Semua Bab 優しさを君の、傍に置く: Bab 91 - Bab 100

111 Bab

だから言わんこっちゃない!《2》

貴方に比べれば大抵のものは小さくて可愛く見えるでしょうけど。一般的に、僕は可愛らしい部類には入らないと思うけど。それでも、彼が嘘やお世辞を言ってるようには見えなくて、本気で可愛いと思ってるんだろうと信じてしまう。それが、すごく、くすぐったい。二つ並んだ大小の手を見ていたら、いつも大型犬さながらに嬉しそうに懐いて来る姿が浮かんで頬が緩んだ。約束の遊園地には、きっと並んで歩いても僕と彼は普通のカップルには見られない。友人かゲイカップルといったところだ。多分それでも陽介さんは、楽しそうに笑ってる。そんなことを考えながら、手とか服越しに触れてる肩や腕に伝わる体温が心地よくて、いつの間にか僕もすっかり寝入ってしまい。次に目が覚めた時には僕はベッドに寝かされていて、陽介さんは帰ってしまった後だった。”ワイシャツが見つかんなかったのでスエットの上借りて行きます”と置手紙を残して。もしかしたら見つからなかったんじゃなくて、洗濯機の中だろうと気が付いても開けちゃいけないと思ったのかもしれない。中には陽介さんのワイシャツしか入ってなかったから、開けてくれて構わなかったんだけど。それに、起こしてくれたらよかったのに。少し首を傾げたけれど、きっと彼もいい加減疲れが溜まっていて早く帰って休みたかったのだろうと、納得した。―――――――――――――――――――十二月というのは、ただでさえ客の多い稼ぎ時で、特に九時以降くらいから忙しくなる傾向にある。忘年会シーズンで、一次会若しくは二次会まで終えた後での来店が多いからだが。クリスマスイブ前後はカップル客も多く、その後すぐに十二月最後の土日があり、立て続けの忙しさに僕の方も余り余裕がなくなっていた。陽介さんもさすがの忙しさに遠慮したのか終電を待つことなく帰って行って、ゆっくり話すこともできないまま。二十八日の朝方、年末最後の客が帰り、漸く仕事納めとなった。「はいよ、十二月分」「ありがとうございます」佑さんから、給料袋を受け取った。当然の如く、今どき現金手渡しだ。然し乍ら、今月は少ないはずである。先日の飲み比べの代金を、給料天引きでお願いしていたからだ。「あれ?」「なんだ? 少ないとかいうなよ」「少ないのはいつものことだけど、此間の飲み代が引かれてない」正味酒代程度にしてくれたとしても
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-10
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だから言わんこっちゃない!《3》

げほん、ごほんと、痰の絡んだ咳が携帯電話の向こうで聞こえる。「風邪?!」『す……すんませっ、なんとか気合で治そうと思ったんす……け……ど……』語尾に力が無くなったかと思うと、数秒の沈黙の後、またげほごほと激しい咳の音がした。「ちょっ……大丈夫ですか?」『けほっ……すんません。すげー行きたいのに、慎さんに移したら、と思うと』「熱は? 病院は行ったんですか」ところどころに鼻を啜る音と咳が混じっていて、声が全体的に弱々しい。結局既読が付かないまま朝を迎えて、電話が鳴ったと思ったら風邪を引いてしまったと言う。『昨日、仕事早めに終わって病院行って、インフルエンザではなくって、薬は貰ったんすけど……』「は?!……昨日から?! なんで言わないんですか!」『すんません……だって、どうしても、遊園地が……熱さえ下がったら行けるかもって』「そんなことはどうでもいいんです馬鹿!」めそめそと泣きそうな声に一言「寝てなさい!」と付け足して、通話を切った。馬鹿だ、ほんとに馬鹿!昨日なら僕も休みだったのに、なぜ言わない!男の一人暮らし、体温計はあるんだろうか。なんか、「俺は風邪引かないっすから!」とか言って何も持ってない気がする。念のため体温計と水枕と。どれくらいの熱なのかを結局聞きそびれたけど、途中でスポーツドリンクとゼリーを買って。あ、冷蔵庫に冷えピタがあった。トートバッグの中に必要な、思い付く限りのものを放り込んで、一番上に返せていなかったワイシャツをビニール袋に入れてから乗せる。陽介さんのマンションの場所は、ちゃんと覚えている。よくもあの時、連れてってもらっていたものだ。駅を降りてから、一本道だったはず。外観はあまり覚えてないけど、なんとかなるだろう。コートを羽織って真新しいスニーカーを引っ掛けるようにして履くと、僕は慌てて部屋を出た。スポーツドリンクのペットボトルやらゼリーやら、水物ばかりで重たいスーパーの袋を引っ提げて、迷わずに陽介さんのマンションの前に着いたものの。携帯にメッセージを送っても反応が無い。熟睡してしまっているのかもしれない。「……しまった」勢いで来てしまったけれど、よく思い出せば僕は「寝てなさい」と言っただけで、今から行くとは一言も言わなかった気がする。インターホンを押してもやっぱり反応はなく、余り何度
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-12
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だから言わんこっちゃない!《4》

