Semua Bab クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Bab 371 - Bab 380

410 Bab

第371話

「わかってます。私のことで会社に迷惑をかけました。でもこの件は、私一人の責任じゃありません。辰琉に一点の落ち度もないと断言できますか?」紗雪は理をもって反論した。全ての責任を一方的に自分に押し付けようとする美月のやり方がどうしても納得できなかった。そんなのは、あまりにも不公平すぎる。それに、彼女は本当に会社のためにたくさんのことをしてきたのだから。紗雪の言葉は鋭い刃のように、美月の胸を突き刺した。彼女はすぐさま立ち上がり、怒りに顔を歪めながら紗雪を叱責した。「彼はあんたの義兄なのよ!失礼な呼び方はやめなさい!」「私が今まで教えてきた礼儀や道徳は!?」紗雪は奥歯を噛みしめ、真正面から美月に反論した。「義兄?私とは一ミリも関係ないじゃない!」「別荘であの人の本性を見抜いたはずでしょ?なのに、まだ辰琉の落ち度を認めようとしないの?」紗雪は顔を背けて言った。「そんな男、クズ以外の何物でもない。そんな人を義兄なんて絶対に認めないから!」「バンッ!」と音を立てて美月が机を叩き、同時に立ち上がった。「紗雪、あんた、母親に反旗を翻すつもり!?」「私は間違ってない!」紗雪も声を荒げた。「会社の重要プロジェクト二つ、全部私が取ってきた。今は株価に影響が出てるけど、それだって全部私のせいじゃない。なんで私が謝らなきゃいけないの!?」美月は胸を押さえ、震える手で紗雪を指さした。「この親不孝者......!自分が何言ってるかわかってるの!?」「もちろんわかってる。ていうか、母さんも全部わかってるでしょ?ずっと知らないフリしてるだけのくせに!」紗雪がそう言い終えると、美月の胸を押さえる姿に少し不安がよぎった。彼女は慌てて駆け寄り、美月を支えようとした。しかし、美月は彼女の手を振り払った。「そんなに反抗心があるなら、私の体のことなんて気にしなくていいわ!」「どうせあんた、私のことなんて何とも思ってないんでしょ?」そう吐き捨てると、美月は紗雪を押しのけ、そのままオフィスを出て行こうとした。背を向けて去っていくその姿に、紗雪はふと立ち止まる。もしかして、自分が間違ってた?自分が大事にしてきたことって、そんなに意味のないことだった?でも......これは、自分が手に入れて当然のものだ
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第372話

紗雪はうなずいた。「さっき胸が苦しいって言ってたから、特別に薬を買ってきたの。早く飲ませてあげて」「はい」秘書がその場を離れようとしたとき、紗雪が声をかけた。「私が買ったってことは言わないで、飲まない可能性があるから」秘書は少し不思議に思ったが、言われた通りにすることにした。この二人って、母娘なんだよね?ただの薬を渡すのに、なんでこんなにまわりくどいことをするんだろう?普通、母娘だったらもっと堂々としていいんじゃないの?そう思いつつも、最終的には指示通りに従うことにした。きっと、そういう母娘の距離感なんだろう。彼にはよく分からないけど、まあ尊重するしかない。自分はただのサラリーマンだし、そこまで深入りする必要もない。それに、大事なのは雇い主、つまり会長の体調をしっかり管理することだ。厳密に言えば、彼の直属の上司は会長一人だけだ。そう考えると、彼の中でさらに気持ちが固まった。とにかく会長の健康を守ること。それ以外のことは、関わらない。秘書が部屋に入ると、ちょうど美月が胸を押さえて大きく息をしているところだった。唇も顔色も真っ青だ。誰が見ても、明らかに容態がよくないのは一目瞭然だった。秘書は思わず声をあげた。「会長、大丈夫ですか!?なんでこんな状態に?」外にいた紗雪はその声を聞いて、胸が「ドキッ」と鳴った。どう反応すべきか分からず、思わず足が動いた。彼女はオフィスの方に二歩ほど近づいた。しかし次の瞬間、紗雪は立ち止まった。頭の中に、さっき美月が言った言葉がよみがえる。きっと今、一番会いたくない相手は自分だ。そう思って、紗雪は目を伏せた。少なくとも、その程度の自覚はある。無理に入ってまた怒らせるよりも、外で様子を見ていた方がいい。紗雪は唇をきゅっと引き結び、身体全体が張り詰めたように固くなっていた。その様子は、通りすがりの人にもはっきりと分かるほどだった。誰かが声をかけた。「大丈夫ですか、二川さん?なんだか様子がおかしいですよ」紗雪は首を振った。「私は大丈夫だから。自分の持ち場に戻って」社員は無表情のまま、会長室に目をやった。扉は固く閉じられている。また母娘で言い合いでもしたのだろうか?紗雪は周囲の社員たち
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第373話

