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第877話

Autor: 風羽
しばらくして、澪安の手がぎゅっと握りしめられた。

ちょうどそのとき、玄関の方から足音が聞こえた。

慕美の足音だ。

澪安は隠そうともしなかった。

彼はそのままバッグを床へ放り投げた。

薬の瓶がコロコロと転がり、遠くまで散らばっていく。

慕美は呆然としたが、すぐに駆け出して一つずつ拾い集めた。

最後の一本に手を伸ばした瞬間、その手より先に、誰かの大きな掌が瓶をつかんだ。

――澪安だ。

時が固まったように、空気が張りつめる。

彼は薬瓶をゆっくりと引き寄せ、黒い瞳で感情の読めないまま彼女を見つめ、静かに問う。

「慕美……説明してくれるか?」

慕美の唇が震えた。

説明などできない。

急性腎不全だなんて、言えるはずがない。

彼女が沈黙したままでも、澪安は無理に問い詰めなかった。

薬を丁寧にバッグへ戻すと、そのまま慕美の冷たい頬を両手で挟み――激しく、乱暴なほどのキスを落とした。

まるで、壊してしまいたいほどに。

慕美の涙がぽろりとこぼれ、抵抗もせず、ただ震える声で呼んだ。

「澪安」

あまりにも突然で、胸の奥に深く刺さった。

澪安の目から、するりと涙が落ちた
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  • 私が去った後のクズ男の末路   第963話

    月が中天に掛かり、その淡い光を浴びた人影は、淡い琉璃色を纏ったかのようだった。輪郭はぼやけ、どこかおぼろげで定かではない。夕梨は、思わず足を止めた。寒笙とは、わずか二歩分の距離しかない。だが実際には、二人の間には六年の歳月と、生と死の境界というあまりに深い溝が横たわっていた。あの日以来、彼の死を信じるほかなかった彼女には、さよならを告げる会さえ与えられなかった。遺体はおろか、遺品の一つすら見つからなかったからだ。そして今、彼は戻ってきた。それでも、やはりさよならは言えない。あの頃、二人の関係は、始まる前で止まっていた。そして今、彼には妻がいて、彼女は彼の兄の恋人だっ

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