冷えピタが斜めだ。案外、元気そうな表情で良かったけれど、熱の所為か少し顔が赤い気がする。目も少し潤んでいるのはやっぱり熱のせいだろうか。「来てくれたんすか……」「あ……うん。一人暮らしだと大変だろうと思ってつい……でも、妹さんがいるなら、帰ります」顔を見た途端、なんだか急に恥ずかしくなって視線を逸らす。意気込んできてしまったけれど、近くに妹さんがいるならほんとに余計なお世話だった。かー、と顔が熱くなるのを感じて慌てて下を向いた。「いや、すぐ帰ります、バイトあるはずだし。ああ、でも移したくないから昨日も店行くの我慢したのに……」「いや、三十九度あったんでしょう、何言ってんですか」帰ると言ったのに、話しながらしっかりと手を握られてしまって、逃げ出すこともできなくなった。「……遊園地、行きたかった。けほっ」「そんなの、熱が下がったらいつでも……」ケホコホと咳をしながら、僕の手を持ち上げてキスをしかけたものの躊躇って頬ずりに変えた。多分、風邪の菌が移ったら、とか色々考えたのだろうけど。最早、手にキスするのはこの男の癖か習慣のようになってしまっているらしい。「ちょ……お兄ちゃん?」その声に、はっと我に返る。陽介さんの影に隠れて全く見えていなかったが、すぐそこに妹さんがまさにドン引きといった顔で立ち尽くしていた。「ちょっ、陽介さん、手! 離して!」ぐいぐいと引っ張るも、少しも抜け出せそうにない。馬鹿力なのは熱があっても健在か!いくらなんでも妹にゲイだと思われるのはマズかろうと、必死で離れようとしているのに。陽介さんは相変わらず周囲には目もくれず手を握ったままで、ふと僕の鞄の中が目に入ったようだった。「こないだ置いてったワイシャツ、持ってきてくれたんすか」「あ、はい。一応アイロンはあてておきました……じゃなくて手を!」「ワイシャツを脱いで置いてくような……仲?」ああああ!彼女の勘違いが更に確信を深めて、愕然とした顔で僕と陽介さんを見比べている。「ちが……違います、これは」「……お兄ちゃん、その人、付き合ってる、とか?」「うんそう。こないだから」「ちょっ!」彼女の勘違いに、気付いてないはずないだろう!なんで何も言わないんだ!陽介さんはあっさりと認め、それ以上弁明しようとしないから。ああ、もう! 「女なんです
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-07
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だから言わんこっちゃない!《5》

小言の相手がその調子では毒気も抜かれるというもので、手を握られたまま離れることもできず、そのまま枕元の床に腰を下ろした。 「暫く、居てくれるんすか」「そうですね。後でキッチンを借りてもいいですか」「キッチンでもなんでも。暇になったらDVDも結構並んでるんで自由に見てください」 言いながら、握った僕の手を指でさらさらと撫でている。これが、すごく、くすぐったいのだ。手が、じゃなくて。気持ちが。 「良かったんすか」「何がですか?」「妹に。俺は別に、なんて思われても気にならない性質だし、慎さん無理しなくて男で通してて良かったのに」「いくらなんでも、そんなわけには……」「俺にはちゃんと女の子だし、それで充分なのに」「……」 ぼぼぼっ、と顔に熱が集まったのは、陽介さんにも見られただろうか。薄暗がりだから、バレなかったと思いたい。なんてことを、照れもせずに言うんだろう。聞いてる僕の方が、脳が沸騰しそうなくらいに恥ずかしい。 「あ、貴方こそ」 熱の引かない頬をそのままに、僕はちょっと彼を睨むようにして話を変えた。 「貴方こそいいんですか。思ったより随分、かっこつけです。こっそり、飲み比べの代金支払ったでしょう」「あ……バレた。やった」「やった、ってなんですか」「だってバレた方が慎さんに「カッコイイ」って思ってもらえるじゃないすか」「……その下心を自分からバラしてどうするんですか」 呆れた。けど、可笑しい。手を繋いでいる方の腕に顔を伏せ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-08
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貴女が涙を呑んだ理由《1》