美月は最初、病院に行くのを嫌がっていた。手を振って断ろうとしたその瞬間、目の前が真っ暗になり、そのまま意識を失った。体が完全に力を失い、椅子にもたれかかるように崩れ落ち、唇はわずかに開いたままだった。この光景を見た秘書は、心底驚いて叫び声を上げた。「会長!どうしたんですか!」「しっかりしてください、会長!」彼は慌てて駆け寄り、美月の容態を確認した。しかし確認してみると、美月はまったく意識がなかった。まるで命の気配すら失われたかのようだった。秘書は紗雪がまだドアの外に立っていると思い、とっさに外に向かって叫んだ。「誰か!会長!早く来てください、会長が倒れました!」だが、いくら待っても外から何の反応も聞こえてこなかった。秘書はその時、何かがおかしいと感じた。あれほど大声で呼んだのに、もし紗雪がそこにいたなら、すぐに駆けつけてくるはずだ。彼は美月を椅子にしっかりと寝かせ、すぐさま他の幹部たちに電話をかけた。幹部たちが駆けつけて美月の様子を見たとき、誰もが驚きを隠せなかった。「どういうことだ?」「元気だったはずだろ。なぜ急に倒れた」一部の人間は秘書を責め始めた。普段どうやって会長の世話をしていたのかと。秘書は悔しかったが、実際のところ自分にも詳しいことは分からなかった。ただ、この場面で彼は頭を切り替えた。「もうやめましょう。今は会長を病院に運ぶのが先決です」秘書はよく分かっていた。会長の病状が外部に漏れれば、二川グループの株価に大きな影響が出る。美月の身に何かあれば、誰もが恐れている事態が起こるかもしれない。その一言で場が静まり返り、誰もが秘書の言葉に頷いた。結局のところ、会長に何かあれば、会社にも甚大な損害が出る。株価や市場にまで影響が及ぶことは想像に難くない。彼らにとって「儲けが減る」「利益が下がる」ということは命に関わるほどの問題だ。そう考えると、やはり今は迷っている場合ではない。すぐに病院に運ぶのが最優先だった。なにしろこれは、今後の利益にも直結する問題なのだから。会社の未来の発展と方向性は、優れたリーダーなしには成り立たない。会社の利益を守るためには、リーダーが倒れるわけにはいかなかった。だからこそ、二川グループは美月の病状を
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第374話

