「あなたが如月さんね。理恵から話はよく聞いているわ」柚木の母は微笑み、まるで初対面であるかのように言った。透子は相手の意図を察し、当たり障りのない挨拶を二言三言交わした。それから理恵を見て、プレゼントを差し出した。「お誕生日おめでとう。いつまでも綺麗で、ずっと幸せでいてね」透子は心を込めて祝福の言葉を述べた。理恵は笑顔で受け取り、目を輝かせながら答えた。「ありがとう、透子。これからもずっと親友よ」透子は顔に穏やかな笑みを浮かべていた。その時、柚木の母が優雅に口を開いた。「あなたは理恵が招待した数少ないお友たちの一人。今夜は楽しんでいってね。素敵な夜になりますように」透子は丁寧に顔を向け、その言葉の裏にある意味を察して答えた。「申し訳ありません、奥様。プレゼントをお渡ししたら、すぐに失礼させていただこうと思っておりまして。この後、少し野暮用がございますので」柚木の母はそれを聞き、にこやかに社交辞令を述べた。「本当に急ぎの用事があるのなら、引き止めはしないわ。また改めて、家に遊びにいらっしゃい。いつでも歓迎するわよ」透子も同じように社交辞令で返した。「お招きいただき、大変光栄です。日を改めて、旦那様と奥様にご挨拶に伺います」柚木の母が薄く微笑む傍らで、理恵は二人の会話の裏にある腹の探り合いに気づかず、ただ透子が母親と堅苦しく話しているのが面白いと感じていた。理恵は少し不満げに言った。「透子、もう少し一緒にいてよ。そんなに急いで帰らなくてもいいじゃない」透子は優しく微笑みながら答えた。「お母様がずっとそばにいらっしゃるし、私たちは普段から毎日会ってるでしょ。今夜は、他に挨拶しないといけないお客様もたくさんいるんだから」理恵はそれを聞き、心の中でため息をついた。確かに、彼女はこれからずっと笑顔を振りまき続けなければならず、透子とゆっくり話す時間などない。透子はプレゼントを渡すと、柚木の母と理恵に丁寧に別れを告げ、その場を後にした。柚木の母は彼女が去っていく背中を見ながら、透子はなかなか物分かりが良い、と思った。今夜、顔は出しに来たが、長居はしない。聡と会う機会を作ろうともしない。その時、人々の群れの中。透子が外へ出ようと歩いていると、正面から最も会いたくない人物に遭遇して
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