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6. 「あの日の僕ら2」③

Author: 佐行 院
last update Last Updated: 2025-11-01 10:44:39

-③ 社長の裏側-

 まさかのタイミングでの登場を迎えた英雄を間近に見て目を輝かせていたのは、悩みに悩む守や島木ではなくまさかの美麗と桃だった。

美麗「あの・・・、読モの「YU-a(ゆうあ)」さんですよね?!」

結愛「ああ・・・、そうですけど。」

桃「私達あの雑誌のファンなんです、サイン下さい!!」

香奈子「2人共やめなよ、迷惑がってんじゃん。」

 つい2カ月ほど前の話だ、結愛が経済雑誌の「今活躍する女性若社長」という企画の取材を受ける為にとあるスタジオへと向かった時、誤って隣の部屋に入ってしまい、撮影スタッフに無理矢理腕を掴まれ着替えさせられた後に中心へと導かれ、挙句の果てにはそのまま撮影が始まってしまったのだが意外と乗り気だった結愛は撮影を楽しんでいたという。

 まさか本当にファッション雑誌に掲載されると思って無かったので適当に「YU-a」という名前を手渡された書類に書いたが故、今に至るそうだ。

 隣の部屋から慌てた取材スタッフが来た時はかなり赤面したらしい、ただ結愛本人は翌月の撮影にも楽しそうに参加して人気投票では上位にランクインしているそうだ。

結愛「今は貝塚財閥の社長としてここにいるんですよ、サインはしますからすぐに席を外しても良いですか?」

美麗「嬉しいです、ありがとうございます!!」

桃「でもそうして守君と知り合いなんですか?」

結愛「守とは高校が一緒なんですよ、同級生でして。」

 ふと「ん?同級生?守の友人?」と思った瞬間、結愛は通称「大人モード」を解除した。

結愛「あー、面倒くせぇ!!お前らは守の何なんだよ?」

美麗「よく遊んでる友達・・・、です・・・。」

結愛「同期なんだからタメ口でいいよ、守の友達は俺の友達だからな。」

 この通称「悪ガキモード」の事はファンの間でも噂になっているらしく、この状態での結愛に会うと幸運になれると言う話も持ち上がっていた。

 桃と美麗は本当に嬉しそうに叫んでいた、しかし今はそれ所ではない。「貝塚技巧」について話し合わないといけない。少し申し訳なさそうな表情をした島木が女性達に近付き結愛に声を掛けた。

島木「社長、申し訳ないのですがそろそろ宜しいでしょうか?」

 「社長」と呼ばれた瞬間、結愛は慌てた表情で「大人モード」に入った。

結愛「あ、島木さん。ごめんなさい。(美麗達に)お前らも協力してくれんだろ、頼りにしてるぜ
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    -⑤ 作戦開始- 結愛が作戦開始に向けた発言をした中、守は未だに1人表情を曇らせていた。まるで心に大きな穴が開いた様な様子、葬儀から数日経過したがきっとまだ好美を失ったショックを忘れる事が出来ていないのだろう。ただ結愛達は当然の事かと黙認していた。島木「まだ辛く感じるのは当然ですよね、私で良かったらご協力をさせてください。」 そんな中、話し合いの場として使われていた喫茶店のアルバイトとして働く女の子が近づいて来た。女の子「失礼します、これ良かったら・・・。」 女の子は守の前にクリームたっぷりの特製カスタードプリンを1皿置いた。守「あの・・・、頼んでませんけど。」 守の言葉を聞いた聡が即座に口を挟んだ。聡「おいおい、お前勝手に何やってんだよ。」女の子「放っとけなくて、お代は私が出しますから。甘い物食べたら少しは元気出るかなと思いまして。」守「えっと・・・、折角なので頂きます・・・。」 守は出されたプリンを1口、そしてゆっくりと咀嚼した。守「うっ・・・、くっ・・・。」 守はまた大粒の涙を流した。島木「守さん、どうしたんですか?」守「すみません、好美がお菓子作りが得意だったことを思い出しまして。特にプリンは本当に美味しかったんです。」 プリンを持って来た女の子は少し罪悪感を感じていた、自らが持って来たプリンにより目の前の客を号泣させてしまったからだ。しかし次の瞬間、守が発した言葉にホッとした。守「ありがとう、嬉しかったよ。でもいいの?お金、払うよ?」女の子「良いんです、奢らせて下さい。私が望んでした事なので、それより大丈夫ですか?」守「うん、なんとか落ち着いたよ。またお店来るね。」 守はそう答えると作戦開始に向けて動き出した、結愛の指示を受けた黒服長の羽田から紙袋を受け取ると首を傾げて尋ねた。守「おい結愛、これ何だよ。」結愛「お前には光明と一緒に貝塚技巧に潜入してもらう、お前が工場長の目を逸らしている間に光明が隠しカメラを仕掛けるって作戦だ。昔やっただろ。」守「そんな事もあったかな・・・、いや無かった様な気もするけど。正直言って昔過ぎて覚えてねぇよ。いやでも待て・・・、確かあん時は深夜に仕掛けた隠しカメラと小型のドローンを使って無かったか?」結愛「まぁ・・・、俺も記憶がうやむやだから仕方ねぇか。」桃「あんた達、どういう過

