「あやつが親孝行なのも、新井家を賭けて無茶をしないのも分かっている。以前は強敵がいなかったから、蓮司はやりたい放題で、怖いもの知らずだった。 だが今は違う。あやつに手酷い挫折を味わわせ、自信を打ち砕き、頭を下げることを覚えさせる」 もちろん、一番大事なのは、あやつを透子から完全に引き離すことだ。それこそが、根本的な目的なのだ。 「お前は、あやつに余計なことを言うでないぞ。それから、透子の病室でわしが遺言立てるって言ったのは本気だ。下がれ、準備をさせろ」 新井のお爺さんは、そう念を押した。執事はその言葉を聞いた後で、心の中でため息をついた。ドアまで歩いて行くと、後ろからお爺さんに呼び止められた。 「そうだ、雅人の方から透子に賠償の話をしたいという件も、蓮司には言うな。もし柚木たちが知ったら、口裏を合わせるよう頼んでおけ」 執事は頷いた。新井のお爺さんはドアのあたりを見つめ、無言で考えた。 もし蓮司に、雅人が自ら賠償を申し出たって知られたら、それは橘側と交渉の余地があるということになってしまう。 彼が望むのは、蓮司に、雅人は美月を庇うために、透子を「徹底的に追及する」と信じ込ませることだ。 そうして初めて、蓮司を牽制し、軽率な行動を取らせないようにできるんだ。 その頃、執事はすでに透子のいる病室に着いていた。三人はまだ帰っておらず、足音に気づいて一斉に振り返った。 執事はドアの外で彼らの会話を少し聞いて、ベッドの上の透子に尋ねた。 「透子様、海外へ行かれるのですか?」 透子は頷いた。 執事は言った。「海外もよろしいでしょう。どちらの国へ?旦那様にお伝えすれば、手配してくださいます」透子は礼を言って断った。「いえ、結構です。新井家とはもう、貸し借りはありませんから。海外の件は、自分で申請します」 執事はそれを見て、二秒ほど黙り込んだ。透子が、行き先を教えれば若旦那様に知られて探しに来られると心配しているのだろうと感じた。 海外に行くのなら、旦那様も国内で若旦那様を常に見張るボディーガードを手配する必要ない。出国さえ防げば、二人はこれから、本当に二度と会わない関係になるのだ。彼は本題に入り、午後に雅人のアシスタントから連絡があり、透子に会いたがっていると伝えた。 執事は言った。「先方は本日に
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