【高見陽介】遊園地を目の前に、まさか子供の頃以来の三十九度なんて高熱を出すことになるとは思わなかった。「明日迎えに行きます」というメッセージを送ったのは、慎さんに知られたら「馬鹿言わないで寝てなさい」と言われて遊園地が流れてしまいそうだったから。本気で気合で治すつもりでいた。だってほら、熱出ても一日寝たら治りました、なんて結構ある話だろう。結局、残念ながらそんな上手い展開にはならず、解熱剤で一時的に下がっても朝になればまた熱が上がり、遊園地は敢無くキャンセルとなったのだが。なんと!あの、照れ屋の慎さんが!看病に来てくれるなんて!全く思ってなかったと言えば嘘になるけど電話越しの声が怒ってたから、期待はしてなかった。遊園地は延期になったが、熱を出して良かったとさえ思える出来事だ。しかも、俺の真似をしただけだと顔を真っ赤にしてむすっとしていたけれど。手に、キスをしてくれた。慎さんからの、初めてのキスだった。真夜中、ふと目が覚める。寝汗をぐっしょり掻いてて、気持ちが悪いし喉も酷く乾いていたけど、なんだかすごく、頭はすっきりしていた。高熱の時はどこかぼんやりしていた視界も今はクリアに見える。見渡した部屋は常夜燈だけが付けられていて、しんと静まり返っていた。昼間は結局殆ど寝ていて、慎さんが時々起こしてスポーツドリンクを飲ませてくれたのを覚えている。その慎さんも、もう今はいないはずだ。夕方に、暗くなる前に帰ってくださいとお願いしたから。送って行く体力は期待できなかったし、暗い中、一人で帰らせるなんて絶対無理だし。なんかあったらと思うと、おちおち寝てられない。うちに泊まってもらうのも今夜はちょっと、怖かった。台所に直行し、冷蔵庫の中にあった二リットルのスポーツドリンクのペットボトルを半分ほどまで一気に空けて、ひと息つく。ふとガスコンロを見れば普段殆ど使わない片手鍋が出ていて、蓋を開けると粥が作ってあった。俺の為に作ってくれたのだと思うと、つい口元がにやけてくる。そんでもって、やっぱり帰ってもらってて良かったと、安堵もした。こんな可愛いことばっかりされたら、さすがに理性を保つ自信がない。いや保って見せるけど。辛いっすよまじで。よく見ると、いつも雑然としている調味料……ってもアジシオと胡椒と卓上醤油程度だけど、それらが綺麗
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-09
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貴女が涙を呑んだ理由《2》

一旦寝室に戻ってベッドの中を確かめて、何もしないよりはマシだろうと、バスタオルを敷いてからいそいそとリビングに戻る。ソファを見下ろすと、さっきと全く変わらない状態で気持ちよさそうに眠っていた。 ……熟睡、してくれてるかな? こういう時、ちょっとした罪悪感もあるのは、多分。彼女をベッドに運ぶ行為って、結構、男の自己満足みたいなものがあったりするからだと思う。なんか、こう。自分に全力で委ねられてるって感じが、庇護欲を掻き立てて、更には、彼女を守ってるのは俺っていう、充足感を得られる、というのか。そんな下心があることを、頭でわかっているからだ。所詮、自己満足。なんだけどさ。 慎さんをベッドに寝かせて、俺がソファに寝てるとこ見つかったら、めっちゃ怒るんだろうなあ。病人のくせに何やってるんですか!つって。でももう熱下がったっぽいしな。明日の朝怒られる覚悟をしてにへにへ笑いながら、慎さんをしっかり毛布に包み直して首の下と膝の裏に、腕を通す。背は高くても兎に角細いから、それほど重くはない。だけど、持上げる時にふらつくと目を覚ましそうで。慎重に慎重に……と彼女の体重をソファから腕に移行させてゆっくり腰を上げる。その途中で、熱の後だからか昨日殆ど食えてないからか、一瞬足に力が入らなかった。 うわ!と、声はかろうじて我慢したものの、ぐらっと揺れた拍子に、腕を彼女の頭がころんと転がる。瞬間、ばちっと、目が合った。しまった、と思った。大きく見開かれた慎さんの目に、一瞬で怯えの色が混じったのがわかったから。 それからは数秒の間もない。「やっ、」という小さな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-10
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貴女が涙を呑んだ理由《3》