幹部たちから改めて何か言われるまでもなく、秘書は自ら繰り返し保証した。「必ず会長のお世話をしっかりいたします」その言葉を聞いて、ようやく皆は安心して病院を後にした。廊下に秘書ひとりだけが残ったとき、彼の頭の中には再び不安な思考が渦巻き始めた。紗雪はいったいどうしたのだろうか。美月会長が入院しているのに、どうしていまだに姿を見せないのか。もしかして、まだこのことを知らないのか?秘書は深く息を吸い込んだ。だが、すぐにその考えが現実的ではないことに気づいた。病院に来る前、あのフロアの社員たちは皆、会長の件を知っていた。それに幹部たちも揃って駆けつけた。そんな中で、会長だけが知らないというのはあり得ない。自分の思い過ごしに違いない。そう思い直して、秘書はもう考えるのをやめた。今の自分の最優先は、会長の看病だ。余計なことに気を取られている場合ではない。そうして彼は、全神経を会長の世話に注ぎ始めた。一方その頃。緒莉は、美月が倒れたと聞いて、すぐに驚きの声を上げた。「お母さんは大丈夫なの!?」二川グループの幹部のひとりが急いで答えた。「ご安心ください、お嬢様。美月会長は現在病院におられまして、秘書が付き添っておりますので、心配いりません」そう言われても、緒莉はどうしても不安が拭えなかった。彼女はすぐに病院の住所を幹部に聞き、病院へと向かった。どうであれ、美月に対しては多少なりとも情がある。彼女がなぜ倒れたのか、それを直接聞きたかった。それに、病院まで駆けつければ、母親を思う娘としての誠意も示せる。案の定、緒莉が病室に入ると、そこには秘書だけがいた。他の人間は誰ひとり見当たらない。彼女は思わず声をかけた。「ここには、あなただけ?」その言葉に、秘書は一瞬ドキリとし、すぐに立ち上がって答えた。「はい、お嬢様。ここには私しか......」「紗雪は?来ていないの?」緒莉は本気で不思議に思っていた。母親が会社で倒れたというのに、紗雪が見舞いにも来ないなんて、普通に考えておかしい。紗雪は普段から会社のことには敏感なはずだし、何より美月は彼女の母親でもある。それなのに、なぜ来ない?しかも、倒れた場所は会社の中だというのに。秘書は困ったように首
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第375話

しかし、緒莉が知らないところで、紗雪は実際、この一連の出来事について本当に何も知らなかった。会社を出たとき、彼女はもう目的を見失っていた。なにしろ美月にあんなことを言われたのだ。もしそのまま会社に居続けたら、図々しすぎると思われるだろう。さすがにそれ以上、会社に留まる気にはなれなかった。そうは言っても、ネット上の騒動もまだ収拾がついていなかった。言い換えれば、美月の態度も無理はない。紗雪はすでに頭では理解していたが、それでもあの時、美月と激しく言い争ったことには変わりない。彼女は会社を出た後も、どうやってその件について切り出せばいいのか分からなかった。紗雪はため息をついた。胸の奥にずっと不安が渦巻いていて、何か嫌なことが起きる前兆のような気がしてならなかった。彼女はスマホを確認したが、相変わらず何の連絡もない。会社を出てからあれだけ時間が経ったのに、美月は本当に一言もメッセージを送ってこなかった。心のどこかで、母が何か一言でも送ってきてくれたら......と期待していたのに。「戻ってこい」と言われて、会社に復帰できるかもしれないと。だってこの間、彼女なりに会社のために頑張っていた。功績がないわけじゃない。でも。空っぽの受信箱を見つめながら、紗雪はやっぱりがっかりしていた。自分の母に、過剰な期待をしすぎていたのだろうか。唇をギュッと引き結び、スマホをしまい込む。言葉もなく、ぽつりと歩く姿はどこか哀れだった。目的もなく街をさまよっていると、突然、加津也が初芽を連れて車で彼女のそばを通り過ぎた。オープンカーを運転し、サングラスをかけた加津也は、髪をオールバックに整えて、額をすっきりと見せていた。しばらく見ないうちに、まるで勢いづいたような様子だ。それが、紗雪が彼を見たときに最初に抱いた印象だった。一方、紗雪の姿を見た加津也は、まるで面白がっているかのように皮肉めいた口調で言った。「おやおや、これは誰かと思えば......うちの有名な二川家の次女様じゃないか?」「どうしたんだよ、こんなに落ちぶれた格好で。ひとりで川沿いなんか歩いちゃってさ?」紗雪は冷たく笑って、そんな得意気な彼の様子に、もう何も言う気になれなかった。やっぱり、優しくするとつけ上がるのか。
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第376話

