作を「守side」として書く事にした。 さて、長々と話すのはよして皆さんを妄想の世界へとまた誘おう・・・。6.「あの日の僕ら2~涙がくれたもの~」佐行 院-①序章~預けしもの~ - 決して自らの意志では無い圭とのキスを目撃されてからずっと話してなかったにも関わらず、ずっと大好きだった好美を失った守は失意のどん底にいた。棺桶の横で桃や美麗とずっと号泣していた時、葬儀場の出入口で好美の両親に必死に頭を下げる男性がいた。男性「この度は大変申し訳ございませんでした、全て私共の監督不行き届きが故でございます。せめて故人様に手を合わせさせて頂いても宜しいでしょうか。」 好美の父である操と母・瑠璃はその男性の入場を拒否し続けていた、会話から察するに男性は好美が働いていた工場の工場長らしい。操「去(い)んでくれ、たった今形だけの言葉ばっかを並べていたおまはんが手を合わせても決して好美は喜ばんわ。わがらも同様におまはんの謝罪なんかいらん、今すぐ大切な娘を返してくれ!!わがらの宝を返してくれ!!」工場長「大変申し訳ございません、大変申し訳ございません!!」瑠璃「聞いたらおまはん、工場で毎晩夜勤をされている者(もん)と決して顔を合わさんと会話っちゅうたら電話だけって聞いたじぇ。」操「監督不行き届きもええとこじゃ、今すぐ去んでくれ!!わがらはおまはんの顔なんてもう見とうない!!見たいのはあのあどけなかった娘のお日さんの様に明るかった笑顔だけじゃ!!」工場長「申し訳ございません・・・。」 右手に持つハンカチを濡らしながら何も出来ずに無力なままの工場長は必死に謝罪すると、頭を下げたまま振り返り帰って行った。 葬儀が終わり、火葬場での事。火葬される直前の好美の顔を見た守は再び号泣した、何と
last updateLast Updated : 2025-11-01
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6. 「あの日の僕ら2」②

-② 英雄は忘れた頃にやって来る- 遠くから守と島木の様子をコーヒーカップを拭いながら見守っていた店主は、守が号泣しているのを見て思わず2人の座る席に走って行った。店主「島木!!お前、俺の大事な守君に何をしたんだよ!!」島木「すいません、実は・・・。」守「店長・・・、島木さんは何も悪くありません。先日亡くなった俺の恋人の遺品と手紙を持って来て下さっただけなんです、ずっと預かっていて下さったんですよ。」 守が指定したのは学生時代にアルバイトをしていた喫茶店だった、店主である我原 聡と島木は学生時代の先輩後輩の関係で今でもたまに呑みに行く位の仲であった。 ただ島木は我原が喫茶店を経営している事だけは知っていたのだが、今自分がいるお店だという事を知らなかった。実は初めて来る店で、島木と守のコーヒーを持って来たのもアルバイトの女の子だったので全く気付かなかった。聡「それはすまなかった、悪い。」島木「いや、良いんです。怪しまれても仕方がありませんよ、それ位の罰では足らない位の罪を私の働く工場は犯してしまったのですから。本当に申し訳ございません。」守「謝らないで下さい、謝るなら今すぐ好美を返して下さい。」 謝罪なんか受けてもちっとも嬉しくなんかなれない。守「あの・・・、唐突に聞くのですがどうして好美は亡くなったのですか?」 島木は深くため息を吐いて重い口をゆっくりと開いた。島木「率直に申しますと、これはあくまで私自身の推測なのですが今の工場長が原因かと。」聡「なるほど、私も聞こうじゃないか。」 聡はアルバイトにホールを、そしてもう1人にキッチンを任せると守の隣に座った。息子の様に可愛がっていた守に関わる事だ、自分も知っておきたい。島木「実はと申しますと、先代の工場長の時、経営は毎年黒字で安定していたのですが今の工場長に変わってからずっと赤字で一時経営難に苦しめられたのです。しかし、今でも怠惰な工場長は全くもってその問題について真剣に考えることは無く全てを私に押し付けてきました。 そんな中、とんでもない事を行ったのです。 実は私の働く工場、「貝塚技巧」は全体的に吹き抜けになっていまして、2階の部分にほぼ壁が無く、1階から全て見える状態でしたので親会社の社長の計らいで防災用に柵とネット、そしてハーネスを取り付けていました。 しかし工場長は経費
