スマホから、柔らかな声が流れた——「葉山さん、会って話せないかな」——白石音瀬?相手が先に切り出した以上、舞に躊躇する理由はなかった。「いいわ。三十分後、レフトバンクカフェで」……週末の渋滞に巻き込まれ、舞がカフェに着いたのは約束より少し遅れていた。音瀬はすでに来ていた。窓際の席で、白いワンピースに身を包んだ彼女が座っていた。肩に流れる黒髪が、どこか儚く、美しい雰囲気を醸し出している。舞は迷わず彼女を見つけ、静かに向かいの席に腰を下ろした。——六年に及ぶ恋敵が、ついに真正面から相まみえる時が来た。音瀬の顔立ちは一見して清楚だが、目元には人を射抜くような鋭さが宿っていた。無表情のまま舞を見つめたあと、ふとその視線は、舞が手にしていたバッグへと移った。エルメスのバーキン——定価二千四百万円、まさに選ばれし者のための逸品だった。舞もその視線に気づき、ふっと笑った。「母がくれたの」音瀬は作り笑いを浮かべた。「私の年齢には、ちょっと似合わないわね」ちょうどその時、店員がコーヒーを二杯運んできた。音瀬は柔らかく笑みを浮かべながら言った。「これはパナマ産のゲイシャ豆。とても香りがよくて……一口どうぞ」——見せびらかしてるつもりなのが丸わかりだ。舞が何も言わずにいると店員が笑顔で声をかけた。「先ほど、葉山様がいらっしゃるのを見て、特別に雲北の豆を挽いて淹れました。葉山様、何かございましたらお気軽にお声がけください。マネージャーも、久しぶりのご来店を喜んでおりました」舞は静かに微笑んだ。「ありがとう」その会話が、音瀬のプライドを一気に砕いた。口元にカップを運んで沈黙でごまかす彼女だったが、しばらくして、遠慮がちに口を開いた。「あなた、アート関係の仕事をしてるって聞いたわ。あなたさえその気なら、父の絵をそっちに置いてもいいと思ってるの。委託でも、オークションでも。父の芸術的価値、あなたならよくご存じよね?」舞は静かに笑った。「白石さん、あくまで私はビジネスで動いています。実は専門の機関に鑑定を依頼したんですけど……お父様の作品は、評価額が市場価格よりもかなり高めで、落札されない可能性が非常に高いそうです。普通のオークション会社では、扱いたがらないですよ」つまり、取
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