彼女はこんなところに長くいたくなかった。脳みそが足りない二人と一緒にいると、紗雪は感染しそうで怖かった。こんな連中と一言でも多く話すのは、時間の無駄だとしか思えない。このままだと、自分のIQまで下がりそうだった。紗雪が立ち去った後、加津也と初芽は顔を見合わせた。加津也はそのまま車を出そうとしたが、初芽がそっと彼のハンドルを握る手に触れた。初芽は低く静かに言った。「加津也、見た?あの女、あれだけ時間が経ったのに、まだあんなに威張ってるのよ」「最初に加津也と付き合ってた時も、きっとお金目当てだったのよ。今の加津也がこんなにボロボロなのって、全部あの女のせいじゃない」最初は何とも思っていなかった加津也だったが、初芽の言葉を聞いた瞬間、ここ最近の記憶が一気に蘇ってきた。「......確かに」自宅に監禁されていた日々、さらには刑務所に入っていた時のこと。加津也は一瞬たりとも忘れたことはなかった。今、紗雪があんなに落ちぶれている姿を見て、これは一気にたたみかけるべきタイミングだと思った。「加津也、私ね、別に悪者になりたいわけじゃないの。ただ、あなたのことが心配なだけ」「こんなに時間が経ってるのに、あの女はあなたに一切の罪悪感もないのよ?そんな女のことを、あなたがまだ気にしてるなんて、信じられないわ」初芽は悔しそうに続けた。「あんな恩知らずな女のこと、気にする必要ある?」初芽の言葉を聞いて、加津也の心は大きく揺れた。確かに、紗雪と付き合っていた時も、どこかで初芽のことを考えていた。そして今、初芽と一緒にいるというのに、紗雪が二川家の次女になったからといって、自分がそれで心揺れるなんて。こんなことで初芽を手放すなんて、自分はクズだ。どうしてこんな酷いことができるのか。加津也は隣に座る初芽を見つめ、申し訳なさそうな目で、喉を詰まらせながら言った。「......ごめん、初芽。俺、ずっとバカだった。君の優しさをちゃんと見てなかった」初芽は首を振り、感動したような顔で言った。「いいの。加津也が元気でいてくれるなら、それでいいの。私は、加津也のそばにいてくれれば、他に何もいらないから」その言葉を聞いて、加津也はますます罪悪感に襲われた。初芽がずっと自分にしてくれていたことを無視して
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第377話

男の低い声が沈んだ調子で囁いた。「初芽は本当に優しい。安心して。俺がちゃんと君を大事にするから......」その言葉が落ちると同時に、男の柔らかな唇が重なってきた。最初のうちは初芽も戸惑って、表情がどこかぎこちなかった。けれど、加津也があまりにも「誠実」そうな顔をしているのを見て、それ以上文句も言えなくなった。まあいいか。何にせよ、自分で選んだことなのだから。それに、加津也はもともと顔が悪いわけじゃない。外見の補正もあるし、まったく受け入れられないというわけでもない。そう思うと、初芽の中で何かが少し和らいだ。彼女も加津也に応えるように情熱的に唇を重ね返す。加津也は当初、軽く触れるだけのつもりだった。初芽の気持ちに応え、彼女に誠意と愛を示す程度に済ませるつもりだったのだ。だが、初芽の熱意に触れた瞬間、彼はもう自制が効かなくなった。二人は車内で熱く唇を重ね続ける。しかし。加津也がそんな情熱に飲まれる一方で、初芽の心の奥ではすでにうんざりしていた。思わず心の中で白目を剥きそうになる。もしお金がなければ、こんな男と今まで一緒にいられたはずがない。これほどの時間が経ったというのに、付き添ってきたのはいつだって自分だった。それなのに、あの男は今になってもまだ紗雪のことを思っている。怒らずにいられない。とはいえ、いま最も大事なのは、加津也と決裂しないことだ。今ここでこじれてしまえば、何ひとつ得られない。初芽は大きく深呼吸した。キスが終わると、彼女は色気のある視線を向けながら、指先で加津也の胸元にくるくると円を描いた。「加津也は......いつも私に優しくしてくれる......」加津也は初芽の手をぱしっと握りしめ、その瞳には明らかな欲望が宿っていた。「君は俺の女だ。大事にするって決まってるだろ」初芽はふっと微笑んで、柔らかく答える。「そう言ってくれるの、嬉しい......」「でもね、紗雪のことだけは、やっぱりどうしても許せない。あんなにひどいことをされたのに......」その言葉に、加津也の表情が少し曇った。父親にも以前釘を刺されたばかりだ。「お前は外で、関わっちゃいけない人間にちょっかいを出した。だから会社がこうなったんだ」と。けれど、加
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第378話

