至高神を召喚したいま、朱華は自らのちからで浮遊することができない。だが、誕生日が訪れれば、茜桜が生まれたときに授けてくれたちからを至高神が返却してくれる。神々の約束は絶対である。 そうすれば彼女は自分でこの穴から抜け出すことが可能になるのだと暗に告げ、挑むように菫色の瞳を輝かす。「……一晩か。幽鬼に逆襲されるには充分な時間だと思うがの」 冷静な至高神の応えに、幽鬼が同意する。一糸まとわぬ姿で桜の木にぶら下がったこの状態で一晩をやりすごすというのは朱華が体力を削り、自分がちからを回復させる可能性を高めるだけだと言いたそうに、首を振る。 その瞬間、桜の枝が軋み、ぐらり、と朱華の身体が揺らぐ。里桜の神術で桜の幹を太くはしたものの、もともと桜の木は折れやすい。朱華と未晩がぶら下がって体重をかけているのだからいつぽきりと折れてもおかしくはない。「あけはな!」 悲痛な夜澄の声を無視して、朱華は笑う。 「そうですね。一晩は無理。ならば、あたしがいますぐ終わらせましょう」 そう言って、至高神に目くばせする。天色の瞳は、わかっておると、頷き返す。 「korsokkarne kor kamui posomi sapte――最も尊き神剣よ……」 ――茜桜、帰蝶さま、ごめんなさい。あたしが無知だったから、故郷を滅ぼす原因を作ってしまった。幽鬼を集落に、招いてしまった。 けれど、あたしがしたことは間違っていない……と思う。あたしが甦生術をつかわなかったら、夜澄は……あたしにとってのかけがえのないひとは、いま、ここにいないのだから。 「朱華、何をする気だっ!」 幽鬼が抗うのも気にせず、朱華は長い詠唱を朗々とつづける。白銀の輝きが天から舞い降りる。至高神が宿った里桜の両手には、三日月のような鋭く美しい剣が編み出されていた。 「師匠、ごめんなさい……ありがとう」 幽鬼になってしまった未晩に、朱華は小声で呟く。 突然注がれた言葉と、突き放
Last Updated : 2025-06-21 Read more