その後の道中、柚木の母は一言も発さず、この日のとんでもない「衝撃」を消化しようとしているようだった。聡はスマホを取り出し、妹に美月のことをメッセージで伝えたが、返信はなかった。横目でちらりと見ると、柚木の母はまだ呆然としており、我に返っていない。受けた衝撃は相当なものらしかった。美月は蓮司の不倫相手だ。気まずさからか、あるいは新井家への体面からか、母がこれ以上、無理にお見合いをセッティングするようなことはもうないだろう。車はすぐにレストランに着いた。その頃、別の道路では。理恵はフェラーリを飛ばしながら、アクセルを踏み込み、不満げに独り言を言っていた。「お母さんったら、お見合いなら前もって言ってくれればいいのに。いきなり無理やり行かせようとするんだから」しかも態度は断固としており、行かなければならず、三十分以内に着くようにと時間制限まで設けられていた。「ふん、よっぽど総理大臣でも来るのかしら。どれだけ偉い人なのか、見てやろうじゃないの」理恵は虚ろな目でナビの目的地に到着し、駐車場に車を停めた。母からはすでに階と個室の番号を聞いていたので、理恵はそのまま上へ向かった。ウェイターに案内され、金ピカの透かし彫りが施された廊下を歩いていると、化粧室の前で足を止め、先に手を洗っていくことにした。手を洗い終えて出てくると、ちょうど向かいの男性用化粧室から出てきた一人の男と鉢合わせた。相手はカジュアルな服装で、すらりとした長身、広い肩幅に長い脚。髪型は今時のアイドルみたいなマッシュヘアではなく、シャープなショートスパイクだ。もし平凡な容姿なら理恵が二度見することもなかっただろうが、よりにもよって、この髪型が似合ってしまうのだ。この人、本物のイケメンだわ!しかし、理恵お嬢様は淑女としての品格と教養を心得ている。せいぜい二度見ただけで、すぐに踵を返した。相手をじっと見つめるなんて、あまりに品がない。だが、脳裏には相手の顔が焼き付いていた。切れ長の目鼻立ち、精悍な眉。その雰囲気とオーラは、底知れない神秘に満ちている。この人、誰?どうして今まで京田市のパーティーやレセプションで見かけたことがないんだろう?もし参加していたなら、多少なりとも気づいたはずだ。何しろ、そこらの油で髪を固めたような、軟弱な御曹司たちとは
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