「こんにちは。ここは駐車禁止の場所です。かなり長時間停めていたので、これは違反切符です」加津也は少しバツの悪い顔をしたが、仕方なく手を伸ばして違反切符を受け取った。警官は初芽の赤く腫れた唇を一瞥すると、つい口を挟んできた。「次からは、こういうことは家でやってください。外だと見た目が良くありませんよ」そう言い残して、そのまま立ち去っていった。車内には、取り残された加津也と初芽の気まずい沈黙が漂った。加津也は初芽の赤く腫れた唇と目が合い、途端に気まずそうな表情を浮かべた。警官に指摘されるまで、そんなことに全然気づいていなかったのだ。初芽の顔はさらに真っ赤になった。「もう、早く帰りましょう......」こんな恥ずかしい状況、もうこれ以上いたくなかった。これ以上ここにいれば、羞恥で死にそうだ。今の初芽の頭の中は「地面に穴があったら今すぐ入りたい」その一心だった。加津也は初芽の恥ずかしそうな顔を見て、目元に笑みを浮かべた。「ああ、帰ろう」初芽は「うん」と小さく返事をし、大人しく座り直した。加津也の口元の笑みはそのままだった。確かに初芽の容姿は紗雪には及ばないかもしれない。だが、彼女は本当に素直で従順だった。それだけで、彼は十分に満足していた。二人は家に戻ると、車の中で未完だった行為の続きを再開した。すべてが、まるで水が流れるように自然に進んでいった。一方その頃、紗雪は海辺のベンチに座っていた。傍らには一本のビール缶が置かれ、彼女の手にはもう一本。そのまま口元に運び、ごくりと喉へ流し込んだ。紗雪は今、ひとつのことを考えていた。この会社、自分は本当に帰るべきなんだろうか?あるいは、どんな立場で行けばいいんだろう?美月にはあんなことまで言われたのだ。もう、会社に顔を出す自信がない。なにより、美月や会社の上層部にどう顔を合わせればいいのかもわからない。紗雪は大きく息を吐き、再びビールを口に運んだ。喉を刺激するアルコールの辛さが、ようやく「自分はまだ生きているんだ」と感じさせてくれる。しかし、どれだけ時間が経っても、スマホはまったく鳴らなかった。傷つかないわけがない。彼女は、美月から何かしらの連絡があると信じていた。ただの冗談だと、きっと戻って
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第379話