last updateLast Updated : 2025-11-01
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6. 「あの日の僕ら2」③

-③ 社長の裏側- まさかのタイミングでの登場を迎えた英雄を間近に見て目を輝かせていたのは、悩みに悩む守や島木ではなくまさかの美麗と桃だった。美麗「あの・・・、読モの「YU-a(ゆうあ)」さんですよね?!」結愛「ああ・・・、そうですけど。」桃「私達あの雑誌のファンなんです、サイン下さい!!」香奈子「2人共やめなよ、迷惑がってんじゃん。」 つい2カ月ほど前の話だ、結愛が経済雑誌の「今活躍する女性若社長」という企画の取材を受ける為にとあるスタジオへと向かった時、誤って隣の部屋に入ってしまい、撮影スタッフに無理矢理腕を掴まれ着替えさせられた後に中心へと導かれ、挙句の果てにはそのまま撮影が始まってしまったのだが意外と乗り気だった結愛は撮影を楽しんでいたという。 まさか本当にファッション雑誌に掲載されると思って無かったので適当に「YU-a」という名前を手渡された書類に書いたが故、今に至るそうだ。 隣の部屋から慌てた取材スタッフが来た時はかなり赤面したらしい、ただ結愛本人は翌月の撮影にも楽しそうに参加して人気投票では上位にランクインしているそうだ。結愛「今は貝塚財閥の社長としてここにいるんですよ、サインはしますからすぐに席を外しても良いですか?」美麗「嬉しいです、ありがとうございます!!」桃「でもそうして守君と知り合いなんですか?」結愛「守とは高校が一緒なんですよ、同級生でして。」 ふと「ん?同級生?守の友人?」と思った瞬間、結愛は通称「大人モード」を解除した。結愛「あー、面倒くせぇ!!お前らは守の何なんだよ?」美麗「よく遊んでる友達・・・、です・・・。」結愛「同期なんだからタメ口でいいよ、守の友達は俺の友達だからな。」 この通称「悪ガキモード」の事はファンの間でも噂になっているらしく、この状態での結愛に会うと幸運になれると言う話も持ち上がっていた。 桃と美麗は本当に嬉しそうに叫んでいた、しかし今はそれ所ではない。「貝塚技巧」について話し合わないといけない。少し申し訳なさそうな表情をした島木が女性達に近付き結愛に声を掛けた。島木「社長、申し訳ないのですがそろそろ宜しいでしょうか?」 「社長」と呼ばれた瞬間、結愛は慌てた表情で「大人モード」に入った。結愛「あ、島木さん。ごめんなさい。(美麗達に)お前らも協力してくれんだろ、頼りにしてるぜ
last updateLast Updated : 2025-11-01
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6. 「あの日の僕ら2」④

-④ 過去と変わらず- 工場長への恨みを晴らす為の行動を開始しようとするメンバーは、狭い喫茶店の一角で悩みに悩んでいた。行動するにも何からすべきかを考える必要がある、正直に言うと工場長の関係者である聡と島木の存在は本当に大きく感じた。結愛「1つお伺いさせて頂きますが、お兄さんは昔から怠惰な方だったんですか?」聡「そうですね・・・、兄は小学生の頃、夏休みの宿題もなかなか手を出さずに毎年両親に怒られている様な人間でした。毎年の様に「来年はちゃんとする」と約束していたにも関わらずずっと同様の行動を繰り返していた事を覚えています。 高校に入ってからはまともに通学する事も無く、毎日の様に狭い部屋で籠ってずっとテレビゲームをしていた様な人間でした。 これは私個人的な感情なのですが、きっと兄は人間として成長する気が無かったのだと感じたのです。 