辰琉は頭を垂れ、まるで悪いことをして叱られている子どものようだった。孝寛の背筋も、いつものようにしゃんと伸びることはなく、ずっと曲がったまま。その間、彼の胸中では、自分の顔を地面に押しつけられ、踏みにじられているような屈辱が渦巻いていた。こんなに時間が経っているのに、この女はまだ考えを決められないのか。その思いが積もるたび、孝寛の背中はさらに重く沈み、今度こそ二度と真っ直ぐには戻らない気がした。理由は分からない。ただ、胸の奥で確信に近い予感があった。隣の名津美も、歯を食いしばって堪えていた。彼女は決して、手に入れた栄華を手放したくはない。ようやく掴んだ安穏な生活を、いまさら昔の苦しい日々に戻せるわけがない。緒莉は、母親の意図を確かめるようにその横顔を見た。彼女には分かっていた。母の目的が最初から「辰琉」ただ一人だったことを。だが美月は何も言わず、黙って目の前で背を丸める二人を見つめていた。そして次に、まるで心ここにあらずのような辰琉を一瞥し、深くため息をつく。「もういいわ。そんなことしなくても。立ちなさい」美月の言葉に、二人は恐る恐る背を伸ばした。互いに顔を見合わせるが、彼女の真意は分からない。緒莉の胸中には、ある予感がよぎったが、それを確信することもできず、母の心を軽々しく推し量ることもできなかった。長年そばにいて分かっている。母は誰かに支配されるのを嫌い、自分のペースを乱されることを何よりも嫌う人だ。孝寛は逡巡ののち、おそるおそる口を開く。「それで......二川会長は......」「あなたたちを、そして安東グループを見逃してあげてもいいと言ってるの」その一言に、孝寛の顔がぱっと明るくなる。それはつまり、助かるという意味ではないのか。「ということは......今回は、これで水に流してくださるという......?」恐る恐るそう尋ねる声。その表情には媚びるような笑みが浮かんでいた。無理もない。今この局面は、安東家にとってまさに生死を分ける一線だった。もし美月が許してくれさえすれば、安東は再び立て直せる。彼はもうすぐにでも新しい取引先を探すと誓おうとした、その時。美月の冷たい鼻息が空気を裂いた。「水に流す?ずいぶん都合のいい話
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