【高見陽介】翔子とは、別れと同時に会社を辞めてった時から一度も会ってはいなかったが、同期の中で共通の友人も何人かいる。その中の何人かとは連絡取ったり遊んだりしていることは聞いてたから、元気に頑張ってるらしいっていうのは知ってた。直接本人から連絡があったのは、一週間くらい前のことだ。どちらかというと友達の延長上で付き合ったようなところがあった俺たちだから、別れた後もほとぼり覚めれば友達に戻るもんなのかもしれないな、と頭の何処かで思っていた。電話越しの泣き声をほっとけなかったのも、本当に友人としての情でしかない。それは、間違いなく断言できるけれど。『貴方は、こっちが辟易するくらい優しい人で、そんなところを僕は嫌いじゃありません。僕に遠慮して、失くすことはないです』慎さんが言ってくれた言葉は、感動するくらい嬉しくて同時に、それと同等くらいの罪悪感を抱かされる。彼女の言葉は決して嘘ではないけれど本音でもないのだということが、すぐにわかってしまった。今大事な人と居るのに、電話なんて出るわけないと思ったけれどどうしても目の前で出てくれと言わんばかりで、それが全部綺麗ごとじゃないことくらい、わかる。でもどうすりゃいいのかが、さっぱりわからない。電話に出たことが、正しかったのかどうなのか。宥めたり安心させたり、もっと上手くやれる奴はやれるんだろうけど。「終わりました。……心配させてすみません」「いや……別に、心配とか」「……わかんないすね、こういう時どうするのがいいとか」覗き込むと、むすっとしてまだどこか拗ねた表情で、やっぱり面白くなかったんだと伝わってくる。すんません、それでも俺。拗ねてくれたことが、嬉しいです。ちゅ、と不意打ちで、キスをしてしまえば慎さんが恨めしそうに眉根を寄せた。「……なんですか、急に」「ムスッとしてたから、ずっと」「……僕の機嫌が悪かったら、そういう誤魔化し方するんですか貴方は」「すみません、でも可愛くて、つい」「それに別にムスってなんてしてません」ふいっと横を向いた顔が、やっぱりとても機嫌が良いようには見えない。妬かせて喜ぶ趣味は無いけど、妬いてくれたらやっぱり男としては嬉しい。「もっと怒ってくれても、いいんすよ」そう言うと、ちらりと此方に目を向けて一度唇を咬む。そしてたっぷりの間をおい
Last Updated : 2025-05-15 Read more