舞は伊野夫人に心から感謝していた。ちょうど迷っていた時、周防家の本邸から電話がかかってきた。周防家の祖父が舞に会いたいと言っているのだった。電話の主は礼だった。礼儀に厳しい周防家では、今や舞は祖父の客人という立場で、家長である彼ですら丁寧な口調で接してきた。礼は言った。「京介との間に何があろうと、祖父の顔を立ててくれ!あの人は昔からあなたのことをとても気に入っていたんだ」舞は頷いて承諾した。……初冬の気配が漂い始めた。周防家の庭は、四季折々に風情があり、いつ訪れても趣深い。舞が車を停めて降りた時、礼が自ら出迎えに来て、彼女を祖父のもとへ案内した。それだけでも、どれほど重く見られているかが分かる。道すがら、礼は他愛ない話をいくつか口にしたが、京介のことには一切触れなかった。舞も同様に何も言わなかった。祖父の書斎に着いた頃、礼の秘書が近づき、小声で何かを耳打ちして話している間、舞はその秘書の顔立ちをじっと見ていた。そして人が去った後、彼女は礼に尋ねた。「お義父さんの秘書、どこかで見たことがある気がします」礼の顔に、わずかにためらいの色が浮かんだ。しばらくして彼は小扉を開け、舞を見て言った。「祖父がお待ちだ」舞はそれ以上詮索せず、静かに部屋へと入っていった。素朴な書斎には、香ばしい茶の香りが満ちていた。周防家の祖父は一人でお茶を啜りながら揺り椅子に揺られていた。使用人はおらず、足音が聞こえると、にこにこと笑って言った。「舞か?こっちへ来て、一緒にお茶でも飲もう」舞はそっと歩み寄って腰を下ろし、丁寧に「お爺さん」と声をかけた。どこかぎこちなさが残っていた。祖父は微笑んだまま言った。「京介はいない!ほかの連中もみんな退けた。今日はおまえとわしの二人きりで話そうや」舞は小さく微笑み、祖父の茶碗にそっとお茶を注いだ。周防家の若い世代の中で、京介を除けば、祖父が最も重んじていたのは舞だった。それは長男の輝以上とも言えるほどで、この特別な寵愛ゆえに舞は周囲の嫉妬の的にもなっていた。それを祖父はすべて承知していた。祖父は茶を一口啜ると、輝と瑠璃のことをさらりと話題にした。そして何気ない口調でこう言った。「おまえと京介はもう四年も結婚しているし、輝の縁談もそろそろ進めねばな」舞は一瞬、息を呑んだ。
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