All Chapters of 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた: Chapter 741 - Chapter 750

透子は再び言葉を失った。レジの女性店員は笑顔で応対した。「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」結局、聡と駿はそれぞれ食材の入った袋を一つずつ手に持ち、透子の後に続いて団地の入口まで歩いた。来訪者は記帳が義務付けられており、透子が常駐の警備員に声をかけて手続きを済ませると、三人は敷地内へと入っていった。後方では。警備員は、その二人の「見慣れない男性」を一瞥し、トランシーバーに向かって小声で通報した。「隊長、隊長。不審者が如月様に付き添って、ご自宅へ向かいました」その連絡は、当直の警備員全員のイヤホンに届いた。即座に全員が身構え、一気に緊張感が高まった。皆が心の中で思った。手柄を立てて、ボーナスを獲得するチャンスが、ついに訪れた！「容姿は？年齢は？如月さんと一緒に入ったのか？彼女自身が案内したのか？」入口の警備員のイヤホンから、隊長の声が響いた。警備員は即答した。「若い男性が二名です。服装から判断するに、かなりの富裕層のようです。一人はランボルギーニ、もう一人はアウディに乗車していました。如月さんは、ランボルギーニから降車されました」その報告を聞いた隊長は言葉を失った。これが不審者？不審者がこれほど堂々と、正面から姿を現すものだろうか？しかも高級スポーツカーで。その説明に、他の警備員たちも一斉に肩の力が抜けた。彼らが警戒している犯人像は、中年男性で、以前は軽自動車のバンを使用していたはずだ。同僚の一人が、思わずマイク越しに苦言を呈した。「おい、田中！誤報は重大な違反だぞ、こっちは期待して損したじゃないか！」隊長も厳しい口調で言った。「言葉を選べ。『不審者』とは何事だ？もっと適切な表現はないのか」入口で勤務していた田中悠生（たなか はるき）は弁解した。「……違うんですか？若くて裕福で、さらに相当なハンサムですよ。如月さんは、新井社長の奥様ですよね？見知らぬ男性二人が公然と彼女のお宅に上がるなんて、しかも初めてのことです。普段、彼女のお宅に訪問されるのは、あの女性のご友人だけなんですよ」その発言を聞いた警備員一同は、同じ結論に達した。……これは不審者ではない。恋のライバルだ。隊長は冷静に言った。「社長のプライベートに干渉するな。この件は分かった。佐藤さんに報告し

【本当に不思議なのよ、透子。お兄ちゃんが仕事を早く切り上げて、わざわざあなたを迎えに行くなんて。メッセージを送っても返信がないし】【もう三十分も考えているけど、全然理解できない。一つだけ可能性があるとしたら、それはお兄ちゃんが——】透子は立て続けに届いたメッセージを見て、特に最後の一文に、不吉な予感が走った。彼女は慌ててスマホを手に取り、「ストップ」と打とうとしたが、理恵の方が一歩早かった。【お兄ちゃんがまたあなたを困らせたの？今回は何があったの？あなた、退院してまだ数日しか経っていないのに。お兄ちゃんって、一体どれだれ非情な人なの？】透子は戸惑った。ええと……今回は、嫌がらせへの償いというわけではないのだけれど。幸いなことに、理恵の推測は彼女が恐れていたようなものではなかった。透子が状況を説明すると、理恵はさらに混乱した様子だった。いじわるをしたわけでないなら、どうして兄はわざわざ迎えに行ったのだろう？不可解だわ。そういえば、前に翼が言っていた。兄が、蓮司との裁判に関して、透子の権利をより多く確保するために、あえて相談に訪れたと。あの時、自分は軽く触れただけだったのに。具体的な法的手続きなどは、すべて兄が対応してくれたのだ。それに、スマホをプレゼントしたり、透子が意識を回復した日の午後にすぐ病院を訪れたり……理恵は思いを巡らせた。まさか、兄は本当に透子に好意を抱いているの？以前にも冗談めかして言ったことがあったけれど、本人は強く否定していたのに。今となっては……疑わしい点が数え切れない！キッチンでは。透子がインゲン豆を手入れしていると、突然理恵からのメッセージが表示された。【透子、私、お兄ちゃんはあなたに恋心を抱いていると思う】パキッと、澄んだ音を立てて、インゲン豆が真っ二つに折れた。透子は頭の中が真っ白になった。最も恐れていた言葉が、ついに届いてしまった……透子は急いで返信し、誤解を解こうとした。【実は聡さんは、食事を共にするだけなの。先週の土曜日、事故で調理できなかったから、今日お返しをしてほしいと頼まれて】【それに、先輩も一緒にいるの。今、ちょうど料理を作っているところ】メッセージを読んだ理恵は、頭に大きな疑問符が浮かぶのを感じた。つまり、仕事を早々に終わらせて人を迎えに行ったのは、ただ食事にありつくためだけってこ

