岸本は逝った。夜更け——瑠璃は人知れず、家族だけで彼を見守った。枕元には白木の台が据えられ、小さな灯明の炎が静かに揺れている。この静けさは、琢真と美羽が父へと静かに別れを告げられるように——そう願ってのことだった。琢真はすらりとした体をまっすぐに伸ばし、二人の妹の手を取って父の傍らに立った。瑠璃の母は悲嘆に暮れながらも気丈に、一階で使用人たちに指示を飛ばし、明け方に備えた。富商であった岸本のもとには、訃報が広まるや否や、数えきれぬほどの弔問客が押し寄せるに違いなかった。夜が白み始める頃、瑠璃の母はついに力尽きた。その時、長身の影がゆるやかに現れた——周防輝だった。彼は唇に煙草を挟み、あたかも日常の作業をこなすかのように、使用人へ指示を与えつつ、自らも黙々と動いた。さらに父へ電話をかけ、かつて周防祖父の葬儀を仕切った一座を呼び寄せると、ほどなく専門の人々が到着し、別邸は整然とした空気に包まれた。物音はひどく控えめで、亡き人を騒がせることは決してなかった。瑠璃の母はふと悟った。これは岸本が生前に託した手配なのだ、と。胸の奥は複雑だった。彼は逝き、孤児と妻を残してしまった。夜明けとともに、岸本家の親族や友人たちが続々と駆けつけ、最後の別れを告げた。瑠璃は喪服に身を包み、三人の子どもと共に黒衣をまとっていた。茉莉もその列に加わっていた。輝は作業員の中に紛れ、茉莉が棺へと花を手向ける姿を見つめた。心に苦い痛みが広がる。だが誰を責められるでもなく、己を恨むしかなかった。——岸本が予見したとおりだった。その死は、巨大な遺産をめぐる争いの火種となった。美羽の母、藤原笙子の実家は力が弱く、声を荒げることはしない。だが琢真の母——岸本の最初の妻の実家は違った。孫の将来を案じると言いながら、琢真に相続されるはずの財産を一時的に母方の伯父の名義に移し、二十四歳になるまで預かるべきだと主張した。琢真は拳を固く握りしめ、潤んだ瞳で瑠璃を仰ぐ。彼女はその心を理解した。義理の息子の手を取って、毅然と告げた。「雅彦は逝きました。ですが、この家はまだ散ってはいません。これからは私が琢真と美羽の後見人となり、成人するまで見守ります。岸本の遺したものは、琢真だけでなく美羽も等しく受け取る権利があります。今は、その時
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