そんな兄がある日、「高校を辞めてある工場で働き始めた」と言っていました。それが「貝塚技巧」だったんです。それまでの兄とは打って変わって毎日必死に働いていましたので両親は一安心していました。 それから数年後、「働いている工場で工場長になった」と言って涙を流しながら帰ってきました、ただそれからなのですが日に日にブクブクと太りだしたのです。 兄の姿を見た私は嫌な予感がしました、「工場長になった事につけあがってまともに働かなくなってしまったのだ」と。 やはり私の嫌な予感は当たっていたのです、当時、風の噂ですが「貝塚技巧」が原因不明の経営不振に陥っているという事を聞いてしまいました。 それから毎晩の様に顔を赤くして仕事から帰って来る兄に質問したんです、「今の状態で大丈夫なのか」と。 すると兄はこう答えました、「お前には関係ない、全て上手く行く」と。」 ここまでの聡の言葉を聞いて島木が口を挟んだ。島木「我原先輩、いや聡さん、ここからは私が語っても宜しいでしょうか。」聡「ああ・・・、そうだよな。俺より社内の人間であるお前の方が詳しいはずだよな、社長さん、宜しいでしょうか?」結愛「勿論、宜しくお願いします。」島木「工場長・・・、いや聡さんのお兄さんは定時に工場に来て定時に去って行くという行動をしていました。しかし決して作業場に入ることなく、事務所のデスクでずっと携帯を操作して取引先の電話に適当に受け答えをしていたのです。
last updateLast Updated : 2025-11-01
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6. 「あの日の僕ら2」⑤

-⑤ 作戦開始- 結愛が作戦開始に向けた発言をした中、守は未だに1人表情を曇らせていた。まるで心に大きな穴が開いた様な様子、葬儀から数日経過したがきっとまだ好美を失ったショックを忘れる事が出来ていないのだろう。ただ結愛達は当然の事かと黙認していた。島木「まだ辛く感じるのは当然ですよね、私で良かったらご協力をさせてください。」 そんな中、話し合いの場として使われていた喫茶店のアルバイトとして働く女の子が近づいて来た。女の子「失礼します、これ良かったら・・・。」 女の子は守の前にクリームたっぷりの特製カスタードプリンを1皿置いた。守「あの・・・、頼んでませんけど。」 守の言葉を聞いた聡が即座に口を挟んだ。聡「おいおい、お前勝手に何やってんだよ。」女の子「放っとけなくて、お代は私が出しますから。甘い物食べたら少しは元気出るかなと思いまして。」守「えっと・・・、折角なので頂きます・・・。」 守は出されたプリンを1口、そしてゆっくりと咀嚼した。守「うっ・・・、くっ・・・。」 守はまた大粒の涙を流した。島木「守さん、どうしたんですか?」守「すみません、好美がお菓子作りが得意だったことを思い出しまして。特にプリンは本当に美味しかったんです。」 プリンを持って来た女の子は少し罪悪感を感じていた、自らが持って来たプリンにより目の前の客を号泣させてしまったからだ。しかし次の瞬間、守が発した言葉にホッとした。守「ありがとう、嬉しかったよ。でもいいの?お金、払うよ?」女の子「良いんです、奢らせて下さい。私が望んでした事なので、それより大丈夫ですか?」守「うん、なんとか落ち着いたよ。またお店来るね。」 守はそう答えると作戦開始に向けて動き出した、結愛の指示を受けた黒服長の羽田から紙袋を受け取ると首を傾げて尋ねた。守「おい結愛、これ何だよ。」結愛「お前には光明と一緒に貝塚技巧に潜入してもらう、お前が工場長の目を逸らしている間に光明が隠しカメラを仕掛けるって作戦だ。昔やっただろ。」守「そんな事もあったかな・・・、いや無かった様な気もするけど。正直言って昔過ぎて覚えてねぇよ。いやでも待て・・・、確かあん時は深夜に仕掛けた隠しカメラと小型のドローンを使って無かったか?」結愛「まぁ・・・、俺も記憶がうやむやだから仕方ねぇか。」桃「あんた達、どういう過