駿は、感情を抑えた声で言った。「度胸があるなら、聡さんも新井と喧嘩してみればどう？勝敗は見物だ」聡が洗面所から出てくると、駿は入れ替わりに手を洗いに向かった。蓮司に勝てないのは、相手が明らかに鍛錬を積んでいるからであり、自分は全く身体を鍛えていないからだ。透子が、その疑問に答えた。「新井は幼い頃から柔道と散打を習っていたんです。その後は続けていないけれど、基礎がしっかりしているから」駿は「やっぱりな」という表情を浮かべ、その時、聡はわずかに唇を引き締めて言った。「君子は言葉を尽くして暴力を用いず、だ。俺と新井社長は、もっぱら言論での対決が専門でね」駿は皮肉めいた表情を浮かべた。へえ、そうか。聡は透子に興味を示して尋ねた。「かなり詳しいじゃないか。新井が子供の頃から武道を学んでいたことまで知っているとは。新井のお爺さんがお前に話したのか？」彼の知る限りでは、二人の婚姻は形式的なもので愛情はなかったのだから、蓮司が自ら透子に語るはずがない。透子はその時、ご飯を二膳、テーブルに運びながら、聡の質問に単に頷くだけだった。しかし、実際はそうではなかった。蓮司本人が彼女に話していたのだ。高校入学直後の頃、二人は何でも打ち明けられる仲で、蓮司は多くの個人的な事柄を彼女に話していた。だから、彼女はそれを知っていたのだ。ただ、今さらそのような過去を語っても何の意味もない。既に遠い過去のことで、彼女の心には何の感慨も呼び起こさなかった。駿も椅子に腰掛け、透子は彼らの向かいに座った。二人は食卓に並んだ料理を見て、まるで示し合わせたかのようにスマホで写真を撮り、記録に残した。透子は控えめに言った。「普通の家庭料理ですが、お口に合えば幸いです」駿は心から称賛した。「家庭の温かみこそが、人の心を最も癒すものだよ。ましてや、君の腕前は国賓をもてなす料理人に匹敵する」聡は、そのような「気取った」言葉は避け、スペアリブを一本取り分けて口に運ぶと、彼なりの最高の評価を与えた。「俺がこれまで味わった中で、最高の家庭料理だ」透子はわずかに微笑み、三人は夕食を楽しみ始めた。理恵の夜食分は、彼女がすでに別途取り分けておいた。デザートについても同様だった。この食事の席で、男性二人は文字通り全てを平らげる勢いだった。透子は、自分がご飯を二

