All Chapters of 私が去った後のクズ男の末路: Chapter 41 - Chapter 50

意外なことに、京介は動きを止めた。腕の中の舞を見下ろし、喉仏が上下に激しく動く。それが、彼の今の抑えきれない衝動を物語っていた……しばらくして、彼はようやく彼女から身を離し、解放した。京介は無表情のまま言った。「洗ってこい」舞が立ち上がると、脚は震え、ふらつきながら浴室へ向かった。鏡に映る自分の姿を見た瞬間、思わず目を見張った。あまりにも乱れていた。寝室で、京介は体を横に転がした……しばらく呼吸を整えたあと、彼はベッドサイドの引き出しからタバコの箱を取り出し、一本を指ではじいて唇にくわえた。だが結局その場では火を点けず、起居室の掃き出し窓の前まで歩き、少しだけ窓を開けて、そこで立ち止まり、ゆっくりとタバコに火をつけた。淡い灯りが京介の顔を照らし、光の当たる頬は白く際立ち、まぶたの影が痩けた頬に影を落とし、妙な美しさが浮かんでいた……タバコを挟んだ指先がかすかに震え、煙はゆっくりと立ち上がり、夜風に吹かれて散っていく。その煙が、京介の顔をぼやかした。京介は濃い闇を見つめたまま、心がざわついていた。一方的に熱を上げているのは九郎のはずなのに、なぜ自分がこんなにも感情を抑えきれないのか。まるで嫉妬に狂う夫のように、妻を家に閉じ込め、他の男に見せたくないと思ってしまう。京介は自分でもはっきりわかっていた。舞を愛しているわけじゃない。たぶん、ただの独占欲だ。彼女が他の男に狙われるのが不快で、そして少しばかりの罪悪感があるだけ。舞は自分にとってそれほど重要な存在ではない。そう思い至った時、京介の胸にあったわだかまりは消えた。彼は指先でタバコを揉み消し、無言で主寝室へと戻っていった。洗面所から、水の流れる音が聞こえていた。シャワーを浴びているのは舞だった。湯気が立ちこめるバスルームの中で、舞はシャワーの下に立ち、熱いお湯をただ静かに受けていた。透明な水が黒く長い髪をつたって流れ、朱色の小さなほくろを越え、最後には重なる谷間に隠れていった。飾り気のない美しさがそこにあり、まるで自然がそのまま描き出したようだった。京介がガラスのドアを引き開けると、その音に気づいた舞が彼の方を見た。京介の視線は底知れず、男の欲望がはっきりと宿っていて、それを受けた舞はふるりと小さく身を震わせた。しばらくして、男はシ

京介は一本の煙草を吸い終えると、VIP病室に足を踏み入れた。ちょうどその時、仁がその場で診察していた。京介がやって来るのを見て、仁は穏やかに笑いながら声をかけた。「京介も来てくれたか。治療プランは大体まとまっていて、あとは手術日を決めるだけだよ」おばあさんの体調がまだ優れないため、もう少し養生が必要とされ、仁は最終的に手術日を半月後に設定した。舞は安心した。仁はこの後旧友との約束があり、京介が自ら駐車場まで送った。道中、仁は舞を大いに褒め称え、別れ際には京介の肩を軽く叩いて念を押した。「あの子を大切にしろよ。いい娘だって分かる。今逃したら、二度と出会えないぞ」京介は薄く笑い、仁のために車のドアを開けた。「玉置さん、ご安心を」仁は微笑みながら車に乗り込んだ。しばらくして、ピカピカの車がゆっくりと走り出し、京介の横を通り過ぎた。京介はしばらくその場に佇んでから病室へ戻ると、舞はおばあさんと話していた。京介が戻ってきたのを見て、彼女は静かに微笑んだ。「おばあちゃんがこの手術を受けられるのは、あなたのおかげよ」京介は彼女の隣に座り、肩を軽く抱いて言った。「俺たちは夫婦だ。礼なんていらないだろ」舞はその距離が近すぎると感じ、離れようとした。傍らにいた葉山祖母はその様子に気づいていた。以前は舞に離婚を勧めたこともあったが、今の京介の家庭への姿勢を見て、普通の家庭を築いてほしいと願い、何も言わなかった。京介のこの日の立ち振る舞いは完璧で、家政婦でさえ「この婿さんは見違えるようだ」と思ったほど、家庭に真剣に向き合っているように見えた。ただひとり、舞だけが知っていた。それは京介の擬態であり、彼の優しさにはすでに値札がついているということを。彼女の中に京介が欲しているものがあるのだ。たとえば、伊野夫人との親しい関係や、メディアプロジェクトへの貢献などが。案の定、病院を出た後、京介は車内で尋ねてきた。舞は穏やかに言った。「伊野夫人から連絡があったわ。メディア側は協力には前向きだけど、栄光グループの人事に少し不満があるみたい。基本的な信頼が足りないって」京介は運転しながら、自然に話を繋いだ。「白石愛果のことか？」舞の表情は一気に冷めた。「私はもう栄光グループを離れてる。社内のことなんて知らないわ」ちょう

