彼は初芽の腰に手を添えながら言った。「もういいだろ。あいつに構ってる時間が無駄だ。早く片付けよう。このあと海外に行く準備もしなきゃいけないんだし、ああいう道化は警察にでもくれてやればいいよ」初芽は小さく頷き、否定も肯定もしない表情を浮かべた。正直、伊吹の言うことには全面的に同意だった。この社員は、これまで使い勝手が良かったとはいえ、所詮は雇われにすぎない。人間、一生同じ職場に留まるわけでもないし、いつかは離れていく。そのくらいの道理は、初芽もよくわかっていた。だからこそ、最初から「失わないこと」を期待したこともない。きちんと終わればそれで十分――彼女はそういう人間だ。「警察を呼んで。もう話す価値もないわ」初芽の言葉を受けて、伊吹はすぐに顔なじみの警官へ連絡を入れた。これ以上時間を取られるのは無駄だ。石橋のような取るに足らない人間に、労力を割く理由などどこにもない。石橋はまだ逃げ道を探していたが、見ていられなくなった社員たちがすでに彼の口をテープで塞いでいた。ついでに容赦なく蹴りも入れる。「ほんと鬱陶しいわ。何を偉そうに理屈こねてんだか」「だよな、完全にクズじゃん!」一人が蹴れば、次の一人も蹴る。そんな光景を見ても、初芽は何も言わなかった。心の中では分かっている。彼らは正義感というより、今後の「管理者の椅子」に目を向けているだけ。初芽が海外へ行けば、この国内スタジオは空になる。けれど固定の顧客もいるし、運営さえうまくやれば十分に価値はある。上を目指す気持ち自体は嫌いではない。欲しいものがあるなら、正攻法で取りに来ればいい。陰湿な手を使わずに。たとえ卑怯なやり方で手に入れたとしても、生涯誰にもバレずに隠し通せる保証なんてあるわけがない。そんなことを思いながら、初芽はふっと笑った。やがて警察が到着し、状況を簡潔に説明すると、そのまま石橋は連行された。罪状は「つきまとい行為・ハラスメント」。さらに初芽は業界内にも彼の名を回した。これで彼を採用するスタジオは一つもなくなる。経験があろうがなかろうが、一度こういう問題を起こした時点で記録は消えない。その瞬間、石橋のキャリアは自分の軽率さで完全に終わった。その後、初芽は石橋に次ぐ能力を持ち
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