透子は、まさに幸運の女神に愛された女性だ。児童養護施設出身でありながら、富豪との縁に恵まれ、最初の結婚は蓮司との縁談、そして今また、高い地位にある二人の男性から同時に好意を寄せられている。以前は、もう少し様子を見ようと考えていた。透子が柚木グループへの入社を検討した際に、改めてアプローチすれば十分だろうと。しかし今、一刻の猶予も許されないと感じていた。なぜなら、息子の聡が珍しく早く業務を切り上げ、自ら人を出迎えに行き、さらには食材まで購入して、相手の自宅で食事をしたからだ。一般的な人間関係であれば取り立てて気にすることではないかもしれない。だが、母として、自分が過剰に反応しているわけではないと確信していた。聡が誰かのために前例を破ったことなどあっただろうか。誰かのために、これほど心を砕いた例はあっただろうか？「例外」が現れた瞬間、それは彼が透子に対して並々ならぬ感情を抱いている証拠だった。玄関から足音が聞こえ、聡が帰宅した。柚木の母は彼を見て、穏やかな笑みを浮かべながら尋ねた。「今日は早かったのね。夕食は済ませたの？まだなら、田中さんに何か用意してもらうわ」聡は素っ気なく答えた。「食べてきた。手間をかける必要はない」柚木の母が自然な調子で尋ねる。「会っていたのはビジネスの方？」「いいえ」聡は答え、わずかな間を置いてから続けた。「友人宅で食事をご馳走になった」柚木の母はそれ以上踏み込まず、表情には依然として笑みを湛えていた。友人、か。娘である理恵の友人であるはずなのに、兄である彼がいつの間にか透子と親しい間柄になったというのか。そう思案していると、スマホの着信音が鳴った。娘からの連絡だった。理恵は車内から、疲労感を滲ませながら言った。「もしもし、お母さん？お見合い、終わったわ。今日の人も合わなかった。もう諦めてほしいの。こちらはしっかりと対応したんだからね。わざわざメイクもヘアセットも整えて、もう限界まで努力したんだから」その言葉を聞いて、柚木の母は冷静に応じた。「気に入らなければ仕方ないわ。そもそもこの方は、前に一度あなたに紹介した人なのよ。でも、その時はプロフィールを見ただけで断ったでしょう。ただ、相手のお母さんがあなたをとても気に入って、どうしてもと強く希望されたの。私たちも

理恵がいれば、透子を迎えに行く「合理的な口実」が失われ、食事をご馳走になろうなどと提案することも難しくなる。それに、理恵も一緒に食事をご馳走になると、透子に食事に誘うのは、いささか「唐突」に感じられるようだ。普段は彼女たち二人で過ごすことが多いし、それに土曜の食事が実現しなかったことを「根に持っている」と思われてしまう。……しかし、車内では結局そのような提案をしたし、「執着している」態度を見せたではないか。聡は沈黙した。妹の問いかけに、彼自身も答えを見出せない。最終的に、彼は自分なりに「筋が通っている」と納得できる理由で自身を説得した。こうすることで、今夜の出来事すべてがより自然に、滞りなく進むのだろう、と。しかし、妹への説明はしなかった。説明したところで、彼女が納得して引き下がるはずもないからだ。自分が「自然な成り行き」だと考えていることも、理恵からすれば不必要で、あってもなくても構わないことなのだ。聡はメッセージ画面を閉じ、返信することはなかった。そのとき、SNSのタイムラインで駿が新たな投稿を更新したのが視界に入った。開いてみると、二枚の写真が掲載されていた。一枚は豪華な夕食の様子、もう一枚はデザートを手にした光景だ。聡はそのキャプションを読み、目を細めた。【人生で最も美味しい料理を堪能した。もはや、この世に未練なし！ただ、満足感が半減した。半分、横取りされたからな】聡は思わずコメントを入力した。【誰かのおかげで食べられたくせに、どちらが横取りしたというのか？】駿は、ほぼ即座に反応した。【透子が自ら僕を招いてくれたのだ。聡さんには無関係だ。無理に関係者面しないでいただきたい】聡は再びコメントした。【俺という橋渡しがなければ、そもそもお前は食事にありつけなかっただろう】駿は即座に返した。【聡さん、まだ僕にゲームで一勝負負けているはずだ。今すぐオンラインに来て決着をつけるべきだ】二人はコメント欄で言い争いを繰り広げた。普段、二人の関係は純粋なビジネス上の協力関係で、どこか距離を保ち、礼儀正しいものだった。しかし、今夜の食事をきっかけに、奇妙なことに心理的距離が縮まっていた。たとえそれが「ライバル意識」のような形であったとしても。その頃、理恵は透子の自宅に戻り、絶品の夜食を満喫していた。SN