しばらくして、彼は主寝室のドアを押し開けた。寝室は静まり返り、空気にはほのかな女の香りが漂っていた。奥へ進むと、舞がベッドに横たわっており、まるで眠っているようだった。京介は近づいてベッドの脇にしゃがみ込み、舞の頬にかかる髪をそっと払い、額に手を当てた。——まだ熱が少し残っている。舞は目を覚まし、熱のせいでぼんやりしながら京介と目を合わせ、柔らかな声で言った。「帰ってきたの？」京介の胸が、不意に一拍だけ跳ねた。彼はそっと妻の頬を撫で、「ああ」と一声返した。「メイドにお粥を持ってこさせた。少し食べて、また眠れ。今は苦しくないか？」その撫で方はまるで子犬を扱うようで、舞は少し戸惑った。彼女は手を伸ばして京介の額に触れた。熱なんてないのに！京介は呆れながら笑った。「気遣って悪いのか？前は俺が冷たいって文句ばかりだったくせに」舞はベッドのヘッドボードにもたれ、穏やかな表情で言った。「昔は必要だったけど、今はそうでもない。周防京介、あなたは私の運命の人じゃないし、私もあなたの理想の妻にはなれない。あと二年経てば、私たちは別々の道を行く運命なの」京介の黒い瞳が静かに深く沈んだ。「そんなに俺から離れたいのか？」舞が何か言おうとしたその時、寝室のドアがノックされた。別荘の使用人がトレイを運んで入ってきた。お粥とおかずに加えて、舞の薬も添えられている。使用人はそれを居間に置くと、空気を読んでそっと部屋を後にした。京介は舞を見つめて言った。「抱いて連れて行く」舞は断る間もなく抱き上げられた。彼女の浴衣はほとんど何も隠せておらず、特に白く細い脚は、下を隠せば上が、上を隠せば下が露わになってしまう。京介は視線を落としながら言った。「何を隠す？見慣れてるだろ、全部」舞は思わず呆れた——京介が仲睦まじい夫婦を演じたがるなら、彼女は合わせておけばいい。そうすれば少しは楽に過ごせる。だから、男が彼女を膝に乗せた時、舞はそれを黙って受け入れた……白い太ももが鉄灰のスラックスにぴたりと貼りつき、どこか艶めかしい光景を作り出していた。舞の胸が、どきんと高鳴った。案の定、男が耳元で低く囁いた。「今日、履き替えたばかりのズボンなんだ」舞は返す言葉もなく、それに本当に頭がぼんやりしていて、男の肩にもたれたまま、お粥を口

