私の立ち位置が悪かったから、葵にぶつかってしまったと。八雲はそう言いたいのだろう。しかも彼は、葵に誤解されるのを恐れて、わざわざもう一度強調した。自分は私にまったく興味がない、と。自分と私を結びつけるな、と。「いやいや、水辺先生のせいじゃありませんよ。うちの診察室のドアが狭すぎるんです。今度、院長に頼んで広げてもらいますから。水辺先生、検査に行ってください。松田(まつだ)も向こうで待ってますから」ずっと背景のように座っていた西岡先生が、さすがに見ていられなくなったのか、慌てて立ち上がり、場を収めようとした。「分かりました。すぐに行きます。松島先生の邪魔になるといけませんし」私は指をぎゅっと握りしめ、胸の奥で渦巻く感情を無理やり押し込めた。余計なことは何も言わず、そのまま背を向けて歩き出す。だが、二歩進んだところで足が止まった。振り返って、冷たく言い放つ。「そうだ、松島先生。一つだけはっきりさせておくわ。私も紀戸先生にはまったく興味がない。今後、勝手に私たちを結びつけないでください。私はあなたたちの恋愛ごっこの『駒』じゃないから」言い切ると同時に、私は大股でその場を後にした。「そうだ、優月はあいつにも興味なんてない!松島先生、口は気をつけろよ。デマは犯罪だ!」「うちの優月に近づくな!優月、待って!」背後から、颯也と浩賢が追いかけてくる足音。私は振り返らなかった。それでも、背中に突き刺さるような熱い視線だけは、はっきりと感じていた。その視線から逃げるように、私は歩調を速める。ほとんど小走りになりながら、その場を離れた。けれど私の足取りは、最初の怒りから、いつしか重く沈んでいった。胸の奥から湧き上がるのは、激しい虚しさと自分への嘲りだった。さっきの言い返しなんて、所詮は虚勢に過ぎない。本当は、こんなにも苦しいのに。結局、私は負けている。背後では、浩賢と颯也の言い争いがまだ続いていた。「夏目さん、言葉に気をつけろ。さっき自分で言っただろ、優月は物じゃないって。所有物みたいに扱うな」「俺がいつ物扱いした?俺は彼女を尊重してるし、想ってるし、大事にしてる。優月は俺の宝だ」「なんで君のものになるんだ?」「決まってるだろ。優月は俺の女になる運命なんだ。俺を選ぶ、それが運命なんだ」
続きを読む