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    -② 英雄は忘れた頃にやって来る- 遠くから守と島木の様子をコーヒーカップを拭いながら見守っていた店主は、守が号泣しているのを見て思わず2人の座る席に走って行った。店主「島木!!お前、俺の大事な守君に何をしたんだよ!!」島木「すいません、実は・・・。」守「店長・・・、島木さんは何も悪くありません。先日亡くなった俺の恋人の遺品と手紙を持って来て下さっただけなんです、ずっと預かっていて下さったんですよ。」 守が指定したのは学生時代にアルバイトをしていた喫茶店だった、店主である我原 聡と島木は学生時代の先輩後輩の関係で今でもたまに呑みに行く位の仲であった。 ただ島木は我原が喫茶店を経営している事だけは知っていたのだが、今自分がいるお店だという事を知らなかった。実は初めて来る店で、島木と守のコーヒーを持って来たのもアルバイトの女の子だったので全く気付かなかった。聡「それはすまなかった、悪い。」島木「いや、良いんです。怪しまれても仕方がありませんよ、それ位の罰では足らない位の罪を私の働く工場は犯してしまったのですから。本当に申し訳ございません。」守「謝らないで下さい、謝るなら今すぐ好美を返して下さい。」 謝罪なんか受けてもちっとも嬉しくなんかなれない。守「あの・・・、唐突に聞くのですがどうして好美は亡くなったのですか?」 島木は深くため息を吐いて重い口をゆっくりと開いた。島木「率直に申しますと、これはあくまで私自身の推測なのですが今の工場長が原因かと。」聡「なるほど、私も聞こうじゃないか。」 聡はアルバイトにホールを、そしてもう1人にキッチンを任せると守の隣に座った。息子の様に可愛がっていた守に関わる事だ、自分も知っておきたい。島木「実はと申しますと、先代の工場長の時、経営は毎年黒字で安定していたのですが今の工場長に変わってからずっと赤字で一時経営難に苦しめられたのです。しかし、今でも怠惰な工場長は全くもってその問題について真剣に考えることは無く全てを私に押し付けてきました。 そんな中、とんでもない事を行ったのです。 実は私の働く工場、「貝塚技巧」は全体的に吹き抜けになっていまして、2階の部分にほぼ壁が無く、1階から全て見える状態でしたので親会社の社長の計らいで防災用に柵とネット、そしてハーネスを取り付けていました。 しかし工場長は経費

