All Chapters of 私が去った後のクズ男の末路: Chapter 51 - Chapter 60

京介が雲城市へ出張して三日目、舞はデパートへ出かけた。京介はkitomのシャツを好んで着る。舞はそのブランドの専用カウンターで、黒とダークグレーの二色を選んだ。白シャツは彼が普段あまり着ないため、たいてい特注の品だ。会計の際、店員がにこやかに言った。「周防夫人、さすがお目が高いです。来週には新作も入荷しますので、ぜひまたいらしてください。周防様には本当によくお似合いですよ」舞は微笑んで返した。「ええ、また来ます」女性が買い物をするときはたいてい機嫌がいいものだ。舞も例外ではなく、伊野夫人をお茶に誘いたいと思ったが、都合が合うかどうかはわからなかった。電話をかけようとしたそのとき、弾むような声が響いた。「舞姉さん」舞が目を向けると――桃寧、そして九郎の兄妹だった。桃寧は誕生日パーティーの夜の出来事などもうすっかり忘れていた。彼女は舞のことが大好きだった。舞はスイーツを買ってくれるから。他の人たちは「甘いものは太る」としか言わないのに。彼女は舞にまとわりつき、親しげに話しかけた。その傍らで、九郎は静かに舞の手にあるkitomの男性用シャツの袋を見つめていた。そして突然、九郎が口を開いた。「それ、あいつに買ったのか？」舞は目を逸らさず、軽く頷いた。「ええ、周防京介のために」九郎の目は深く沈んでいた。しばらくして、彼はかすかに笑った。「子供の頃からずっと、周防京介が欲しいものを手に入れ損なったことなんて一度もない」栄光グループも、舞も。舞はただ淡く笑い、何も言い返さなかった。桃寧だけが兄と舞を見比べて、「お兄ちゃん、何言ってるの？」という顔をしていた。……デパートでの偶然の出会いは、舞にそれほど大きな影響を与えなかった。帰り際、彼女は白いカラーを一束買い、水晶の花瓶に活けて寝室のベッドサイドに飾った。爽やかな雰囲気で、家の使用人たちも皆「とても綺麗です」「奥様はお上手ですね」と褒めていた。舞は花瓶をくるりと回しながら、そっと微笑んだ。その晩、彼女は思いがけず京介からの電話を受けた。これまでは出張中、よほどの用事でもなければ彼から連絡が来ることはなかった。だが今夜、京介はその習慣を破った。この時、彼はメディア計画に関して伊野と商談の最中だった。伊野は酒席の文化を好み、酒に非常に

夜更けて、舞は眠っていなかった。彼女は京介の言葉を何度も思い返していた。彼は自分以外の女を知らないと言い、外の女とは会わないと言い、良い夫になるよう努力すると言った。「信じてくれ」と。白々と灯る光の中で、舞の眉目は静かに落ち着いていた。京介、もう一度だけ、あなたを信じていいの？そのとき、窓の外では黒雲が重く渦巻き、遠くでかすかに雷鳴が響いた。……それから二日間、京介から連絡はなかった。舞も女としての誇りから、こちらから電話することはなかった。三日目の朝早く、舞は早起きしていた。朝食の席で、使用人が意外そうに尋ねた。「奥様、お義母様のお見舞いで病院に行かれるのですか？」舞はミルクを一口飲んで、穏やかに微笑んだ。「いえ、主人が出張から戻るので、空港まで迎えに行くの」使用人は嬉しそうに目を輝かせた。「旦那様と奥様、本当に仲がよろしいのですね」舞は何も言わず、朝食を終えると自ら車を運転して空港へ向かった。長年連れ添った夫婦の間には、やはり暗黙の了解がある。京介は早朝7時発の専用機を好み、雲城市から立都市までは9時頃に着く予定だ。舞の出発時間はちょうどよかった。気分は悪くなかった。車に乗り込んだ舞は、ふと取り出したQRコードを見つめた。どうしても、あの演奏会に行きたかったのだ。車を発進させると、彼女はカーオーディオを押した。『Melody』が車内にそっと流れ出し、心を優しく包んだ。舞は運転に集中した。高速道路を走っていると、空は次第に暗くなり、青白い雲が立都市の空を覆いはじめた。やがて、ちらちらと雪が舞い始める……舞はとても驚いた。12月の初めに、もう雪が降るなんて。幸い、雪は激しくはならず、空港へは無事に到着した。本来なら、駐車場で待てば済むところだったが、舞は考えた末に車を降りて到着口の通路まで向かった。京介が、「少しでも早くお前に会いたい」と言っていたから。今日の舞は、念入りに装っていた。白のカシミアコートに、襟元には真珠のスズランのブローチ。美しく、気品ある佇まいだった。彼女は出口通路に立ち、京介が出てくるのをじっと待った。午前9時ちょうど。京介は現れなかった。9時15分になっても京介は現れず、舞は手続きに問題が生じたのだろうと軽く考えていた。だが、9時半になっ