last updateLast Updated : 2025-11-01
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6. 「あの日の僕ら2」⑥

-⑥ あの時の言葉- 二手に分かれた4人はそれぞれ反対の方向へと向かって行った、光明の作った隠しカメラと悟に知られない為の作戦を完璧に遂行するべく、この行動は必須とも言えた。 親会社「貝塚財閥」の副社長である光明からすれば「貝塚技巧」の工場内の全貌は頭に入っていたので今更見学は必要無かったのだが、少しでも友に協力する為に守と悟が完全に見えなくなるまで演技を続けていった。悟「こちらから作業場に入って行きます。」 悟自ら作業場への引き戸を開けて守を中に案内した、全体的に吹き抜けになっている工場では数人の男女が作業をしていた。 因みに聡の協力の上、光明が守の衣服に仕掛けた小型のマイクを通して2人の会話や周囲の音声が光明と聡に聞こえる様になっていた。これは居場所が被らない様にする為の行動で、怪しまれない様に守には決してマイクを通して声を掛けない様に伝えてあった。 下から細い通路だけに見え、全体的にむき出しになっていた2階部分には流石の悟も反省したのか、防災用のネットが張られていた。守「ここで好美が・・・、こいつが好美を・・・。」 そう思った守は一瞬拳を強く握ったが、学生時代のあるエピソードと龍太郎の言葉が守を引き止めた。 当時、悪学生として有名だった成樹に殴られた守がその後龍太郎から受け取ったビールを煽ると、中華居酒屋の店主は煙草に火をつけて燻らせ始めた。座敷で楽しそうに呑んでいた好美達と違って俯く守の表情は決して明るい物では無かった、龍太郎は煙草の煙を深く吸い込み一気に吐き出した。龍太郎(回想)「守、1つ聞かせてくれるか?」守(回想)「うん・・・。」 俯きながら守は小さく頷いた。龍太郎(回想)「お前、本当は悔しかったんじゃないのか?成樹を殴る事で好美ちゃんを守ろうとしたけど出来なかったから悔しかったんじゃないのか?」守(回想)「くっ・・・。」 声を必死に殺す守に龍太郎は続けた。龍太郎(回想)「でもな、俺はお前の事を誇りに思っているんだ。どうしてか分かるか?」守(回想)「いや・・・。」 守が俯いたまま首を小さく横に振った時、龍太郎の放った言葉が重くのしかかった。龍太郎(回想)「あのな、お前からすればうちの母ちゃんが止めたからだとは思うが「殴らなかった」からだ。行動するには勇気がいるが、やめるにはもっと勇気がいる。ただお前があの時成樹を
last updateLast Updated : 2025-11-03
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6. 「あの日の僕ら2」⑦

-⑦ 懐かしい仲間- 守の言葉を聞いた圭は、学生の頃の自らの気持ちに正直になったが故の行動を反省したのか少し抵抗しながらも守の肩にそっと手を置いた。 圭の手の温かさが無くなった恋人のものに似ていたのか、守の目にはずっと我慢していた熱いものが浮かんでいた。守「くっ・・・。」圭「だ・・・、大丈夫?」 足の力が一気に抜けた守は地べたに座り込んでしまった、小刻みに体が震えている。心の片隅にずっとしまい込んでいた好美への「大好き」と言う気持ちがまた再び溢れ出し始めたのだ。守「悪い・・・、まともに歩けそうにないから少し肩を貸してくれるか?」圭「勿論良いよ、私で良かったら何でも協力するから。」 声を殺しながら涙を流していた守は圭の力を借りて静かに家へと入って行った、廊下をとぼとぼと歩いて奥のリビングに入ってすぐの場所にあるソファに腰を下ろした。 1人では何も出来そうになかった守は隣にいる圭の存在が本当に嬉しかったのか、思わず圭を強く抱きしめて涙ながらに訴えた。守「圭・・・、俺どうすりゃいいんだよ!!全然分かんねえ・・・、俺は好美の為に何が出来るんだよ!!」