理恵は呆然と尋ねた。「透子は?」病室はもぬけの殻だった。一瞬、透子が悪党に連れ去られたのではないかと心臓が跳ね上がったが、すぐに冷静さを取り戻した。昨日、蓮司が大勢のボディーガードを配置していたのだ。こんな状況で不測の事態が起きるはずがない。もし起きたなら、あの男は本当にただの役立たずだ。今はボディーガードもいない。理恵はスマホを取り出し、大輔に直接電話をかけた。繋がるなり、彼女は焦って問い詰めた。返ってきた答えはこうだった。「申し訳ありません、柚木様。まだご連絡できていなかったのですが、二十分ほど前に、社長が如月さんをプライベートホスピタルへ転院させました。こちらで警察の追跡調査に対応しておりまして、ご報告が遅れてしまいました」理恵は拳を握りしめて深呼吸したが、やはり怒りを抑えきれずに怒鳴った。「あの新井め、何様のつもりよ!誰が透子を転院させていいなんて言ったの?あいつにそんな資格あるわけないでしょ?ただのクソ元夫のくせに!」大輔は、自分の上司が罵倒されるのを聞きながら、そっとスマホを耳から遠ざけた。スマホから再び理恵の声が聞こえた。「どこの病院?私が透子を別のところに移すから」大輔は恐縮しながら言った。「それは、少々難しいかと思います。転院は、お爺様のご意向でもありますので」理恵はそれを聞き、二秒ほど黙り込んでから、諦めるしかなかった。大輔が場所を送ってくると、彼女は車を走らせた。十数分後。特別病棟のフロアに着くと、エレベーターホールと病室の前には、案の定ボディーガードが立っていた。理恵が透子の様子を見に行こうとした、その時。背後から不機嫌そうな声が響いた。「柚木理恵?どうやってここが分かった?」理恵は振り返り、腕を組んで高慢ちきな態度で彼を睨みつけた。すると、そのクソ男、新井蓮司がまた言った。「ハエみたいに、しつこく追いかけてくるな」理恵は怒りのあまり、不気味な笑みを浮かべて言い返した。「それはあなたがクソの塊だからでしょ?臭すぎて、場所を知りたくなくても分かっちゃうのよ」蓮司は絶句した。彼が顔を黒くして彼女を追い出そうとした、まさにその時、ある病室のドアが開き、執事の姿が現れた。執事はにこやかに、そして丁寧に挨拶した。「柚木様、ようこそお越しくださいました。お出迎
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