「あ、俺が寝てる時?」「そう。佑さんが、姉と娘に会いに昨日から戻ってて、余計な事をいいやがって」「はあ」話しが見えなくて、相槌を打ちながらお粥を口に運ぶ。慎さんの口調からして、どうやら佑さんに腹を立てているらしいが、一体何があったというのか。彼女が一瞬口籠ったのをそのまま見守っていると、少し頬を染めて言いにくそうに口を開いた。「ぼ……僕に、彼氏が出来たと。姉と両親に言ったらしくて。それ聞いて速攻電話かけてきて、姉はどんな男だとガンガン聞いて来るし、母親は本当に彼氏か、まさか彼女だったりしないかとか」「ぶっ! 彼女て。容赦ないすねお母さん」「悪気はないんですけどね。底抜けに明るい家族で裏表がないというか、なんでもストレートにぐいぐい来る……ので……」そこまで話して、慎さんが呆けたように俺の顔を見る。「なんすか」「いえ、なんでも……」言いながら彼女は頬を引き攣らせて笑いながら目を逸らし、俺は意味がわからず首を傾げる。「まあ、兎に角あれだこれだと話を聞きたがって面倒くさくて。もうずっと帰ってないせいもあって、僕だけでも正月に一度帰って来いってことになったんです。だから遊園地はほんとに、ちゃんと陽介さんの体調が整ってからで」「え、それって彼氏も連れて来いって話になったんじゃないんすか」さらっとそこを流そうとするからつい突っ込んじゃったけど。間違いなく、今の流れだとそうなるよな。慎さんは、図星を指されたと言わんばかりに気まずそうな顔だった。「俺、行きますよ」「は?」「慎さんが嫌なら隠れてついて」「そっちのが気持ち悪いです。僕より、貴方の方が嫌でしょう。いきなりこんな」「全然。佑さんもいるんすよね? 慎さんの家族、会ってみたいし」それに。慎さんの元気がない理由がわかってしまった。絶対、一人で行かせらんないだろう。慎さんも、ほんとは絶対付いて来て欲しかったんだと思う。だって、ちょっと沈んでいた顔が、今ほんのちょっとだけ明るくなった。多分、体調が思わしくないのに、とか、付き合って間もないのにいきなり重い、とか色々考えてたんだろうけど。体調なんかもう全然問題ないし、別に重くない。「二月、結婚式にも慎さん送って行くじゃないですか。だったら事前に挨拶しといた方が、角も立たなくていいんじゃないすか?」家族ぐるみの付き合いだって
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-11
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貴女が涙を呑んだ理由《4》

―――――――――――――――――――――元旦、朝早い新幹線はかなり空いていた。新幹線から電車に乗り継いで、降りた駅で一言、慎さんが言った。「あ、新しくなってる」「駅ですか?」「うん。昔はもちょっと古びた感じだったし、場所もずれてるかも」構内を歩きながら、並んだ窓の外の風景に目を向けていた。「そんなに久しぶりなんすか?」「短大卒業してから帰ってない。家族とは、なんだかんだ会ってますけどね。姉と姪は去年の夏休みにも遊びに来てて……あ、そうか」「なんすか?」「いえ、その頃にはまだ、貴方とは知り合ってもいなかったんだなあと思って」しみじみと、今度は俺の顔を見て言う。そういえば、そうだ。慎さんと出会ったのは、秋だったから。「そう、すね。あれ? じゃあまだ三か月くらいしか経ってないのか……」「なんかもう随分長い間付きまとわれてる気がしてました……」「毎日会ってるからですね、きっと」「この調子で会ってると半年も待たずに倦怠期とかになるんじゃないですか?」「一年経ったら熟年カップルみたいになりますよきっと」慎さんと、長年連れ添ったカップルみたいになれてたらいい。阿吽の呼吸、みたいなやつ。「貴方はどこまでも前向きですね……」駅を出ると、天気は良いが空気が冷たく二人そろって肩を竦めた。「寒っ、風が」「慎さん、後ろ歩くんなら右か左かまっすぐか指示してくださいね」「まっすぐ。行って出た坂道を上」「了解っす」真正面からの風避けになりながら歩いて、坂道に差し掛かったところで風向きが変わって慎さんが隣に並んだ。何気に手を繋ぐと、何の違和感もなく握り返してくれるようになった。ちら、と横顔を盗み見てもいつも通りの涼しい顔で、多分本当に自然に握ってくれたんだと思う。「上り坂になるしタクシー使ってもいいんだけど、ちょっと懐かしいから歩いてもいいですか」慎さんが、前方を指しながら此方を向いた。ほんのちょっと頬が高揚して見えて、それが可愛い。「いっすよ勿論。ほんと、結構坂多いですね」「山裾なので、道によっては急なところも多くて。でも回り道していけば、緩やかなのでそれほどキツくもないですよ」神戸だと言うから港町を想像していたけど、慎さんの実家のある町は山際で、意外に自然も多い。大きな池の周辺を散策できるように整備された公園を横切って
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-11
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貴女が涙を呑んだ理由《5》