「俺の妻は素晴らしい女性で、本当に申し分のない存在だ」「だが、俺は彼女を愛していない」「俺は確信している。彼女に対して男女の愛情はなく、関係を持ったのも合法な後継者を得るためだった」「だが今では、この関係に狂ったように依存している。かつては欲の少ない男だったのに」……京介は自分自身に強い戸惑いを覚えていた。しばらくして、医師は診断を終えた後、こう切り出した。「周防さん、まず大切なのは、本当に奥様を愛していないのかを見極めることです。男女の感情はもっとも捉えがたく、主観でも客観でも判断しきれません」京介は眉をひそめ、その方向へ思考を進めるのを拒んだ。なぜなら、彼は若い頃に愛した人がいたからだ。彼は「愛」の感覚を知っていた。診察が終わると、彼はスーツのボタンを留めて診察室を出た。廊下では中川が忠実に待っており、彼が出てくるなり声をかけた。「京介様、最近何か心に引っかかることでも？」車に乗り込むと、京介は後部座席に身を預け、ふっと息を吐いた。「いや、むしろ楽しすぎて困っている」中川は意味がわからず、ぽかんとしていた。だが、彼女は思い出したように言った。「栄誠グループの真城紗弥（ましろさや）さんが、両社の今後の協力について京介様と食事しながら話したいとおっしゃっています。京介様、お断りしておきましょうか？」これまでこの手の誘いに、京介が応じたことは一度もなかった。余計な疑念を避けるためだった。だが今日はふと思い出した。栄誠グループの紗弥は舞と同じタイプの、冷たげな美人だ。彼女と食事をしてみれば、自分の舞に対する感情が勘違いだったのかどうか、確認できるかもしれない。京介は少し考えてから言った。「今夜8時、鳳栄ホテルのレストランで」中川は意外そうにしたが、すぐに指示通りに手配した。……夕方、京介は舞に電話をかけ、今夜は商談で遅くなると伝えた。舞もちょうど外せない用事があった。有名な女性画家が立都市に来ており、鳳栄ホテルに滞在していた。舞はその画家と会って、将来的なコラボについて話し合う予定だった。うまくいけば長期的な提携になるはずだった。夜7時、舞はその女性画家とレストランで食事を取りながら打ち合わせをし、正式に協力が決まった。食事を終えた舞は会計を済ませて席を立とうとした。しか

栄光グループ、社長室。京介は本革の椅子にもたれ、真剣に自分を分析していた——彼がしているすべては、結婚の安定と、正当な後継者のためだった。舞のことは嫌いじゃなかった。むしろ、少し好ましく思っていた。少なくともその方面では、このところ二人の相性はとても良く、男は本能に忠実な生き物だ。ベッドで満たされれば、それ以外の時間には自然と寛容になれる。彼は彼女によく接し、結婚の利点を感じさせ、愛されているという実感を与えようと思っていた。もしそれが舞の望みであるならば。けれど、これらは愛とは関係ない。彼はやはり舞を愛してはいなかった。京介が考え込んでいると、中川がノックして入ってきた。「京介様、ジュネーブからお電話です」京介は携帯を受け取ると、顎で合図した。「出ていてくれ」中川は秘書室に戻り、心の中で考えた——ジュネーブからの電話は週一回、京介は毎月ほぼジュネーブへ飛んでいる……あの地にいる誰かは、きっと重要な人物なのだろう！考えていると、京介が外から入ってきて、彼女の机を軽く叩いた。「明日、雲城市に同行してくれ。メディアプロジェクトに新しい進展があった」中川は喜んで言った。「伊野さんが折れたんですか？」京介は軽く頷いた。「あちらが2ポイント譲歩した。交渉の余地がずっと広がった。準備して、財務部の鈴木部長とPR部の大橋部長にも声をかけておけ。明朝、専用機で雲城市へ向かう」中川は思わず漏らした。「奥様は伊野夫人と、かなり親しいようですね」京介はかすかに笑みを浮かべた。……出張を控えていたが、夜の晩餐会には京介は予定通り出席した。慈善パーティーだったため、舞は控えめな装いで、michaaの黒のスーツにダイヤモンドの結婚指輪だけという出で立ちだった。冷ややかな気配がかえって人を惹きつけた。京介は一目で舞を見つけ、思わず見とれた後、彼女の腰に手を回して主催者へと紹介した。舞はビジネスの場に長くいたため、堂々とした立ち振る舞いが自然に身に染みついていた。妻の美しさは、夫の誇り——舞が人と談笑している姿に、京介も思わず惹かれた。彼女は家庭内とはまるで別人のようで、堂々とした雰囲気を放っていた。その横で誰かが声をかけた。「京介、ここにいたのか！行こうぜ、輝翔グループの大森社長がずっと君に会いたがってて