翔雅の目は血走り、前方の黒いスポーツカーを射抜くように見つめていた。楓人が通りかかったとき、一瞥をくれただけで車を停めることなく走り去る。翔雅の胸には、これまでにないほどの挫折感が押し寄せる。酔いに任せてスマホを取り出し、震える指でメッセージを送った。【澄佳、少しは自制できないのか?】……その頃、澄佳はベッドの背にもたれ、まだ胸の苦しさを引きずっていた。さきほど息苦しさを訴えたとき、楓人が戻ってきて診てくれ、薬を渡して「心配いらない」と確認したあとに去ったばかり。恐らくその姿を外で翔雅に見られたのだろう。送られてきたメッセージを眺めていると、澪安が横から手を伸ばしてスマホを取り上げ、今にも罵り返そうとした。だが澄佳はそれを取り返し、静かに言った。「どうでもいい人よ。相手にする必要はないわ」そして、翔雅のメッセージを削除し、電話番号までも着信拒否にした。二人は完全に決別した。芽衣と章真は自分ひとりで育てるつもりであり、翔雅という存在は彼女の世界から消えてもかまわなかった。澪安は水を注いでベッド脇に差し出し、苦笑する。「まったく、あんなやつに構うだけ無駄だ」澄佳は淡く笑みを浮かべる。「兄さんこそどうなの?最近外に出かけてばかりだって。宴司が言ってたわよ、九条慕美のクラブにしょっちゅう顔を出してるって。好きなら娶ればいいじゃない。九条さんの娘なら、父さんも母さんも反対なんてしないわ。きっとお母さんは彼女をもっと可愛がるはずよ」「ガキが、兄貴のことに口出すな」澪安は横目で睨む。澄佳は声を立てて笑った。「でも私たち双子でしょう?恋愛経験なら、私の方がずっと上だと思うけど」「だから何だ、誇らしいのか?」澄佳はそれ以上言わず、子どものころのように兄の肩に頭を預ける。しばらくして澪安がその頭を撫で、穏やかに囁いた。「もう、あのろくでなしのことは忘れよう」澄佳は小さくうなずいた。……その頃、翔雅は電話をかけようとしたが、既に着信拒否されていることに気づいた。LINEも削除されている。彼はただ俯いたまま、長い時間じっと画面を見つめていた。瞳には赤い光がにじみ出ていた。帰り道の翔雅は、心ここにあらずでハンドルを切り損ね、中央分離帯に車をぶつけてしまった。駆けつけた警官が
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