All Chapters of 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた: Chapter 1121 - Chapter 1122

1122 Chapters

第1121話

スティーブは彼女を見て、改めて言った。「理恵様がその気になられましたら、このポストは、いつでも理恵様のために空けておきますので」理恵は視線を逸らし、さして気にも留めないといった風情で、そっけなく言った。「さあ、どうかしらね。透子に会いたくなったら、連絡するわ」スティーブは頷いた。理恵がこちら側に来るのは、もはや時間の問題だろう。透子を柚木グループに引き抜かれるくらいなら、いっそ理恵をこちらに取り込んでしまえばいい。そうすれば、未来の社長夫人というのも、あながち夢物語ではないかもしれない。スティーブが辞去しようと、踵を返したその時。一歩も踏み出さないうちに、理恵に呼び止められた。スティーブは振り返り、その口元に笑みを浮かべた。「理恵様、もうお考えが変わりましたか?」早いな。やはり、自分の読み通り……理恵は立ち上がって言った。「ううん、違うわ。あなたに、橘さんへこれを渡してもらいたいの」彼女は持参した二つの紙袋のうち、片方をスティーブに差し出して言った。「透子に持ってきたんだけど、ついでだから、あの人にも一つあげるわ。迷惑じゃなきゃいいけど」スティーブはうやうやしく受け取ると、慌てて否定した。「社長が迷惑がるはずがございません。きっと、感激なさいますよ」理恵は、それが単なる社交辞令だと分かっていたが、何も言わなかった。スティーブが去り、オフィスのドアが閉ざされた。透子と理恵は並んで座り、理恵が手元のもう一つの袋を開封した。理恵は言った。「食べてみて。うちの家政婦さんが焼いたんだけど、結構いけるのよ」透子はクッキーを一枚つまんで口に運んだ。確かに美味だ。理恵は、さらに言った。「二皿分焼かせたの。もう一皿は、橘さんに」透子は尋ねた。「諦めるんじゃなかったの?」理恵はふんと鼻を鳴らして言った。「だから、焦げた方をくれてやったのよ」「わざと家政婦さんに、二皿目は焼き時間を長くして、温度も上げさせたんだから」透子は言葉を失った……それは、一体どういう理屈なのだろう?プレゼントはするけれど、あえて焦げた失敗作を贈るなんて……透子も彼女の真意が測りかね、先日の件について尋ねてみた。理恵はまだ、親友に対し、彼女の兄から正式に、しかも適当な理由をつけて断られたことを打ち明ける心の準備ができてい
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第1122話

スティーブが去った後、オフィスの中では。雅人は、理恵が来たことを知っていたが、わざわざ隣へ挨拶には行かなかった。仕事を続けながら、彼はクッキーを一枚、取り出した。一口かじると、色の濃い部分は、確かに焦げていた。食感は少し苦いが、食べられないほどではない。理恵のようなお嬢様が、自らキッチンに立つなど、百年に一度あるかないかの珍事だろう。それで、初めてでこの出来栄えなら、彼女もなかなかの才能があると言える。隣のオフィスでは。理恵は、すでに三十分ほど長居していた。二人はよもやま話に花を咲かせたが、当然、蓮司の話題も避けられなかった。もちろん、数日前のような、蓮司がまだネットで派手に暴れ回っていた時なら、彼女もその話はしなかっただろう。彼のために、良いことなど言うはずがないからだ。だが、今、彼が鳴りを潜めているからこそ、理恵はとどめを刺しに来たのだ。理恵は、冷ややかに言った。「ふん、新井も所詮はその程度の男ね。あなたのためにもっと死に物狂いでやるかと思ってたのに。お爺様に脅されたら、もう借りてきた猫みたいにおとなしくなっちゃうなんて。あなたと結婚した時もそうだったけど、結局、見かけ倒しの腰抜けなのよ。あんな男、責任感のかけらもないわ。透子、あなたが泥沼から抜け出せて、本当によかった。でなければ、一生苦しむことになってたもの」理恵は内情を知っていた。大輔に探りを入れて、蓮司のカードがすべて凍結されていることを知っていたからだ。要するに、もう「騒ぎ」を起こす資金がないのだ。だが、それをバカ正直に言うわけにはいかない。だから、彼女は巧みに「脅し」という言葉に置き換えたのだ。とにかく、この人生で、蓮司が自分の親友のそばに近づくことなど、絶対に許さない。透子は、その言葉を聞きながら、何も言わなかった。新井のお爺さんが蓮司の幼稚な行動を止めたのは、もちろん、ビジネス上の判断からだろう。一族の後継者であり、グループの現CEOが、ネットでこれほど大騒ぎするのは、新井グループの名声に傷がつくだけでしかない。蓮司がおとなしくなったのは、いいことだ。これで、もう社員たちの噂話を聞かずに済む。理恵は、そろそろ帰る時間だと腰を上げた。透子は彼女を下まで見送った。彼女が戻ってくると、スティーブが書類を一部、手渡して言った。
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