ロイヤルガーデンに戻ったのは、午後4時になっていた。黒色のベンツのビジネスカーが、分厚い雪を踏みしめながら本宅の駐車スペースに停まった。ドアが開き、中川が舞を支えて車を降りた。心配して世話を焼こうとしたが、舞はそれを断った。舞は階段の上に立ち、降りしきる雪を仰ぎ見ながら、ぽつりとつぶやいた。「男を憐れんでも、報われた試しがない」中川はそれが聞き取れず、思わず尋ねようとしたが。舞はすでに階段を上り始めていた。全身が凍え、体がきしむように痛いはずなのに、背筋だけはまっすぐに保ち、他人の前で体面を崩したくなかった。たとえその体面など、京介にとっくに剥ぎ取られて何一つ残っていなかったとしても。屋内の使用人が手を差し伸べようとしたが、舞はそっとその手を払いのけた。「自分で歩きたいの」その姿に、使用人は思わず涙をこぼした。「奥様、どうなさったのですか？」舞はぼんやりとしたまま返した。「大丈夫。心配しなくていいわ。少し寝るから、誰が来ても起こさないで」彼女は、取り乱す自分自身が何よりも怖かった。今の自分は、あまりにも惨めで、あまりにも情けなかった。京介のために、一人の男のために、何度も危うい場所に足を踏み入れ、何度も見苦しい姿をさらした。なんて恥ずかしいんだろう！煌々とした灯りの下、舞の顔は紙のように蒼白だった。その歩みは遅く、悲しみに満ちていた。だが、その悲しみを京介が知ることはなかった。彼は必要なときだけ「舞」と呼び、必要がなければ外で完璧な恋人を演じていた。舞は静かに目を閉じた——都合のいいときだけ頼って、普段は綺麗な女にうつつを抜かす。二階に上がり、寝室のドアを押し開けた。寝室はあのままだった。ベッドサイドのテーブルには白いカラーの花が飾られ、ソファには京介のために選んだシャツが二着、さらに彼のために選んだ繊細なカフリンクスが置かれていた。今になって見れば、その心遣いはなんと哀れで、なんと滑稽なのだろう。彼女は、京介が口にした愛の言葉を真に受けていた。いつか心が通じ合うと、信じてしまっていたのだ。本当に滑稽だった！……舞は体調を崩した。高熱が続き、ついには40度にまで達した。使用人たちは隠していられず、周防家本邸へと電話をかけた。深夜、静まり返った周防家の本宅に、その一