「でも、聞いた話だと......美月会長が何かあったって......」日向は探るように訊ねた。「それで、電話してみたんだ。急にどうしたのかと思って。美月会長がどうして病院に行ったのか気になって......」紗雪は一瞬で我に返り、声を一気に強めた。「何言ってるの?」「どこの会長が入院したって?」まさか、そんなはずはないと思いながらも、紗雪の心には不安が広がっていた。「二川グループの会長......つまり君のお母さんだよ......」日向の声は最後には小さくなっていった。紗雪の反応を聞いて、日向はようやく確信した。彼女は母親が入院したことをまったく知らないのだ、と。どういうことだ?世間の噂では、彼女たち親子はとても仲が良いって話じゃなかったか?それなのに今、この母娘は、母親が入院しても娘が知らないなんて。日向は仕方なく言い方を変えた。「いや、僕も人から聞いただけだから、本当かどうかはわからないんだけどね......」「きっとデマだよ。君が知らないなら、信じなくていいから」だが紗雪の胸の内は穏やかではなかった。すぐに思い出したのは、会社で母親に向かって自分が吐いた言葉。あの時、彼女は胸を押さえていた。あれは明らかに持病の症状だった。薬は買ったのに、どうして入院なんて......疑念と後悔が交錯し、紗雪の心をずたずたに引き裂いていった。「さっき言った話、本当かもしれない......」紗雪の声は震え、かすかに嗚咽を含んでいた。「後でまた電話する。ちゃんと確かめてみるから」「わかった。じゃあまた」そう言って、日向はすぐに電話を切った。紗雪の思考を妨げまいとする気遣いだった。彼は鈍感ではなかった。紗雪のわずかな言葉から、だいたいの事情を察することができた。どうやら、ただごとではなさそうだ。日向は考えれば考えるほど、何かがおかしいと感じた。こんな状況で、じっとしていられるわけがない。彼は無意識に千桜を連れて出かけようとした。妹を理由に紗雪に会いに行こうと考えていたのだ。だが、突然神垣母の声が響いた。「日向、どこへ行くの?」「え?出かけるつもりだけど......」妹を抱えながら、当然のように言う日向。これがそんなに不思議なこと
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第380話

日向は自信満々に軽くうなずいた。出かける際、日向は妹への声かけも忘れなかった。彼は手を伸ばして妹の頭を撫で、真面目な表情で言った。「じゃあな、千桜。お兄ちゃんのこと、あんまり恋しがるなよ」しかし千桜は自分の世界に没頭したまま、手の中のおもちゃで遊びながら、何も言わなかった。その様子を見て、日向の瞳の光が一瞬陰りを見せたが、すぐにまた明るさを取り戻した。「よし、母さん、じゃあ行ってくるよ。千桜のこと、よろしく頼むな」「このバカ、何言ってんの。千桜は私の娘でしょ?当り前よ」神垣母は日向のふざけた様子に、思わず笑いがこぼれた。だがその笑顔の奥には、どこか深い陰りがあった。さっき日向が一瞬見せた気の抜けたような表情。それを彼女は見逃していなかったのだ。それゆえに、彼女はますますこの息子を愛おしく思った。千桜のあの出来事以来、日向は一体どれほどの間、心から笑えていなかったのだろう?日向が出かけてから、かなりの時間が経って、ようやく千桜は顔を上げた。その目は焦点の定まらないまま、どこか遠くをじっと見つめていた。その姿を見て、神垣母は胸が締めつけられる思いだった。反応は遅くても、それ以上に彼女は安堵していた。「千桜、もしかしてお兄ちゃんと一緒に行きたかった?」神垣母は微笑みながら言った。「日向お兄ちゃんはね、綺麗なお姉さんをアプローチしに行ったんだよ。でも大丈夫。彼は千桜のことを忘れたりはしないよ」その後、神垣母が何を言おうと、千桜はもう一切反応を返さなかった。だが神垣母は落胆しなかった。彼女は信じていた。いつか必ず、千桜はきっと良くなる。そしてその日が来たら、千桜を世界中に連れて行って、様々な景色を見せてやるのだと。神垣母は心の中で、静かにそう誓った。......椎名グループ「社長、二川会長が入院されたそうです。私たちもお見舞いに行かれますか?」「入院?」京弥は手元の書類を置き、眉をひそめた。「いつのことだ?」「今日の午前中のことです」匠が恭しく返答した。京弥は深く息を吸い、スマホに目をやったが、そこには何の通知もなかった。つまり、紗雪はこのことを彼に一言も知らせていないということだ。彼女は今、一人でこの事態に向き合っているのだろう
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