しかも八億円だ。これほどの金をたやすく動かせる人間は、間違いなく――蓮司は拳を固く握りしめ、憎しみを込めて断言した。「――朝比奈だ。あいつが透子を殺そうとしてる!あの金は絶対に橘が出したものだ。あの兄妹がグルになって、二人して透子を殺そうとしてるんだ!」蓮司の断定を聞き、新井のお爺さんも内心では同じ疑いを抱いていた。しかし、現時点では何の物証もなく、彼らの仕業だと証明することはできない。蓮司の怒りは収まらない。「斎藤は生身の人間だぞ!どうしてそう簡単に消え失せられるんだよ!しかも十日以上も経ってるんだ。絶対に橘のやつが先回りして斎藤を匿ってるんだ!あいつのところで、すべての証拠を消すためにな!」感情が激しく高ぶったせいで胸が大きく波打ち、怪我をした肋骨が鈍い痛みを訴え始めた。執事が彼の顔色が変わったのを見て、慌てて制した。「若旦那様、どうかお気を鎮めてください!まだお怪我をされているのですから!」蓮司は大声で叫んだ。「これで怒るなって方が無理だ!犯人が目の前にいるのに、法で裁くことすらできない!証拠はあいつらに全部消されて、このまま透子に濡れ衣を着せられたまま、なぶり殺しにされるのを見過ごせって言うのかよ!?」執事が彼を支えてベッドに横たわらせると、それまで黙っていた新井のお爺さんが、重々しい声で言った。「では、お前がここで喚いていれば、問題が解決するのかね?それとも、このわしに当たり散らしているつもりか?」その静かな問いに、蓮司はぐっと押し黙った。「……そんなつもりは、ない」蓮司は歯を食いしばり、絞り出すように言った。「ただ、橘のやり方が、あまりに傍若無人すぎる。このままじゃ、透子は次から次へと災難に見舞われて、いずれは……殺される」彼は橘家に怒り、腹を立て、そして何より、こんな時に愛する女一人守れない自分の無力さに、どうしようもない憤りを感じていた。しかも、橘家との複雑な関係から、お爺さんは新井家の名で公然と事を構えることを許してくれない。透子は完全に孤立無援のまま、危険に晒されているのだ。今回の交通事故は自分が身を挺して防げた。だが、明日は?明日また、同じことが起きたら?その時、どうやって彼女を守ればいい?蓮司は拳を握りしめ、苦痛に満ちた表情で押し黙った。新井のお爺さんはそんな孫の姿を
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