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狐が告げるは血晶石《けっしょうせき》、そして扉の鍵の意味

Auteur: 液体猫
last update Dernière mise à jour: 2025-05-25 11:04:00

 鏡の中に映るのは九本の尻尾を持つ狐だ。狐はもふもふとした尻尾をふりながら微笑む。

『──|妾《わらわ》とのお話しは嫌かえ?』

 一声、かわいらしく鳴いた。

 すると|華 閻李《ホゥア イェンリー》が、宙に浮く鏡に腕を伸ばす。鏡をそっと抱きよせ、中にいる狐を見つめた。その瞳はキラキラとしていて、期待のようなものがこめられている。

『ふふ、人の子よ。|妾《わらわ》とお話し、どうかの?』

「うん、いいよ。狐さんとお話しなんて、|滅多《めった》にできないもん」

 その場に腰をおろした。瞬間、膝の上には|白虎《びゃっこ》の|牡丹《ボタン》が乗ってくる。頭の上には|蝙蝠《こうもり》の|躑躅《ツツジ》、左肩は青龍が陣取った。

 子供はそんな動物たちをひと撫でし、|全 思風《チュアン スーファン》に視線をやる。

 彼はため息をついた。愛する子には逆らえないなと、その場に座る。行儀がよいとはいえない姿勢で子供の隣に座れば、鏡を凝視した。

『……おお、怖い怖い。|冥界《めいかい》の王は、心が狭いのおー』

 わざとらしく、よよよと|哀《かな》しむ。けれどすぐに|瞳孔《どうこう》を細め、尻尾をゆらゆらとさせた。

「えっと、それで狐さんの正体は|妲己《だっき》……で、いいんだよね?」

『うむ。そうじゃぞ。|妾《わらわ》は|殷《いん》王朝を滅ぼした、あの|妲己《だっき》じゃ』

 |潔《いさぎよ》し。自らを|妲己《だっき》という|妖狐《ようこ》であると、胸をはった。けれど一瞬のうちに表情は雲っていく。元気よく泳いでいた尻尾はしょぼんとなってしまった。

 子供がどうしたのかと聞けば、|妲己《だっき》は首を左右にふ

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