立都市の雪はすっかり溶けていた。それでも、京介はまだ帰ってこなかった。舞がカレンダーをめくると、すでに12日。あのヴァイオリニストのコンサートは、今夜8時からだった。舞は急に、それを観に行きたくなった。一人で。家の使用人は心配して、何度も言い聞かせた。「ご病気が治ったばかりです。また外で冷えたら大変ですよ」舞は答えた。「厚手のダウンを着ていくわ」使用人は仕方なくクローゼットから厚手の服を取り出し、自ら舞に着せ、さらに保温用のカシミアのマフラーを巻いてあげた。「運転手に送ってもらってください。それでなければ、お爺様に報告します」舞はそれに頷いた。5分後、彼女は黒いリムジンに乗り込んだ。行き先を聞いた運転手は、すぐにアクセルを踏んだ。黒いリムジンはロイヤルガーデンを静かに発ち、後ろには煌めく灯りが遠ざかり、前方には都市のネオンがじわじわと浮かび上がってきた。ネオンはまばゆく、空に色とりどりの光が踊っていた。立都市大劇場。黒いリムジンが入口に止まり、磨き上げられた高級車体がひときわ目を引いた。誰か名の知れた夫人か令嬢が来たのかと、周囲がざわめいた。舞はドアの取手を握り、淡々と運転手に告げた。「先に戻って！帰りは自分でタクシーを拾うから」別荘の運転手や使用人たちは彼女を敬っており、逆らうことはできなかった。運転手は少し戸惑いながらも、結局うなずいた。舞が車を降りると、冷たい風が一気に顔を打った。彼女は足早にロビーへ入り、券売機で2枚のVIPチケットを取り出した。入場時、係員が彼女の2枚のチケットを見て、親切に声をかけた。「開演までまだ20分ありますよ。今からでも間に合います。こんなに良い席、もったいないです」舞は苦く微笑んだ。「ひとりなんです」係員はそれ以上何も言わなかった。チケットを確認後、舞は演奏ホールへと足を踏み入れた。彼女は最前列に一人で座り、見たかった演奏を一人で楽しんだ。スマホはマナーモードのままだったため、京介からの電話にも気づいていなかった。スマホの画面は何度も点いては消え、それが繰り返された。あとで舞はその着信に気づいたが、出なかった。彼女は京介の呼び出しに従う犬なんかじゃない。公演の間中、舞のスマホはずっと光を灯し続けていた。演奏が終わってからスマホを見る

手術の日、京介は結局戻ってこなかった。周防祖父は大いに憤り、舞を重く見て自ら現場に赴いた。同行したのは、寛と礼夫妻だった。一行が病院に到着すると、応対は必要不可欠だったが、幸い葉山祖母付きの家政婦が八方美人で、礼儀作法も完璧にこなしてくれた。周防祖父は場を和ませるように言った。「京介が悪かったな。あとできっちり謝らせるよ」だが、舞はもうそんなことを気にしていなかった。今の彼女にとって大切なのは葉山祖母のことだけ。外で女遊びをしている男なんて、どうなろうと知ったことではなかった。周防祖父はそれを察して病室を出た。舞と葉山祖母だけがその場に残された。温かな黄色の灯りが、葉山祖母の銀髪を照らし、その一本一本がつややかだった。葉山祖母はベッドにもたれ、孫娘の手をぎゅっと握っていた。死ぬことは怖くない。人生の大半を生きてきて、生死に怯えるような年でもない。ただ、孫娘が心残りなのだ。舞が一人になることが、誰かに裏切られることが、何よりも怖いのだ。葉山祖母は目に涙を浮かべ、昨夜の夢をそっと語った。「お父さんが迎えに来る夢を見たのよ。白くて金縁の馬車に乗っていて、とても広くて立派だった。お父さんは昔のまま若くて、白髪なんて一本もなかったのに、私はすっかり白髪頭になっていて。彼の姿を見つけてすごく嬉しくなって、私は駆け寄りながらお父さんって呼んだの。あの馬車に乗りたかった。でも、お父さんは私のことが見えなかったみたいで、白い馬車に乗ったまま私のそばを通り過ぎていったの……」葉山祖母の声は震えていた。「時間が経ちすぎて、お父さんは私のことを忘れてしまったのかしら？でも、私はまだこの世にいるのよ。私には舞のそばにいてあげる使命があるの……」舞は葉山祖母のそばに身を伏せ、嗚咽して声にならなかった。「おばあちゃん」葉山祖母の顔は涙でいっぱいだった。葉山祖母は震える指先で手探りしながら、舞の黒髪をそっと撫でた。「怖がらないでね、おばあちゃんは大丈夫よ。まだ舞のこと、見守っていかなきゃいけないんだから」舞は嗚咽しながらも言った。「うん、おばあちゃんはきっと大丈夫だよ」そのとき、病室のドアが開いた。入ってきたのは院長と主任で、直接舞に頭を下げた。「周防夫人、少々予定外の事態が起きまして、玉置仁先生が直接執刀できなくなりました。ただ