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第53話

Autor: 風羽
中川はすぐに手配を済ませたが、その後、上司に追い出された。

フロアガラスの外では、夜の帳が静かに降りていた。

その頃には京介の酔いもほとんど覚めていて、舞に電話をかけた。彼女はまだ起きているだろうと踏んでいたのだ。

案の定、電話はすぐに繋がり、舞が出た。

京介の声には少しだけかすれがあった。「シャツ、買ったか?」

「買ったわ、ちょっとダサいけど」

舞はわざとそんな言い方をした。こんなふうに気軽な会話を交わすのは珍しく、そこには夫婦らしい甘さがあった。

京介は笑った。「お前のセンスは信じてるよ、周防夫人」

話を切り替え、さらに優しげな声で続けた。「蒼井紗音(あおいさね)のコンサート、なかなか良さそうだった。中川にチケットを2枚予約させた。立都市に戻ったら、一緒に見に行こう」

舞は思わず嬉しくなった。その演奏家のことを六年間も好きだったが、まだ一度も生演奏を聴いたことがなかったのだ。

手段を捨ててまで女の好みに合わせてくれる男に、心を動かされない女がいるだろうか?

舞の声は自然とやわらかくなった。「周防京介、覚えていてくれてありがとう」

夜は墨を流したように深く静かで……

京介は立ち上がり、フロアガラスへと歩いていった。ホテルの32階からは、雲城市の夜景が一望できる。ふと彼は舞を恋しく思った。初めて、ジュネーブの人間ではなく、自宅にいる妻のことが脳裏をよぎったのだ。

男の声は低く、どこか艶を帯びていた。「明後日の朝、早めに帰るよ!専用機で帰るから、空港まで迎えに来て。早くお前に会いたい」

こんな甘い台詞を口にしたことはこれまでなかったが、口にしてみても、京介は少しも後悔しなかった。

感情が高まれば、自然と口から出てしまうものだ。

彼は確かに舞を恋しく思っていた。ネクタイを締めてくれる姿も、柔らかなベッドに横たわる艶やかな姿も、すべてが懐かしかった。

京介は思った。女のぬくもりというものは、男の骨をもろくしてしまう。

彼も例外ではなかった。

だが彼には分かっていた。性は性、愛は愛だと。

舞は少し考えた末に承諾した。明後日は特に予定もなかったからだ。

……

京介はQRコードを舞に送り、送った後には頬がほころんだ。

中川は「上司が恋をしている」と思った。

彼女はからかうように言った。「最近、奥様とすごく仲が良いですよね!会社の
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