圭「あの工場長に復讐するって誓ったんでしょ、それに守は1人じゃない。結愛や光明が味方になってくれているんでしょ、安心して。それに私もいるから。」 守は話が全く見えなかった、どうして喫茶店での事を圭が知っているのだろうか。守「お前・・・、あの場所にいなかっただろ?どうして?」圭「真帆が言ってたのよ、森田真帆。ほら、昔そこの空き地で私の2歳下の親戚と遊んだ事あったでしょ。」 ずっと前の小学生時代の夏休みの事だ、当時まだあどけなかった守が朝から正や光明達と近くの空き地で鬼ごっこや缶蹴りをして遊んでいた時に圭が一回り小さいショートボブの女の子の手を引いてやって来た事があった。圭(当時)「入ーれーて。」 守達は缶蹴りの缶を元の位置に戻して圭の元へと向かった。守(当時)「良いよ、でもその子誰?」正(当時)「初めて見る子だね。」圭(当時)「隣町に住んでいる真帆ちゃん、私の親戚なの。この子も一緒に遊んでいい?」 勿論と言わんばかりに守達は真帆を歓迎した、どんな遊びでも大人数でやった方が楽しいからだ。決して仲間外れにする事はなかった。真希子(当時)「もうお家の人が心配するから皆帰りなさいね。」 守達
last updateLast Updated : 2025-11-03
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6. 「あの日の僕ら2」⑧

-⑧ 懐かしい顔に-  突然だが話は守達が中学生だった頃に遡る、当時地元の中学校に通う守達が3年で高校受験を控える中、同じ中学校に真帆が入学して来た。その頃も、そして今も変わらず幼少の頃のショートボブを貫いていた。 幼少の頃から見慣れていたショートボブを見かけた守と真帆はほぼほぼ同時に互いの存在を認識したのだという、実は真帆が密かに守に対して想いを寄せていたので守に自分だとすぐに気づいて貰える様にする為ずっと同じ髪型をしてきたそうだ。 桜の花が舞い散る中学校の体育館で、丁度真帆達1年生の入学式が終わった時だった。式を終えて友人と共に教室に戻ろうとする守に、大声で真帆が話しかけた。真帆(当時)「守兄ちゃん!!」守(当時)「ん?」 聞き覚えのある言葉をかけては来たがすっかり成長した真帆の声に守は一瞬違和感を感じていた、しかし制服を着た見覚えのあるショートボブの女の子が守に向かって手を振りながら近づいて来る所を見て幼少の頃よく遊んだ真帆だと分かったらしい。真帆(当時)「ここの中学校に通ってたんだね。」守(当時)「もしかしてあの真帆ちゃんか?!」真帆(当時)「そうだよ、いつも遊んでた真帆だよ!!一緒に缶蹴りした真帆だよ!!ねぇ、今日一緒に帰らない?」守(当時)「俺は良いけど、真帆ちゃん家は逆方向だろ。」真帆(当時)「ちょっと寄りたいところがあるの。」 守を見つけてキラキラと目を輝かせている真帆の表情は本当に嬉しそうだった、少し不安に思っていたこれからの中学生活が守の存在を知ったお陰で見違える様だった。 ただ、守は別の方向から鋭い視線を感じていた。そう、笑顔の可愛い女の子と話す守を見た友人達が嫉妬していたのだ。友人①「おい守、あの子もしかしてお前の彼女か?」守(当時)「そんな訳ねぇだろ、俺モテた事ねぇもん。」友人②「そう言う割には見せつけてくれるじゃねぇか。」守(当時)「馬鹿言ってんじゃねぇよ、教室戻るぞ。」友人①「顔赤くしやがって、こいつめ。」友人②「やっぱり顔が良い奴は違うね。」守(当時)「アホか!!」 守達が教室に戻ってから暫くして、担任が教室に入りホームルームが始まった。担任「今から進路希望調査の用紙を配ります、希望する高校名を記入して下さい。まだ決まっていない場合は上の方にチェックを入れて空欄にしておいて下さい。」 守
last updateLast Updated : 2025-11-03
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