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奪われた友

Author: 液体猫
last update Last Updated: 2025-06-01 11:13:00

 いんの気が強く、人はおろか、動物ですら滅多めったに近よることはない。近づいたとしても黒き渦にまれ、生気を失い死に至る。生き残ったとしても体中に呪いがかけられ、その日のうちに命がなくなる。

 皮膚は溶け、骨すらも闇にわれてしまう。

 それが誰も場所、そして名すら知らぬ山であった。

「私たち一族は、当主だけがこの山を受けぎます。本来なら、両親に山の秘密などを教えてもわねばならなかったのですが……」

 両親は流行り病にかかり、華 李偉ホゥア リーウェイが物心ついた頃に他界。結局、山の場所と名前のみしか教えてもらえなかったとう。

 音の違う壁に華 李偉ホゥア リーウェイは細長い人差し指を、すっと滑らせていった。

「……本当に、この壁の中には何が埋まっているんでしょう?」

 小首をかしげる様は実に美しい。

 後ろに控えている一族の老若男女たち、そして魏 宇然ウェイ ユーラン。この場にいる誰もが、華 李偉ホゥア リーウェイの神秘的なはかなさに息を飲んだ。

「あ、そうだ。いっその事、掘ってみます?」

「……できるわけなかろう?」

「そんな事はありません! 皆で協力すれば、いつかはきっと!」

「いつかって、いつの事だ?」

「……百年後とか?」

「死んどるわ!」

「えー? 大丈夫ですよー。私は無理ですが、あなたなら根性で生きて……」

「根性で

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