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     ふと思った、「人への愛情とはいつ、そして何処に現れるのだろうか」と。 俺はこうとも考えた、「もし愛している人がいるのなら、その人の為にどれだけの涙を流せるかではなかろうか」と。 前作である「5. あの日の僕ら」の終着点は「4. 異世界ほのぼの日記2」を書き始めた時点でほぼほぼ決まっていた、しかし遺された者達が余りにも不憫で辛いまま終わってしまっている。 俺は「守」をこのまま放っておくのが嫌になった、それが故に「4. 異世界ほのぼの日記2」を「好美side」とする事に対し、今作を「守side」として書く事にした。 さて、長々と話すのはよして皆さんを妄想の世界へとまた誘おう・・・。6.「あの日の僕ら2~涙がくれたもの~」佐行 院-①序章~預けしもの~ - 決して自らの意志では無い圭とのキスを目撃されてからずっと話してなかったにも関わらず、ずっと大好きだった好美を失った守は失意のどん底にいた。棺桶の横で桃や美麗とずっと号泣していた時、葬儀場の出入口で好美の両親に必死に頭を下げる男性がいた。男性「この度は大変申し訳ございませんでした、全て私共の監督不行き届きが故でございます。せめて故人様に手を合わせさせて頂いても宜しいでしょうか。」 好美の父である操と母・瑠璃はその男性の入場を拒否し続けていた、会話から察するに男性は好美が働いていた工場の工場長らしい。操「去(い)んでくれ、たった今形だけの言葉ばっかを並べていたおまはんが手を合わせても決して好美は喜ばんわ。わがらも同様におまはんの謝罪なんかいらん、今すぐ大切な娘を返してくれ!!わがらの宝を返してくれ!!」工場長「大変申し訳ございません、大変申し訳ございません!!」瑠璃「聞いたらおまはん、工場で毎晩夜勤をされている者(もん)と決して顔を合わさんと会話っちゅうたら電話だけって聞いたじぇ。」操「監督不行き届きもええとこじゃ、今すぐ去んでくれ!!わがらはおまはんの顔なんてもう見とうない!!見たいのはあのあどけなかった娘のお日さんの様に明るかった笑顔だけじゃ!!」工場長「申し訳ございません・・・。」 右手に持つハンカチを濡らしながら何も出来ずに無力なままの工場長は必死に謝罪すると、頭を下げたまま振り返り帰って行った。 葬儀が終わり、火葬場での事。火葬される直前の好美の顔を見た守は再び号泣した、何と

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    -90 あの日の僕ら- 自分達が企画したドッキリだと言うのなら、どうして福来子は先程までずっと泣いていたのか不思議で仕方がなかった。福来子「ごめん、たーやんとまも君があまりにも本気だったから後に引けなくて。」守「何だよ、全部演技だったのかよ。」正「やられたぜ・・・。」 打ち上げのメンバー達がドッキリの成功を喜ぶ中、美麗は龍太郎の行動について問い詰めた。いくら自分達が計画した行為上での演技だと言っても少し酷では無かっただろうか。美麗「パパ、どうして安正を殴ったの?!いくら何でもあんまりだよ!!」龍太郎「あれ位防ぎきれないヤワな男がお前を守れると思うか?」 父親の行動は決して演技ではなかったらしく、真意からの行動だった様だ。娘を持つ父親の心理というやつなのだろうか(作者は未だ独身の為分かりません)。安正「良いんだ美麗、龍さん、いやお義父さん!!有難うございました!!」龍太郎「フン・・・、まだ早いわ・・・。」 安正の事を認めたのか、龍太郎は少し微笑んでいた。 時は過ぎ、数年後。父・操の事情で学生最後のお盆を今住んでいる街で迎えた好美は叔母・佳代子が笑顔で映っている写真が置かれている仏壇に手を合わせていた。好美「あれから早かったね、あまり会いに行けなくて本当にごめんね。」 ゆっくりと顔を上げた好美に香奈子が一礼した、香奈子の左手の薬指には指輪が光っていた。香奈子「本当にありがとう、お母さんも喜んでいると思うよ。特にこのお菓子、お母さんチョコ好きだったもん。」好美「良いの、守の所に持って行くものが少し多く出来たから。」香奈子「何、これ余り物なの?」好美「内緒よ、内緒。それにしても本当に裕孝君と結婚するんだね。」香奈子「うん、ずっと前から決めてたからね。お母さんにもウェディングドレス姿見せたかったな・・・。」好美「天国からきっと見てくれると思うよ。」香奈子「うん、そうね。」 大学4年になってから好美の就職関連や守の教職関連が理由でなかなか2人の予定が合う事が無かったが、とある理由でこっそり守に会いに向かっていた。龍太郎が持病のぎっくり腰をこじらせ、バイト(というより松龍)が急遽休みになった事も理由の1つだった。 ほぼ同刻、最寄り駅に圭の姿があった。1年から3年の間はずっと、お盆には他県にある母方の実家に帰っていたのだが、今年はこの

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