◇◆◇ 「あー、真琴さんが酒強いのってだからっすか!」「そうちゃうかなー。毎日晩酌付き合わせてたからな、高校生んときから。その頃は一日一杯程度やったのにいつの間にか酒豪になりやがって」 お父さんは、髪と目の色は真琴さんと同じだけれどもっと日本人離れした顔立ちだった。 聞けば父親、つまり真琴さんの祖父に当たる人がロシア人だったとか。 けどお父さんは生まれも育ちも日本で、言葉も関西弁だし英語もロシア語も話せないと言う。 そしてこっちが戸惑うくらい気さくな人物で、一時間も経たないうちに男三人で酒盛りとなったのである。 「陽介も結構飲むんですけどね。真琴と飲み比べやってこてんぱんに潰されてやんの」「飲み比べ?! コイツと?! ようやるわ」「まさかあんな強いと思わなくて……でもいいんす、そのおかげで付き合えるようになったので」 酔いから目が覚めた時、真琴さんが最後のグラスを飲まなかったと聞いた時のあの感動を思い出してつい口元がだらしなくなってくる。 「え、どういうことやねん」「陽介が勝ったら付き合うっていう条件で、真琴が最後わざと飲まなかったんですよ」「うわ、なんやそれ。わが娘ながらめんどくさ……」「もういいだろその時の話は!」 隣に座って黙って聞いていた真琴さんだったが、あの時の話になると顔を真っ赤にして怒った。 その膝は、佑衣ちゃんがしっかり陣取っていて、じろじろとさっきから俺を睨んでいる。 どうやら俺は、このちびっこに敵対視されているらしい。いや別に、子供相手に火花を散らすつもりはないんだけど、飛んで来る視線を真向から受け止めると、絵面的にそんな感じになる。 あ、そうだ。 そういやこれまだ渡してなかった。 と、上着のポケットから忘れていたポチ袋を取り出した。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-12
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貴女が涙を呑んだ理由《6》

「そうや、篤くんと連絡とっとん?」 真琴さんの顔から一瞬表情が消えたのは、食べ終えた雑煮の椀を集めながら真衣さんがそう言った時だった。 「いや。もうずっと取ってない、かな」「そうなん? 高校まであんなに仲良かったくせに」「そうでもないよ」 口元にもう一度笑みは浮かんだものの、湯呑を撫でる手が少し忙しなくなって、最後にはテーブルの下に隠してしまった。 それを見て、篤というのが例の幼馴染のことなのだとすぐに悟った。 「しょっちゅう遊んでたやん! 篤くんなあ、デキ婚らしいよ!」「は……、デキ、婚?」 「そう! びっくりやろ。昨日から帰ってきてんのよ。後で顔見に行っといで」 今度こそ取り繕う余裕もない様子で、真琴さんの血の気が下がるのを見た。「いや、いい。どうせ二月に会うし」「そんなん式の日なんてそれほど喋られへんやん?」「今日は、夕方の新幹線には乗らなあかんし、ええって」 辛うじて、口許だけは笑って断る言葉を探していた。 ぎゅっと膝の上で握られるその手に、誰にも気づかれないように重ねると、すぐに手のひらを上向けて握り返してくる。 「ええっ? あんたらそんなすぐ帰んの?」「あーっ、すんません! 俺の方に予定があって!」 俺がそう言うと、真琴さんが顔を上げてこちらに視線を向けるのが目の端に見えた。 「そうなん? てっきり泊まっていくもんやと思って真琴の部屋掃除しといたのに」「すんません、真琴さんも一緒に約束してたもんで。今度はもっと、ゆっくり時間作ります」「急やったもんなあ、仕方ないけど」「あ、でも! 真琴さんの部屋は見てから帰りたいっす!」 ぎゅうっといつにない強
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-13
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