3年間塩対応してきた夫は、離婚の話をされたら逆に泣きついてきた のすべてのチャプター: チャプター 571 - チャプター 572

572 チャプター

第571話

私の立ち位置が悪かったから、葵にぶつかってしまったと。八雲はそう言いたいのだろう。しかも彼は、葵に誤解されるのを恐れて、わざわざもう一度強調した。自分は私にまったく興味がない、と。自分と私を結びつけるな、と。「いやいや、水辺先生のせいじゃありませんよ。うちの診察室のドアが狭すぎるんです。今度、院長に頼んで広げてもらいますから。水辺先生、検査に行ってください。松田(まつだ)も向こうで待ってますから」ずっと背景のように座っていた西岡先生が、さすがに見ていられなくなったのか、慌てて立ち上がり、場を収めようとした。「分かりました。すぐに行きます。松島先生の邪魔になるといけませんし」私は指をぎゅっと握りしめ、胸の奥で渦巻く感情を無理やり押し込めた。余計なことは何も言わず、そのまま背を向けて歩き出す。だが、二歩進んだところで足が止まった。振り返って、冷たく言い放つ。「そうだ、松島先生。一つだけはっきりさせておくわ。私も紀戸先生にはまったく興味がない。今後、勝手に私たちを結びつけないでください。私はあなたたちの恋愛ごっこの『駒』じゃないから」言い切ると同時に、私は大股でその場を後にした。「そうだ、優月はあいつにも興味なんてない!松島先生、口は気をつけろよ。デマは犯罪だ!」「うちの優月に近づくな!優月、待って!」背後から、颯也と浩賢が追いかけてくる足音。私は振り返らなかった。それでも、背中に突き刺さるような熱い視線だけは、はっきりと感じていた。その視線から逃げるように、私は歩調を速める。ほとんど小走りになりながら、その場を離れた。けれど私の足取りは、最初の怒りから、いつしか重く沈んでいった。胸の奥から湧き上がるのは、激しい虚しさと自分への嘲りだった。さっきの言い返しなんて、所詮は虚勢に過ぎない。本当は、こんなにも苦しいのに。結局、私は負けている。背後では、浩賢と颯也の言い争いがまだ続いていた。「夏目さん、言葉に気をつけろ。さっき自分で言っただろ、優月は物じゃないって。所有物みたいに扱うな」「俺がいつ物扱いした?俺は彼女を尊重してるし、想ってるし、大事にしてる。優月は俺の宝だ」「なんで君のものになるんだ?」「決まってるだろ。優月は俺の女になる運命なんだ。俺を選ぶ、それが運命なんだ」
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第572話

浩賢が去ったあと、颯也は私を連れて残りの検査を一通り済ませてくれた。「結果は明日になりますので、また取りに来てください」いくつかの診療科の同僚たちは、口を揃えてそう言った。もともと、その日のうちにすべての結果が出るとは思っていなかった。たとえ一部が先に出たとしても、今さら外来の先生方に改めて検査結果について聞きに行くつもりはない。これ以上手間をかけさせるわけにはいかなかった。颯也と一緒に階下へ降り、帰ろうとエレベーターホールに向かうと、そこでまた西岡先生にばったり会った。「お、ちょうどいい。水辺先生、レントゲン写真、ちょっと見せて」西岡先生はやけに乗り気で、今この場で診ようとする。断るわけにもいかず、私は撮影したレントゲン写真を取り出して手渡した。彼はそれを受け取って、エレベーターの明かりにかざしてざっと目を通し、しばらくしてから頷いた。「全体的には問題なし。ただ、しばらくはしっかり養生しないとね。手首は普段からよく使う関節だから、回復には『使わないこと』が一番大事だ」そう言うと、にこやかに颯也の方へ顔を向ける。「ちょうど上司がいるじゃないか。仕事、少し減らしてもらいなさい」「分かってます。こちらで調整します。水辺先生の手首が早く良くなるように」颯也はそう答え、私を見る。その目には、心配と、わずかな後悔が滲んでいた。「優月、ごめん。さっきは俺の配慮が足りなかった」颯也が言っていたのは、さっきの手首を引っ張り合った件だ。「大丈夫ですよ。痛いってほどでもなかったし、そんなに気にしないでください」私は軽く笑って首を振った。けれど、颯也の表情からはまだ罪悪感が消えない。だから私は、少し冗談めかして続けた。「それに、夏目先生がくれたリストサポーターのおかげで、こんなに早く回復してるんですし。むしろお礼を言うべきですね」本心だった。さっきのことを私は本気で気にしていない。二人とも私にとって大切な友人で、普段から本当に良くしてくれている。ただ、あのときは感情が高ぶって、つい私への配慮が抜けただけだ。それに、あの二人が顔を合わせれば揉めるのは、今に始まったことじゃない。実際に怪我をしたわけでもないし、強い痛みも感じていない。だからこそ、颯也にこれ以上引け目を感じてほしくなかった。何より、彼がくれたあの保温機能付
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